王国スキャンダル
俺達は今、光月村の迎賓館にいた。
テスタ達と炎帝の話をしていたのだが、話題がもう一つの目的である、人探しの話へと移った時に事件は起きた。
「そういえば、テスタさんは誰を探しにこの森に来たかったんですか?」
俺は思い出したように聞いた。
「これは口外しないで頂きたいのですが、···探しているのは私の兄です」
「「「······」」」
「「「えぇーーーー!!」」」
全員が驚きの声を上げた。エルミナ王国では、テスタ以外に世継ぎが生まれていたなんて話は聞いたことが無かった。テスタの話が本当であったら、王位継承権を持った第一王子が存在することになる。
「待ってください。国王の子供はテスタさん以外はいらっしゃらないはず。少なくとそんな噂も聞いたことがありません」
セリナが即座に反応した。今では王国内の情報を集めて回っている月光の頭である。知らない情報があってはならない。そう自負していたのかもしれない。
「私も詳しくは知らないのです。ただ王城には私が生まれた時から一人の男の子が隔離されていました。私がそれを知ったのは、5歳の時でした。私は一人で王城内を散策していたら、その男の子とたまたま出会ってしまったのです」
***
【別視点】テスタ 昔の記憶
その男の子とは定期的に会っていた。会うと必ず話すことが、始まりの世界についてだった。私はその話に夢中になり、いつしかエルミナ王国を含め、世界がもう一度争いの無い世界にならないか夢を見るようになった。
「ねぇ、あなたはなぜ世界についてそこまで詳しいの?」
「僕はなんだって知っているよ。この世界が始まって今日に至るまで全部ね」
それはどうしてなのか聞くといつもはぐらかされてしまっていた。ただ始まりの世界のことについてはいつも楽しそうに話してくれた。
「テスタ。お願いがあるんだ」
「なぁに?」
「君が女王になったら、この世界をもう一度、始まりの世界のようにしてくれないかな」
「あなたは手伝ってくれないの?」
「僕はここから出られないからね」
私はいつも楽しく話をしていたけど、この話題だけは避けていた。彼はいったい誰で、なぜ隔離されているのか。聞くのが怖かった。聞いたら最後、こうやって会うことが出来ないのではないか。そう思っていた。
「それなら、私が女王になったら、この世界を始まりの世界にしてあげる。そして、あなたもここから出してあげるから」
「ふふふ。ありがとう。テスタ」
私はそれから、宰相のザイルに頼んで内政の勉強を始めた。まずはこの国から変えなければいけないと思ったからだ。
それからも定期的に男の子とも国のことで話すことにした。彼は内政のことも良く知っていた。何が良くて何が悪いか、どの貴族と話すよりもよっぽど有意義な時間だった。
年を重ねるにつれて、一人での行動がしづらくなった。どこに行くにしてもメイドがついてくる。中々男の子に会うことが出来なくなった。
あっという間に私は12歳になった。今では内政にも口を出すようになった。何人かの貴族も私を支持してくれるようにもなった。
メイドに代わり、護衛騎士団長のレオナルド・ファレルがそばにつくようになった。レオだけは引き離すことが出来なかったので、男の子のことを話した。
初めは頑なに許してくれなかったのに、始まりの世界について話してあげると、レオも共感してくれて、男の子に会うことを許してくれた。ただし、護衛は譲らないと一歩も引かなかったので連れて行くことになった。
「やぁ。あなたがテスタの新しい護衛騎士団長ですか。初めまして」
レオは特に挨拶もなしに、私達に背を向け入り口の方を向いた。きっと話の邪魔をしないよう配慮してくれたのだろう。
そうやって、何度かレオを同席させて会いに来ていたら、男の子が帰り際にレオのことを呼び止めた。私に聞こえない声で何かを話していた。
「じゃあね。また来るわね」
「···テスタ。約束待ってるからね」
そんなに会うのが楽しみなのかと私は思った。だがその言葉の意味を知ったのは数日後のことだった。
数日後のことだ。城に賊が侵入したと騒ぎになった。私の部屋にレオの部下が報告しに入ってきてレオに耳打ちしてる。
「姫様。大変です」
私はそれを聞いて、すぐにレオと部屋を飛び出した。向かった先は男の子の部屋だった。
部屋につくといつもの男の子の姿が無くなっていた。
レオの部下の話だと。賊らしき者が銀髪の少年を連れ去っているところを目撃したとの情報が上がってるらしかった。銀髪の少年。男の子のことで間違いない。彼は|拐われてしまったのだ。
すぐに追うようにレオに指示を出した。しかし、レオは動くことが出来なかった。なぜなら、王命により、この事件に関して箝口令がひかれていたからだ。誰一人この事件に関して口にしすることができなかった。
私は納得がいかず、一人泣いていたら、レオが私の前に跪いて男の子の真実について語ってくれた。
「姫様。あの少年は···姫様の実の兄上様です」
***
「兄が拐われた日にレオから兄のことを知りました。最後に兄にあった日、レオは兄からそのこと伝えられたと言ってました。名はライナス・エルミナと」
俺達は今とんでもない話を聞かされているのではないだろうか。これが公になれば王国中が騒ぎになる。簡単に話していいことではない。
「そんなことここで話して良いのですか?」
「兄はいつも言ってました。何かあれば炎帝様を頼るといいと。それにここの方々は何も疑うことなく、快く私達を受け入れてくれました。隠し事をしながら、始まりの世界を創ることなど出来ません」
俺達はテスタの覚悟を見た気がした。ここにいる全員が彼女の想いに惹かれているに違いない。何とかライナスを見つけることは出来ないのだろうか。
「ちなみにライナスさんが拐われたのはいつ頃ですか?」
「炎帝の森で災害があった少し前です」
(おや? それって···)
テスタとレオ以外が俺を見る。
「もしかして···俺?」