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コウヅキ旅団試される

 王城に着いた俺達は今、王国騎士団に囲まれていた。


「武器をおろしなさい。無礼ですよ」


 荷台に隠れていたテスタが出てきて、囲んでいる騎士に向かって言った。すると、囲んでいた騎士達の一か所が開き、そこから一人の騎士が歩いて向かってきた。


「姫さんどこに行ってた? おい、こいつらを連れていけ」


 出てきた騎士は明らかに他の騎士とは雰囲気が違った。テスタのことも『姫さん』などとなれなれしく読んでいた。


「ミラージ、この方達は私をここまで護衛してくださっただけです。悪いのは私です」

「レオはどうした。姫さんの護衛はあいつのはずだったが」

「それは···、炎帝(えんてい)の森に置いてきました」

「何?」


 ミラージは王国騎士団の副総長だった。ミラージはとても厳しく、テスタも昔から怒られていたらしい。テスタの一人行動が過ぎるのでお目付け役でレオを護衛役として付けたのもミラージだった。そんな彼をテスタは苦手としていた。


「城での護衛はどうする気だ。レオに代わる騎士などそうそう見つからんぞ」

「それなら心配ありません。護衛は『コウヅキ旅団』の方に依頼していますから」


 そう言ってテスタはポルンを紹介した。


「こんな子供に護衛が務まるとでも?」

「そんなに言うのなら試してみたら?」


 テスタは自信満々に言って見せた。いつも怒られている仕返しをしようと考えているようだ。ミラージは大声で「ランス!」と言って、部下を呼びつけた。


 ランスはミラージから何か指示を受けるとそのまま剣を抜いてこちらに向かってきた。


「み、ミラージ···。これは一体···?」


 剣を抜いたランスがテスタに向かって突っ込んできて、「姫様ごめん」と言って振り上げた剣を打ち下ろそうとした。


 しかし、その振り下ろす剣よりも早く、ポルンの飛び()りがランスの脇腹(わきばら)炸裂(さくれつ)した。


 ランスはそのまま騎士団の中に吹き飛ばされていった。


 テスタは一瞬何が起きたのか理解できていなかった。ミラージはポルンが護衛として役に立つか試したのだろう。賊が急に姫を(おそ)って来た場合に対処できるかどうか。結果は見ての通りだった。


「チッ。おい! 誰かランスを治癒院まで連れてってやれ!」


 ミラージの指示でランスは治癒院に運ばれていった。


「これで分かりましたか? しばらくの間はこのポルンが私の護衛役として付いてもらいます。正式な王国軍の旅団員なのですから問題もありませんよね? ミラージ副総長」


 テスタは完全に勝ち(ほこ)っていたが、ミラージに(にら)まれて、すぐに大人しくなる。


「護衛の件はいいが、レオはどうする? あいつを森に置いてきたのであろう」

「それなら、心配ありませんよ」


 俺がそう言った瞬間、テスタと話していたミラージの姿が消えた。そのミラージがいつの間に目の前にいて俺に剣を振り下ろしていた。


「キンッ!!」


 今俺の頭上には三本の(やいば)が重なっていた。一つがミラージ、一つが焔、もう一つが桜火のものだった。そしてミラージの喉元には狐月の新しい武器の鉄扇(てつせん)が向けられていた。


「お主、いきなりなんじゃ?」

「お兄ちゃんに何するの?」

「若様、この方処分してもいいですか? いいですよね?」

(待て待て狐月!)


「ずいぶんと可愛いのに守られてるじゃないか。お前、さっきからずっと平然と見ていたが、なぜ今も冷静でいられる」

「別にさっきから誰も人に危害を加えようとしてませんよね。だから別に気にするようなことではないのかなと思っていただけです」

「はっはっはっ! お前面白いな! 気に入ったよ!」


ミラージは笑いながら剣を引き、茶番だったことを()びた。


「悪いがこの変わった恰好をした嬢ちゃんに武器を降ろすように言ってくれないか。この嬢ちゃんの殺気だけ本気(マジ)だから。それと遠くで何やら物騒なもので狙っているのもいる奴もな」


 ほお、セリナのことも気づいていたのか。さすが副総長。セリナは王都に入る直前で『月光(げっこう)』としての行動に戻っていて、遠くの建物の上から弓矢でミラージを狙っていたのだ。俺は「大丈夫」という意味を込めて手を挙げると殺気は消えた。


「狐月、せっかく綺麗な着物を着てるんだからそんなことしてたらもったいないよ」

「綺麗だなんてそんな」

(いや着物のことを言ったんだが。まあ狐月も綺麗だけど)


「最近お兄ちゃん、狐月さんに甘くない?」

「桜火、ワラワなんぞあんなこと言われたこともないぞ」


 さっきまで戦闘モードだったのが、ただの女の子達に変わっていた。ミラージもそれを見てあっけに取られていた。


「改めて数々の非礼を詫びよう。俺は王国騎士団副総長を任されているミラージ・ファレルだ。それから今回、炎帝の森の視察での我らが王女テスタロッサ様の護衛も感謝する」

「え?」


 どうやらミラージはギルマスのルーカスから全て聞いていたようだ。炎帝の森へ行ける実力と、新しい国王軍の旅団として設立された『コウヅキ旅団』の実力を図る為に今回の茶番を用意したらしい。


「これでも王国軍をまとめる立場なので『コウヅキ旅団』の実力を把握しておきたかったのだ。本当に済まない」

「気にしないでください。別に誰か怪我した訳ではないのですから」

「いや、うちの兵士が一名重症だ。はっはっはっ!」


 ミラージはそう言って俺の肩をバンバンと叩いた。豪快な男だ。それから、話を聞くと(おどろ)きの事実が分かった。ミラージとレオは兄弟だったのだ。もちろんミラージが兄だ。


「レオが心配ないとはどういう事だ。炎帝の森に置いてきたんだろう?」

「はい、レオさんをもう少し強くしたいとテスタさん···いえテスタロッサ様が言うので、僕達の仲間と森で稽古してるんです」

「へぇ、姫さんも大胆な決断をしたもんだ。あのレオが強くなるのか? そいつは楽しみだ!」


 弟が成長しようと頑張っていることを知りミラージは喜んでいた。最近はテスタの護衛(おもり)で稽古がおろそかになっていたからだ。


「色々誤解が解けたようで何よりだわ」

「姫さんにはまだ聞かなきゃいけない事がありますので、これからたっぷり付き合ってもらいます」

「ヒィッ!」


 ミラージに(にら)まれたテスタは(ちぢ)こまってしまった。


「そちらの旅団員を姫さんの護衛としてお借りしても本当に良いのか?」

「はい。ポルンというので、よろしくお願いします。頼んだよポルン」

「はい!」


 ポルンはテスタと一緒に、ミラージの部下に連れられて王城に入って行った。


「それから、これは姫さんの護衛の報酬だ」


 そう言ってミラージは報酬が入った巾着を渡してくれた。忘れていたが炎帝の森の視察は一応ギルドからの特別クエスト扱いだったのだ。テスタが直接依頼してきたからすっかり忘れていた。


 俺が受け取るとすぐに桜火に回収された。俺は別にねこばばしたことなど一度もない。


 後から知ったが、報酬は白金貨300枚だった。あの時『ソルティア』のパーティに引き渡さなくて本当に良かった。


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