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エルミナ王国剣術大会④ 同門対決

 エルミナ王国剣術大会は、既に本戦が始まっていた。予選を勝ち抜いた十名の中には、それなりに強そうな者が残っていた。


 第一試合のアナウンスが入った。


「初戦から桜火の出番か」

「若様。桜火さんの相手は先ほどの騎士さんじゃないでしょうか?」

「あ、本当だ。確かロドルフ隊長とか言ってたね。さすがに本戦にもなると隊長クラスが出てくるかあ」

「やはり強いのでしょうか?」

「いや、単純な剣術だけなら、桜火の敵じゃないかな。ポルンとルカでも相手にならないと思うよ」

「何にがそんなに違うのでしょうか? 予選の時もそうでしたが、桜火さん達の強さは異常だと思うのですが」


 狐月(こげつ)がぐいぐい質問してくる。初めて桜火達の戦いを見た狐月は、あまりの力の差に驚きを隠せていなかった。


 俺にはいくつか心当たりがあった。一つは、この世界の武術は現世に比べると、技術や知識が劣っているという事だ。現世の武術を取り入れるだけで、例えどんな子供でも、大人に勝つことなど容易いだろう。


 もう一つは魔法の存在だ。この世界には魔法が存在しているため、武術だけを極めるという考えが中々生まれないのである。現世では魔法がない代わり、己の肉体だけで何ができるかを追及し続けてきたのだ。その歴史は長い。


 それと、焔と話していて気づいたことは、この世界の人は魔力を感じることができるということだ。そして俺にはその魔力を感じることが出来ない。しかし、俺には気を感じることができる。焔は気配と言った方が分かりやすいと言っていた。


 俺は、この世界の人が気を感じることが出来ないのであれば、それを自由に感じ、扱うことができれば、この世界に存在しない強さが生まれるのではないかという仮説を立てたのだ。


 その気を扱う稽古にピッタリだったのが、桜火とポルンとルカがやっていた特別稽古だった。結果はすぐに出た。桜火の村の子供返り討ち事件だった。この三人には徹底的に気を扱う為の稽古を続けさせた。多分それが今の桜火達の強さの秘密だ。


「狐月もやってみる? 一ヶ月も稽古すればすぐに分かるよ」

「是非! よろしくお願いいたします」


 狐月はなぜかすごく嬉しそうだ。そんなに強くなりたかったのだろうか。


 狐月と話していたら試合が始まっていた。さすがに大隊長ともなると安易に攻めては来なかった。間合いを取り、ちゃんと隙をうかがっていた。


 珍しく先に動いたのは桜火の方だった、一瞬で間合いを詰めて、そのままの勢いで木刀を左の腰の下から斜め上方に切り上げた。ロドルフはその一撃を後方に下がりながら剣で防いだ。


 そこからだった。桜火の試すような一撃で、これ以上自由に攻撃させるのは危険、と判断したロドルフが攻撃に転じたのだ。


 ロドルフの剣が連続して桜火を襲った。魔法で身体強化をしているのだろう。大会では攻撃魔法は禁じられているが、身体強化系の魔法は許されていた。


 桜火は予選では一度も木刀を受けに使わなかったが、ロドルフの剣技の速さに対応するため、何度か木刀で剣を受け躱していた。


 今まで一方的な桜火の戦い方しか見てない観客は、木刀を使わせているロドルフに対し、歓声を送っている。そして、木刀は使いつつも、ロドルフの剣技を全て受け躱し続けている桜火にも大歓声が飛んだ。


 桜火はこの間にも、何かを学びながら戦っているのだろう。自分に奢らず、相手から学べるものは全て学ぼうとしている。今まで桜火の稽古を見てきた俺だから分かる。桜火は今も強くなろうとしているのだ。本当に桜火は大事なものを持っていると俺は思った。


 十分にロドルフの力を出し切ったのであろう。桜火が学びを止め決着をつけに入った。


 ロドルフの剣を大きくはじき、体制が崩れたロドルフの脇腹に一撃を放つ。これが小太刀だったら胴体が真っ二つになっていただろう。治癒魔導士が何人いても無駄だ。確実に死ぬ。これが今大会で木刀を使わせている理由だ。


