最高級プリン
男達に騙された女の子の名前はラキナという。
ラキナはお姉ちゃんが炎帝の森の方に向かってから帰って来ないことで心配になり冒険者ギルドに相談しに行ったらしい。しかし、炎帝の森関係になると依頼料も高く、とてもラキナの持っているお金では足りなかったみたいだ。そもそも今王都の冒険者ギルドで炎帝の森に行く冒険者自体が少ない。
その時受付の綺麗なお姉さんが『コウヅキ』なら直接話を聞いてくれるかもよと教えてくれたらしい。これはきっとパナメラのことだろう。
それから色々な人に『コウヅキ』のことを聞いて回っていたら。さっきの男達に光月一家を紹介するからと言ってお金を請求されてしまったらしい。
「お姉ちゃんはいつも私達のために食べ物を集めてくれていました。ある日親切な方が、沢山の食料と大金をお姉ちゃんにくれたみたいなんです」
(あれ?何か身に覚えがあるような話だな)
俺がそう思っていると、桜火が「大金?」と言って俺をちらりと睨んだ。俺は話を続けるように促した。
「その日からお姉ちゃんは炎帝様の森に食材や、街で売れるものを取りに行くようになりました。親切な人からもらったお金があるんだからそんな危険な場所に行かないでって言ったんですが、お姉ちゃんはそのお金は大事に使わなきゃいけないからその時まで取っておくの、と言って森に行くようになったんです」
俺は狐月と顔を見合わせた。感動して涙がでそうだった。彼女は俺の「大事に使うんだよ」という言葉をしっかり守っていたのだ。それも危険を冒してまで。
「お姉ちゃんはいつも帰る予定を必ず決めて、その通りに帰って来てました。でも今回は日帰りで戻るって言っていたのにまだ帰って来てないんです。
「何日戻って来てないの?」
「今日で3日になります」
「···3日」
普通の子供があの森で3日間過ごすとは考えられない。これはもう手遅れかもしれない。とにかくすぐに森に向かった方がよさそうだ。
「すぐに森に向かおう」
「え!? 探してくれるんですか?」
「もちろん。妹想いのそんな子を放っておける訳がない。いいかな?」
三人とも「当然」というような顔でうなずいてくれた。
ローラにはセリナを呼んでもらって宿までラキナと一緒に戻ってもらうことにした。俺はシオン達を借りる為に焔に念話で連絡を取った。
『焔。聞こえる?』
『聞こえとるよ。ワラワも丁度レンに連絡を取ろうと思ってたところじゃ』
『えっ? そっちも何かあったの?』
焔たちはターラとマリルの為に炎帝の森で狩りをしながら稽古をしていたらしい。なんてタイミングが良い事だと思い、こっちの用件を先に伝えた。
『おい、その女子の名前はメルとか言わんか?』
『なんで知ってるの?』
『森で稽古しとったら、希少な卵を産む鳥に追われとったのを助けたところじゃ』
希少な卵を産む鳥の卵は非常に高価な値段で取引されると言われている。希少な卵を産む鳥は非常に警戒心が強く、卵をずっと守る為、巣からなかなか離れようとしない。見つけること自体も難しいが、見つけても巣から離れないから、そこから持久戦となってしまう。餌を取りに行く一瞬の隙ができるまで巣の近くでずっと待っていなければならないのだ。
メルは日帰りのつもりで森に来たが、偶然希少な卵を産む鳥の巣を見つけてしまったのだ。そしてこの3日間の持久戦の末、隙を見つけて卵を取る事に成功した。卵を取ったまではいいが、すぐに見つかってしまい、追われる結果になってしまったという。
そして希少な卵を産む鳥から逃げてる最中に稽古中の焔達と遭遇し、助けてもらう事になったのだ。
『それじゃあメルは無事なんだね』
『無事も何も、これでしばらく生活できるーとかはしゃぎまくっておるよ』
『ははは』
焔に宿まで連れてきてくれるようにお願いをして念話を切った。宿に帰ろうとしていたローラ達を呼び止め、メルが無事だったことを伝えた。
「ほんとですか!?」
ラキナは泣きながら抱きついてきた。弧月が「あ、こら」と言ってラキナを引き離そうとする。桜火が「まあまあ」と言って狐月をなだめていた。桜火は自分より下の子にはめっぽう優しいお姉さん肌なのだ。
焔達も宿に向かうという事だったので、俺達も一緒に帰ることにした。
宿には俺達のほうが先に着いた。待っている間ラキナから孤児院の話を聞いていた。ラキナ達は孤児院のことをハウスと呼んでいた。
「孤児院の皆もお姉ちゃんが見つかって喜ぶと思います」
「それは良かったよ。孤児院には何人ぐらい住んでるの?」
「今は10人ぐらいです。それと施設長も一緒です」
ラキナ達は施設長のことをママと呼んでいた。大人一人でそれだけの人数の子供を育てるのは無理があるだろう。孤児院は王国が建てた施設と聞くが、運営はどうしているだろうか。テスタに詳しく聞いておけばよかった。
話しているうちに焔達が帰ってきた。
「お姉ちゃん!」
「ラキナ!? どうしてここいるの?」
「お姉ちゃんが帰って来ないから、『コウヅキ』の人達に探してもらおうと思ってたの。そしたら、ちょうど森で見つかったって···。本当に無事でよかった···。う、うわーん」
『焔、メルにラキナのこと伝えてなかったの?』
『サプライズじゃ』
(なんのだよ!)
俺はメルにちゃんと自己紹介をした。メルはラキナがいることより、俺と再開できた事の方が驚いていた。焔に「なんじゃ知り合いだったのか」と言われ、危うく経緯を聞かれそうになったので、再開を祝って宴会をしようと話をすり替えた。
「でも孤児院に待ってる子もいるからどうしよう」
「それならいっそ孤児院に行ってみんなで祝うのはどうでしょう」
ラキナが他の子を気にしていると、ローラがそのように提案してきた。全員一致で孤児院に向かうことになった。
孤児院に向かう途中にはローラが行きたがっていた商店街がある。そこで大量の食材を買い込んでいった。ローラは当初の目的が果たせて満足そうだった。
孤児院に着くとメルが帰ってきたことに全員が喜んでいた。よほど皆に慕われていたのだろう。
ラキナが施設長に俺達のことを伝えると、すぐに挨拶にやってきた。
「この度はうちの子供を助けて頂いて、本当に感謝しております。それと以前にもメルに沢山の食料を分けて頂いたようで、重ねてお礼を申し上げます」
(やばい)
メルに食料やお金を渡したことは狐月しか知らない。俺は桜火達にまた怒られるかと思ったら、何のお咎めもなかった。めずらしいこともあるもんだ。
その日夜は盛大な宴会が行われた。ほとんど子供だから飲み物はジュースだけだった。
子供達はローラが作った料理を見て感動していた。どれも初めて食べるものばかりだったからだ。子供たちが喜んでいるのをみて施設長は涙を流していた。
「本当に感謝いたします。私がもっとしっかりしていれば、子供達にこんな苦労はかけずに済んだのに···」
「気にしないでください。今日はそのことは忘れて一緒に楽しみましょう」
「はい」
俺も子供達に混ざって楽しむことにした。孤児院の事情は聞きたかったけど、この笑顔の子供達の前で施設長の悲しい顔を見せたくなかった。
宴会の最後にローラがデザートを用意した。今日一番の品だ。
俺はメルから希少な卵を産む鳥の卵を相場で買取、それを使ってローラにプリンを作らせたのだ。多分この世界で一番高級なデザートに違いない。
当然みんなが喜んだのは言うまでもないだろう。