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エルミナ王国剣術大会① 波乱

 『エルミナ王国剣術大会』これは王国側が主催している。ただ剣術を(きそ)う為の大会ではない。軍の戦力増強の為の選抜試験も()ねている。その証拠に、優勝者の特典で王国軍の一個旅団の団長になる権利を与えられる。


 この国の旅団とは国の軍ではあるが、その隊長になる者は、ランクオーバーの特別指定冒険者の中から選ばれている。冒険者ギルドからの出向扱(しゅっこうあつか)いなので、戦争への参加不参加が自由なのである。その為、旅団長には師団長や大隊長よりも自由な裁量が与えられている。軍の中では遊撃隊や自由隊と呼ぶ者も多い。その地位欲しさにこの大会に参加する騎士も少なくない。


 さらに今回は冒険者も多く参加していた。それは冒険者ギルドもこの大会に協賛(きょうさん)しているからだ。ギルドからの報奨(ほうしょう)として優勝者には冒険者ランク『S』に、無条件に昇格させるというものだった。


 これには冒険者がかなり食いついてきた。冒険者がランク『S』になるには、かなりの実績が必要になる。それがこの剣術大会で、一回優勝するだけでランク『S』に昇格できるのだ。燃えない冒険者はいない。


 この好条件の優勝特典に参加者は千人近くまで上った。あまりの人数多さに本戦前に予選が設けられた。


 予選はAからJの十ブロックに分けられた。一ブロック百名近い。勝ち残った一人が本戦に行けるというものだった。


 予選第一試合は十人が同時に戦う形式で行われた。第一試合で勝ち上がった十名が、同じ形式で予選第二試合を行う。これで各ブロックで勝ち上がった者が本戦トーナメントへ進むことが出来るのだ。



 

 剣術大会当日、俺達は闘技場前にある受付にやって来ていた。


「師匠すごい人ですね」


 ルカは人の多さにビックリしていた。会場は祭りのような(さわ)ぎになっていて、出店(でみせ)なんかも多く用意されていた。


 (ほむら)は相変わらず出店(でみせ)に釣られていた。「レン。少し回ってきても良いか?」と目を輝かせていた。勝手に行けばと思っていたらどうやらお小遣(こづか)いを待っていたらしい。残り少なくなった巾着(きんちゃく)の中から大銀貨を一枚渡すと焔は喜んで人ごみの中に消えて行った。


「じゃあ俺達は受付を済ませちゃおうか」


 今日は応援に狐月(こげつ)とシャルティアもついて来た。ローラは「祝勝会の準備をする」と言って宿に残った。まだ誰が勝つかも決まってないのに、ローラは「勇者様が負けるはずありません」と言って微笑(ほほえ)んでルカを見つめ、シャルティアも「うんうん」と言って(うなず)いていた。


「祝勝会楽しみだな、勇者様」

「やめてよポルン」


 ポルンに冷やかされてルカは顔を真っ赤にさせる。楽しそうで何よりだ。


 受付の順番が回ってきた。参加希望用紙に名前を記入し、予選のカードを引いていく。三人とも別々のブロックだった。予選でぶつかるのも面白いと思ったが、狙うは優勝賞金だ。確率は高いほうが良い。


 受付が終わると焔が食べ物を持って帰ってきた。みんなで会場に向かおうしていたら、王国の騎士団らしき男達に声を掛けられた。


「おいおい。まさかお前らも大会に参加する気か? まだガキじゃないか」

「何じゃと?」


 真っ先に焔が反応するが、俺は焔を止めた。


「ここはガキの来るようなところじゃねぇんだよ。お嬢ちゃんなんか怖くて(ふる)えてんじゃねぇか」

(ばかだなぁ。桜火(おうか)(いか)りに震えてるんだよ)


 そう思った俺だったが、何か嫌な予感がした。そしてその予感が的中する。


「お兄ちゃん怖い」

「「「は?」」」

(はいきました)


 桜火がまた俺の後ろに隠れたのだ。それを見た焔達が口をポカンと開けて桜火を見ている。俺以外は、この桜火の謎の行動を見たことがない。自然な反応だ。そしてポルンが余計な事を言う。


「何やってんだよ桜火。こんな奴らぶちのめしちゃえばいいじゃん」


 それを言った瞬間、ポルンは桜火に強烈(きょうれつ)な一撃を腹に打ち込まれることになる。ばかな奴。ポルンは悶絶(もんぜつ)している。俺は仕方なく(から)んできた男の対応をすることにした。