 大分手加減をしたのか、ロドルフは気絶することなく脇腹を抑えてうずくまっていた。桜火の勝利が決定するアナウンスが入る。


 それと同時に大歓声が上がった。


 桜火はロドルフに近づき手を差し出した。何やら言葉を交わしている。お互い笑顔で握手し、第一試合が終了した。観客はその姿を見て、二人に大きな拍手を送っていた。


 桜火の試合が終わり、第二試合のアナウンスが入る。ルカの名前が上がると大歓声が起こり、例の掛け声が始まった。


「「勇者様! 勇者様!」」


 シャルティアも負けじと声を出すが、さすがに大衆には勝てなかった。


「あちゃー、ここでルカが来ちゃったか」

「何か問題でも?」


 狐月が疑問に思って聞いてきた。本戦はトーナメント戦になっている。第一試合が桜火だったから、第二試合のルカが勝ったとしても、次の試合で桜火との対戦が待っているのだ。


 出来れば決勝で見たいと思ってた対戦だけに、こんな序盤に戦うのはもったいない気がした。


「若様。このトーナメントだと、第五試合のお二人だけ一度勝つだけで決勝になっていますが、どういうことなのでしょうか?」

「この二人ね。予選でも他を圧倒してたからね。強いことが認められて対戦免除ってところかな。主催者側に何か考えがあるのかもね」

「何だかずるいですね」

「ははは。そうだね」


 狐月の素直な感想が、何だか可愛く思えた。でも狐月が言うように少しずるい気がしてきた。強さで言ったら桜火とルカでも十分匹敵する。あの二人に何があるのだろうか。片方はポルンを下した仮面の選手だった。


 色々考えていたらルカの試合が終わっていた。試合開始直後、相手が速攻を仕掛けて来た。意外に鋭い攻撃だったので、ルカは加減を間違えてしまい相手の頭に木刀を打ち込んでしまった。


 とっさに「ご、ごめんなさい」と言って近寄るが、出血がひどい。すぐに治癒魔導士が駆け寄って来て、大きく腕でバッテンを作る。ドクターストップだ。


 同時にルカの勝利を告げるアナウンスが入った。これで桜火とルカの対戦が決定した。


 続く第三、第四試合が終わり、例の二人の試合があると思っていたら、どうやら二人の試合は準決勝で行われるみたいだ。


 アナウンスが入り、準々決勝の始まりが告げられる。桜火とルカの名前が上がると会場は今日一番の盛り上がりを見せる。今大会のダークホースの二人が揃えばそうなるのも無理はない。実質決勝と言っても過言ではない。二人の強さを知ってる俺もそう思っている。


「ポルンはどう? 最近桜火と稽古してみて何か変わった?」

「はい。村を出て魔物と戦うようになって、より実践的に気配を感じられるようになりました。それでも桜火には全然届かないと感じてます。ただ、ルカはあの特別稽古で桜火に一回勝ってるんですよ」

「えっ!? そうなの? 知らなかった。もっと喜んで報告が来ると思ってた」

「ルカが内緒にしてって言うんです。たった一回じゃまぐれだからって」


 この三人が一緒に育ったのは本当に良かった。ポルンはたまに慢心するが、桜火とルカにはそれがない。三人で切磋琢磨し向上し続けている。良い成長には良い環境が不可欠なのだ。


 この試合は二人にとっては、自分の力を高める為の稽古であり、ルカにとっては一つの挑戦になるだろう。三人には徹底して特別稽古しかさせていない。目隠しをしないで、戦うのは初めてだろう。桜火もルカも普段の表情とは違って、かなり集中している。


「シャルは応援しないの?」

「はい、今は邪魔しちゃいけないような気がします」


 シャルティアはそう言って姿勢を正し、試合に集中している。まるで自分の旦那を見守る奥様のようだ。なんか羨ましいなルカ。


 試合が始まると、桜火とルカのにらみ合いが続いた。観客も声を出さずに見守る。いや、声を出せないと言った方が正しいのかもしれない。それほどに二人の気迫が会場に伝わっているのだ。何かの合図でその均衡が壊れかねないほどに。誰も邪魔をしたくないのだろう。


