白金貨の誘惑
俺達は順調に森を進んでいた。間もなく森を抜けそうな時に、遠くの方から木が倒れるような音がした。誰かが魔物と戦っているのかもしれない。
森を抜けると、百メートルぐらい先で、魔物に追われて森を抜け出してきた冒険者達が、走って逃げているのが見えた。
「あれ結構やばくない?」
「あれは『死を呼ぶ大鳥』じゃな。ほっといたら死ぬのぉ」
「あっ! 一人捕まった」
桜火がのんきな声を上げる。5人パーティのうち、一番後ろにいた男が、死を呼ぶ大鳥の足で鷲づかみにされていた。あのまま上空に飛ばれたら間違いなく死ぬだろう。
俺は迷うことなく馬車から弓を出して、死を呼ぶ大鳥に狙いを定めた。
「レン」
「分かってるよ」
焔に加減するように言われた。お前にだけは言われたくなかった。
集中し、大きく弓を引いた。百メートル近くある。加減しろと言われても限度がある。とりあえず足元を狙って矢を放った。
矢は「ヒュン!!」と音を出し、一直線で飛んでいく。そのまま矢は死を呼ぶ大鳥の足を貫通していった。死を呼ぶ大鳥の悲鳴が響いた。
男を掴んでいた足はとても弓矢で打たれたようには見えなかった。片方の足のほとんどは吹き飛んでいた。その勢いで男も地上に落下する。どうやら無事に生きていたようだ。
死を呼ぶ大鳥は片足を失ってその場でホバリングしていた。こっちに標的を変えたらしく向きを変えて近づいてきた。
「セリナさん、あれ見せてくれる?」
「かしこまりました」
セリナはレオの代わりに、王都までテスタの護衛を務めることになっていた。俺はセリナに弓を渡した。
光月村の道場の裏には弓道場もついていて、俺は村の女性で剣を扱えない人全員に弓を覚えさせていたのだ。
この世界の弓のレベルは非常に低い。集中して矢を射るなんてやってきてもいない。せいぜい的を狙った練習ぐらいだった。この世界で気を集中させるという事は大きな意味を持っている。俺がさっき焔に注意されたのにも理由があるのだ。
気を集中させて矢を放ったり、剣を振ったりすると通常以上の威力が出てしまう。これは俺に限らず、この世界の人がちゃんと気のコントロールを覚えれば、通常以上の威力を出すことができるのだ。
ただその方法をこの世界の人は誰も知らなかっただけなのだ。
セリナは気を集中させてから弓を引いた。しかしそこで、俺とは違う変化が起きる。矢の先端に風の渦が発生し、集束していったのだ。
セリナが矢を放つと轟音と共に風を纏った矢が飛んでいった。その矢は死を呼ぶ大鳥に直撃し、胴体に大きな穴を開けて貫通していった。スイブルの町で見た風魔法とは段違いの威力だった。
死を呼ぶ大鳥は即死だったろう。そのまま地上に落下してピクリとも動かなかった。
「魔法が加わるとあんなにすごいんだね」
「ありがとうございます」
「若様が放たれた矢もすごかったです。あれが魔法無しとは信じられません」
狐月が絶賛してくれた。素直に嬉しい。気の扱いに関しては自信がある。むしろ現世ではその世界のトップに立っていたのだから。
ちなみに、焔と桜火は弓は苦手だった。
みんなでワイワイやっていたら、逃げていた冒険者たちが御礼にやってきた。
「さっきは危ないところ助けてくれてありがとうございました。私は冒険者でパーティ『ソルティア』のリーダーをやってるクリスと言います」
パーティ『ソルティア』はリーダーのクリス、シーフのアイリーン、魔導士のモリン、剣士のマイル、タンクのパラックの5人パーティだった。アイリーンとモリンは綺麗な大人の女性だったがマイルに関してはルカと同様にどちらか判別できなかった。
「森で何をやっていたんですか?」
興味本位で聞いてみた。
「今王都で特別クエストが出されているんです。どうやら、王女のテスタロッサ様が炎帝の森に行ったきり帰って来てないと大騒ぎなんですよ。「王女を見つけてこい」って、それでクエスト報酬の高さに目がくらんであのざまです」
俺達は一斉にフードで顔を隠している王女をにらんだ。
「テスタさんどういう事ですか!」
「ごめんなさい。二、三日で戻ると伝えていたのですが、光月村があまりにも居心地が良くてつい···」
みんなで小声でテスタを尋問する。
「あのーどうかされました?」
「いえいえ、何でもありません。ちなみにクエスト報酬はおいくらなんですか?」
「白金貨300枚です」
「えっ!?」
あまりの金額に一同固まってしまった。これはかなりの大ごとだ。しかし、俺はひらめいてしまった。ここで緊急家族会議が小声で行われた。
「おい白金貨300枚だってよ。どうする?」俺
「どうするって何を言ってるのお兄ちゃん」桜火
「いや、ここで『ソルティア』にテスタさんを引き渡すってのはどう? それで山分けってどう?」俺
「なるほど! 名案じゃ!」焔
「さすがです。若様」狐月
「ちょっと皆さん何を言ってるんですか?」テスタ
「元はといえばテスタ様がいけないのでは···」ローラ
「そんな···ローラさんまで」テスタ
「でもパナメラさんとギルマスはこのこと知ってるんじゃないんですか?」ルカ
「「「ダメかー」」」全員
家族会議は何も聞かなかったことにして、こっそりテスタを王城まで送り届けることでまとまった。『ソルティア』とはその場で別れた。死を呼ぶ大鳥の素材はどうするのか聞かれたが、急いでいたので譲ってあげることにした。今度あったらご馳走してもらおう。
俺達はすぐにでも王城にテスタを届けなければならなくなった。このままだと、かなりの冒険者が炎帝の森にチャレンジし兼ねない。
王都まではすぐに着いた。問題はレオがいない状態でどうやって入国するかだ。出来れば馬車の荷台に隠したまま王城まで行きたい。セリナに頼んで別のルートから入っても良いのだが見つかったらそれこそ大ごとになる。
「お兄ちゃんこれの出番じゃない?」
桜火はそう言うと、小さな腕章を出した。王国軍旅団の証だった。
「なるほどその手があったか」
旅団として入国すれば荷を確かめられることもない。ましてや俺達は全員フリーパスの許可まで下りている。これは桜火が旅団に入る条件で手に入れた特権だ。旅団員の腕章には光月の紋がつけられている。これで『コウヅキ旅団』として入国することが可能となった。
門に着くと衛兵に止められた。俺達が腕章を見せると。「失礼しました! お通りください!」と言われあっさり通してくれた。門を通ってるとき「あれが噂の光月一家か」と話している声が聞こえた。光月一家? いつの間にそんな風に呼ばれてたの?
とりあえず無事に入国できた。あとはテスタを王城に届けるだけだった。しかし、そんな簡単な話ではなかったみたいだった。
王城に着くと、王国騎士団に囲まれてしまったのだ。
(おいおいテスタさん、どうするのこれ?)