「子供でも僕達はれっきとした冒険者です。十分参加資格はあると思いますが」

「これはただの剣術大会じゃねぇんだよ。王国騎士団の選抜を()ねてんだ。お前らみたいなガキが出たらみんなしらけるんだよ」

「安心してください。見物されているみなさんには後悔させませんから。ただあなたは後悔すると思いますけど」

「何だとこのガキ!」


 俺の言葉がよほど頭に来たのか、男が(つか)みかかろうとしてきた時、別のところから声が掛かった。


「お前達何をやっている」


 突然体格の良い騎士が声を掛けてきた。(から)んできた男達とは違い、立派な(よろい)を着ていた。


「お前達、王国の騎士がこんな子供に(から)んで()ずかしくないのか」

「ろ、ロドルフ隊長!?」


 立派な(よろい)を着た男はロドルフと言うらしい。男達は何やら言い訳じみた事を言っているが、ロドルフが一睨(ひとにら)みすると「すみません」と言って去って行った。


「私は王国騎士団大隊長を任されているロドルフと言う者だ。うちの隊員が迷惑をかけた。本当に申し訳ない」

「いえ、助けて頂き感謝しています」

「ところで本当に君達は大会に参加するのかい?」

「はい。僕は参加しませんが、この三人が参加することになってます。······既に一人倒れていますが」


 隣でポルンが倒れたままだった。


「そうか。それではお互い頑張ろう。予選は戦場に近い。周りが敵だらけだから油断しないように」


 ロドルフも大会に参加するそうだ。さすが大隊長といったところだ。見た目で人の強さを判断していない。さっきの奴らにも見習って欲しいくらいだ。


 無事にもめ事も回避できたところで俺達も会場に入ることにした。ポルンは狐月に手を貸してもらっている。


「ところで桜火、さっきのはなんじゃ」

「てへっ」


 桜火はまた笑ってごまかしていた。一番の被害者はポルンだろう。かわいそうに。


 予選は参加者の紹介などは無かった。Aブロックから淡々(たんたん)と試合が行われていた。ポルンはEブロック、ルカはBブロック、そして桜火はJブロックだった。


 Aブロックの試合が割と早く終わり、次はルカが参加するBブロックの番だった。俺達は観戦席から見ることにした。「ルカに激励(げきれい)してくる」と言って席を離れてた焔が帰ってきた。


「ルカはどう? 緊張してた?」

「うむ、落ち着いておったよ。本戦まではみな問題なかろう」


 そんなことを話していると、Bブロックの参加者が集まり始めた。何試合か進み、ルカの番になった。


「ルカ様ー! 頑張って下さーい!」


 シャルティアの声がよく通る。「おーい。姫様が応援してるぞ」「頑張れー」と他の観客からも声援が上がった。当の本人は顔を真っ赤にしてるのがここからでもわかる。


 ルカの試合が始まった。十人が一斉に動き出す。さすがに子供を真っ先に狙う大人はいなかった。逆にルカを相手にしなかったのが彼らの大きな敗因になった。誰も子供に狙われると思っておらず、油断していたのだ。


 ルカは近くにいる相手を次々と倒していった。最後の一人が残った時になぜ他の連中が倒れていて、目の前に子供が立っているのか分かっていなかった。


 相手は混乱したまま何もできずにルカに腹を撃ち抜かれ沈んでいった。


 試合会場は騒然(そうぜん)となった。みんな何が起きたのか分かっていなかった。大の大人が全員倒れていて、立っているのは僕っ子の可愛らしい少年だけだったからだ。そこでまたあの声が会場に響いた。


「きゃー! ルカ様ー!」


 シャルティアの声で、みんなが我にかえる。静寂(せいじゃく)が一瞬でものすごい歓声に変わった。中には「ルカ様! ルカ様!」と茶化(ちゃか)す奴らも出てきた。ルカはまた顔を真っ赤にしてその場を退場する。


 会場の熱気が収まらないうちに残る試合が行われ、Bブロックで勝ち残った十人が再度集まった。そこにはルカの姿もある。今度はルカが登場した時に大声援が起きた。例の茶化(ちゃか)し隊も声を上げている。シャルティアも負けていなかった。


 試合が始まり、今度は油断する者はいなかった。全員が警戒している。しかし、ルカのやることは変わらなかった。第一試合同様、近くにいる者から倒しにかかった。


 さすがに勝ち抜いてきた者達だ。すぐにルカを危険だと察知(さっち)し、一斉にルカを標的に切り替えていた。


 ここで会場がまた静寂(せいじゃく)に包まれることになる。試合が始まって既に三人を倒してるルカに全員が攻撃を仕掛けていくが、誰一人ルカに攻撃を与える事が出来なかったのだ。

 一人、また一人とルカに沈められていく参加者達。ルカの相手が減っていく度に歓声が戻っていく。残り一人になったところで既に大歓声が上がっていた。


 最後の一人になった相手は声を上げながら突撃してくる。悪手(あくしゅ)だ。そんな声を出して、剣を振り上げたら()けてくださいと(さけ)んでいるようなものだ。当然のように相手の一撃を(かわ)し、軽く首元に打ち込んで試合終了となった。


 Bブロック代表はルカに決定した。誰もが予想していなかった少年の勝利に、予選とは思えないほどの大盛り上がりになった。


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