 桜火が先に動くと思っていたが、予想に反してルカの方が先に動いた。瞬時に間合いを詰めて左からの横一文字斬りを繰り出す。桜火は後方に軽く飛び、ぎりぎりの間合いを取り、そのまま上段から木刀を振り下ろした。


 ルカは一文字斬りの途中で手首を返し、右下から左上に斬り上げる逆袈裟で桜火の攻撃を弾いた。桜火の腕は上に弾かれ懐が大きく開いた。


 大きなチャンスに誰もが、ルカの攻撃が入ると思っていた。しかしルカは、攻めるどころか後ろに上体をそらしたのだ。その瞬間桜火の木刀の切っ先がルカの顔をかすめたのだ。


 会場がざわつく。今のは完全にルカのチャンスだった。


「師匠。ルカはなんで攻撃しなかったのですか? しかもあれを避けるなんて···。稽古の時のルカと動きが違いますよ」

「桜火は武器を弾かれたんじゃないよ。わざと弾かせたんだ。ルカは打ち込んだ感触が軽すぎたのに気づいたんじゃないかな。でもあれを避けるのは確かに見事だね」


 確かにルカは、特別稽古の時よりも反応が良い。もしかしたらルカは目が良いのかもしれない。単純に視力が良いという訳ではなく目から入る情報処理能力が高いという事だ。


 桜火の懐が開いた時、チャンスに目がくらみ打ち込んでいたら、その時点でルカの敗北は決まっていただろう。負けない為の撤退は正しい判断だったと思う。


 桜火が相手じゃなければここからの立て直しも出来ただろう。しかし桜火はそんなに甘くなかった。同門相手に手加減は不要だ。


 桜火の反撃に、ルカが体勢を崩してしまっていたのだ。ルカは避けるのが精一杯で、振り上げた状態の木刀を打ち込むことが出来ない。今度はルカが懐を開く番になってしまった。


 桜火は反撃で打ち下ろした状態で軸足を回した。身体が回転し、今度は桜火が逆袈裟の体勢になった。本当に体勢を崩されたルカはこれを避けることが出来ず、脇腹に桜火の逆袈裟が炸裂した。


 ルカは勢いよく吹っ飛んでいった。その場でピクリとも動くことが出来ない。すぐに桜火が手を上げ治癒魔導士を呼んだ。打ち込んだ本人が相手の状態がどんなものか分かっているのだ。早く治癒魔法をかけないと息もできないだろう。それだけきつい一撃が入ったのだ。


 治癒魔法をかけてもらったルカが咳き込み、寝ながら手を挙げて「大丈夫です」と言った。生きてますという合図だろう。


 アナウンスが入り桜火の勝利が決定する。観客の歓声は両者に送られていた。「勇者様! よくやったぞ!」例の応援もしっかり残っていた。担架で運ばれているルカも手を挙げて歓声に応えていた。


「ルカ様!」


 シャルが泣きながらルカの元に走って行った。


「ポルン、念のため付いて行ってあげて」

「···はい」


 ポルンは唇を噛みしめていた。ルカの予想外の動きを見て、今の自分にあの動きが出来るのか考えていたのだろう。答えは否、それが分かっているから悔しいのだ。


「桜火さんはやはりすごいのですね」

「桜火は最初から、稽古に取り組む姿勢がすごかったからね。それでもあの成長の速さは異常だよ。やっぱりこの世界特有なのかなあ」

「···この世界?」

「あっ、ううん、何でもない」


 俺がこの世界の人間ではないことは、まだ焔にしか言ってなかった。狐月は訝しい顔をしたが、追及はしてこなかった。


 桜火が退場する前に観客に向かってお辞儀をすると、大きな拍手が起こった。桜火の勝利によって同門対決は終結したのだった。

【次回予告】

「さあ終焉の時だ···」エルミナ王国剣術大会決勝で予想外の結末が!


次回「エルミナ王国剣術大会⑤ 終焉」お楽しみに(*'ω'*)


次回投稿は1月21日12頃行います。

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