つかの間の幸せ
この話は閑話になります。
本編の続きは1月22日12時頃投稿致します。
話はエルミナ王国剣術大会より少し前に遡ります。
【エルミナ王国剣術大会前 某日】
今日は俺にとって大事な一日である。焔と桜火達は剣術大会に向けて稽古に出かけている。
「若様、今日は稽古について行かないのですか?」
「あ、うん。今日はちょっと別件の調査があって。少し出掛けてくるよ」
「では、私もお供いたします」
まずい。今日は狐月について来られても困ってしまう。何とかしなければ。
「今日はローラさんに、新しい料理を教えてあるから狐月はそっちを手伝ってくれないかな?」
「そうですか。それは残念です。若様のお供をしたかったのですが···」
ごめんよ狐月。俺は純粋な狐月を騙しているようで心が痛んだ。
「ごめんね。すぐに帰ってくるから待っててね」
「かしこまりました」
俺は後ろ髪をひかれる思いで宿を出た。
しかし、気持ちを切り替えよう。今日はあまり機会のない特別な日だった。冒険者ギルドの受付嬢のパナメラと、昼食デートの約束をしていたのだ。
桜火や狐月に知られれば必ずついて来るだろう。焔に関しては論外だった。
この世界では子供扱いされているが、現世ではいい大人だった。美しい女性からの食事の誘いがあれば悪い気はしない。決してやましい気持ちがある訳ではないことは分かってもらいたい。
そう思いながら俺は軽くスキップをしていた。
待ち合わせの場所に着くと、パナメラが既に待っていた。いつものギルドの制服ではなく、淡いグリーンを基調としたワンピースを着ていた。
「お待たせしちゃってすみません」
「こんにちはレン君。私も今来たところよ」
「今日は髪をおろしてるんですね」
「普段はおろしてるんだぁ。変かな?」
「いえ。とても綺麗ですよ」
お世辞ではなくパナメラはどこかのお嬢様なのかと思うほどに綺麗だった。パナメラは「ありがとう」と言って頬を赤く染める。軽く挨拶を済ませると、パナメラが予約しているお店に案内してくれた。
パナメラが連れて行ってくれたお店は、新鮮な魚料理を提供してくれるお店だった。海から遠く離れた王都では、この店以外では魚料理は食べられないと言う。
料理は全ておいしかった。パナメラとこうして話すのは初めてだった。昔のことを聞かれたが、拐われる前の記憶がないから少し困った。パナメラも言いづらそうにしていたのを察したのか自然に会話をそらしてくれた。さすが大人の女性だ。
こうして話していると、異世界だという事を忘れてしまいそうだった。パナメラとの時間はあっという間に過ぎていった。
「レン君今日は付き合ってくれてありがとうね」
「こちらこそ、今日はとても楽しかったです。次は僕に招待させてください」
「本当? 楽しみにしてるからね。約束よ」
現世だったから勘違いしていただろう。こんな男の子に向けられる大人の恋愛感情などある訳ない。
「そうだ。大事なことを伝えるの忘れてた」
帰る途中でパナメラが思い出したように話し出した。
「前にお願いしていた依頼の件で、今度依頼主が会いたいと言ってるんだけど大丈夫かな?」
「ええもちろん。剣術大会が終わればいつでも大丈夫ですよ」
「良かった。それじゃこれ。前払いの報酬ね。準備とかもあるだろうからって依頼主から預かってたの。渡しておくね」
俺はパナメラから大金貨10枚の入った巾着を受け取った。その後、依頼主と会う日程を決めて今日の昼食デートは終わった。
俺は今日幸せな一日を過ごしてしまった。そう思っていたのは一瞬だった。
宿に着くと皆が既に帰ってきてた。
「し、師匠お帰りなさい」
「さ、さあルカ、俺達は部屋に戻ってようぜ」
ポルンとルカが慌てて部屋に戻っていった。ローラとシャルティアは厨房の中にそそくさと入って行く。そして、テーブルに焔と桜火、そして、狐月が座って待っていた。
「皆どうしたの?」
明らかに空気がおかしい。俺の第六感は危険を察知していた。
「お兄ちゃん。今日はどこに行ってたの?」
「え?」
「若様。調査とは一体何の調査で?」
「え?」
「ワラワに黙って何を食うた?」
「は?」
焔が何を言っているのか意味が分からなかったが、桜火と狐月は明らかに今日何をしていたか知っている。何故だ。俺は一つのミスも犯していないはず。そもそも何も悪いことはしていないのにこの重圧はなんだ。
俺は思考を巡らせた。必死に考えていたら桜火の後ろに誰かいるのに気づいた。そこには月光専用の服を着て頭に小さなモフモフを付けた女の子が隠れていた。
(お前かあぁぁ!)
桜火の後ろにいたのはトゥカだった。手には骨付き肉を持っている。俺と目が合い肉を後ろに隠す。桜火に餌付けされていたようだ。今回の情報提供者はトゥカに違いない。
誰にもつけられていないか細心の注意を払っていたのに、それをかいくぐって尾行してきたのだろう。恐るべし月光一の隠密。全くトゥカに気づくことが出来なかった。俺は異世界初の敗北を味わったのである。
その晩、俺は三人にずっと問い詰められていた。結局、俺は桜火と狐月とは別の日にデートをすることになり、焔には今日行った店に連れて行くことで話がついた。
俺は隠し事はもうやめようと心に決めた。
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