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王国軍旅団長の任命

「「「桜火(おうか)、剣術大会優勝おめでとう!」」」


 今日は宿の食堂で、桜火の祝勝会が行なわれていた。宿の亭主に話したら「そりゃめでたい」と言って店を貸し切りにしてくれたのだ。


 ローラが作ってくれた料理が振る舞われた。その日宿に泊まるお客さんも一緒に参加してもらった。


「桜火さんすごかったです。特に決勝戦での焔···ホームラさんの剣技を全て返していたのはお見事でした」

(もう焔でいいよ。しかもホームラも違うからね)


 狐月(こげつ)は桜火を絶賛していた。桜火は「てへへ」と言って照れている。戦いに身を投じていない時の桜火はただの女の子にしか見えない。今では可愛い俺の妹だ。


 俺が捕まっていた時にそばにいて怯えていた女の子と同一人物とはとても思えない。


 祝勝会は大いに盛り上がった。宿の客が初めてのカレーライスを食べて興奮していた。焔も最初は機嫌が悪かったが、ローラの料理を食べているうちにいつもの焔に戻っていた。


 祝勝会も終わり。今後の方針を決める会議を始めた。俺はこれを勝手に家族会議と呼んでいる。


「さて今後の方針を話す前に、今回の剣術大会の成果を発表したいと思う。まずは桜火。優勝おめでとう」

「えへへ。ありがとう。お兄ちゃん」

「皆も頑張っていたと思うよ。これからも精進して頑張っていこうね」

「「はい師匠!」」


 ポルンとルカが元気に答える。


「三人には焔に勝てるぐらい強くなってもらいたい。今のままじゃ焔の本気には敵わないからね。当面の目標は焔になるかな」


 予想外の俺の言葉に焔は急に機嫌がよくなった。


「まあ、頑張るがよい」

(((分かりやすいなー。)))


「そして、大会の優勝賞金の白金貨10枚だ!」


 テーブルに白く輝く白金貨が並ぶ。全員が「おお!」と言って白金貨を覗く。俺は巾着に入れて懐にしまおうとした。


「待て」


 しまおうとした手を焔に止められた。


「後でセリナを呼ぶ。それまで桜火に渡しておくのじゃ」

「お兄ちゃんが持ってるとすぐ全部配っちゃうからね」

(配るってなんだよ!)


 そう言って桜火に巾着を取り上げられた。しかし、桜火達はまだ知らない。俺がもう一つの巾着を持っていることを。まあそれは後ほど語るとしよう。


 優勝の特典は白金貨だけではなかった。桜火は冒険者ギルドからの特典として『S』ランクへの飛び級となったのだ。


「じゃーん」


 桜火がギルドカードを掲げた。そこにはランク『S』と記載されていた。皆はランクに注目していたが、俺は別のところに目がいった。


「レベル62!? 何それ! いつの間にそんなに上がったの!?」

「え? 今回ギルドカードの更新したらこんなに上がってたよ」

(なにーーーーー!)


「そ、それは良かったな桜火」


 俺が冷静を装おうとしていたら隣で焔が笑いをこらえていた。悔しいが今は放っておこう。


「特典はこんなもんかなあ。旅団長の件は断ったんでしょ?」

「そのことなんだけど···」


 桜火が言いづらそうにもじもじしている。何か嫌な予感しかしない。しかし、桜火の口から出た内容は俺の予想をはるかに上回った。


「はぁ!? 俺を旅団長に任命した!?」

「そう! コウヅキ旅団の旅団長コウヅキレン! どう? お兄ちゃん」


 どうもこうも無かった。なぜそんなことになるのか不思議でしょうがなかった。


 桜火は初め、旅団長の件を断ったそうだ。しかし王国側はそれを受け入れてくれなかった。今回の剣術大会は軍の戦力を高める目的もあったからだ。その優勝者が旅団長の地位を放棄するなんて誰も思っていなかった。


 多くの実力を超える力を持ちながら、それを放置するほど王国に余裕はなかったのだ。あまりにしつこかったので、桜火は条件を出したらしい。その条件は以下の通りだった。



―――――――――――――――――――


・旅団員は種族を問わず自由に選べる事

・旅団員は王都への入国を自由にする事

・旅団員の中から旅団長を任命する権利

・旅団長名の秘匿

・戦争への不参加


―――――――――――――――――――



 この条件さえ飲めば、旅団への入団と、戦争以外の王国側の要請にはできる限り応えると言ったらしい。さらに、大会に参加したルカとポルンがもれなくついてくると加えた。


 これには王国側も飛びついた。元々ギルド出向の旅団長は戦争不参加の権利を持っている。王国側が引っかかっていたのは、旅団員の王都への入国を自由にするという条文だけだった。


 しかし、これも、不正入国を厳しくしているだけであって、エルミナ王国は種族軽視をしているわけではなかった。王国からは、旅団員の証だけしっかり作るようにと指示が出るだけで済んだ。


 つまり全面的に桜火の要請が通ってしまったのだ。


「これで光月村の住人は全員許可を取らなくても入国できるでしょ? どうかな? お兄ちゃん」


 桜火は目をキラキラさせている。目が「褒めて褒めて」と訴えていた。確かに光月村の住人が、自由に入国できるのは大きい。条件を提案しなければありえなかったことだ。桜火は期待以上の結果を出したのだ。俺も桜火の期待に応えなければならない。


「すごいじゃないか桜火。これで皆が自由に王都に来れるな。桜火のおかげだよ」

「わーい」


 素直に喜ぶ桜火。悪い気はしない。むしろ嬉しく思う。


「でも、なんで俺が旅団長なの? 焔でも、桜火でも良くない?」

「だってお兄ちゃん。皆の稽古見たいんじゃないの?」

「え?」


 俺に稲妻が走った。現世で多くの門弟の稽古を見ていたことを思い出した。指導者としての血が騒ぐ。妹よ、なんて殺し文句を思いつくのだ。そんなことを言われたら断れないじゃないか。


「お、桜火がそう言うんじゃしょうがないな」

「やったー!」

「師匠、旅団長になるんですか? 俺も入ります!」

「あのー若様、私も入れるのでしょうか?」

「私はルカ様が入るなら、入ります」

「ええ! 僕!?」

「料理担当も必要ですね」


 皆が入団することを勝手に決めていた。そんな皆を焔は微笑ましく見ていた。

 

『焔はどう思う?』

『良いではないか。ワラワはレンについていくよ』

『そっか。ありがとう』


 こうして、エルミナ王国に『コウヅキ旅団』が誕生した。しかし、桜火の旅団長名秘匿の条文により、この旅団に関しては多くの謎に包まれていたままだった。


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