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最高峰の隠密にゃ

 (ほむら)と合流した場所は、王都に住む貴族の屋敷の目の前だった。焔が後を付けた男がこの屋敷に入っていったという。さすがの焔も王都の貴族の屋敷を襲撃(しゅうげき)する事がどういう事か分かっていたみたいだ。桜火(おうか)とポルンも一緒に待っていた。


「本当にここの貴族が賊と関係してるの?」

「例の男が屋敷に入って行ったのは間違いない。今セリナが屋敷に入って調べているところじゃ」

「セリナさん、もう来てるんだ?」


 先日作戦会議を行った後、情報収集のために『月光(げっこう)』を呼ぶことにした。王都での調査になる為、セリナが直接出向いてくれたようだ。俺達はしばらくセリナを待つことにした。


 しばらくするとセリナが戻ってきた。


「若様、焔様お待たせしました」


 セリナはギルティ達が「若」と呼ぶのを聞いて、月光全員に俺のこと「若様」と呼ぶように命令していた。俺は気にせず報告を聞くことにした。


「屋敷はドレーヌという貴族のもので、焔様が追っていた男は屋敷の使用人のようです。調べたところ屋敷の地下にいくつか部屋があって、そこに亜人が(とら)われていました」

「亜人が?」


 王都では許可の無い亜人の滞在は許されていない。地下に閉じ込めているという事は間違いなく許可は取っていないだろう。つまり、この屋敷の貴族は確実に何かしらの犯罪に関わっている。


「亜人を閉じ込めてる時点で賊と一緒じゃ、貴族だろうと関係ない」

「そうだね」


 俺も焔に同意した。俺達は屋敷に乗り込むことに決めた。その前に俺ははっきりさせなければならないことがあった。


「ねぇ。さっきから気になってたんだけど。セリナさんの後ろにいるのは何?」

「はい?」


 セリナは何を言われているのか分かっていないような声を出した。セリナが振り返ると小さな子供が立っていた。


「えっ! トゥカ!? 何でここに!?」

「にゃ?」


 セリナも気づいていなかったようだ。トゥカはペルシア族の子供だ。村で『月光』を選抜した際に、俺はトゥカに目を付けていた。それはトゥカに特別な能力があったからだ。


 トゥカはペルシア族の中でも飛び抜けて気配を()つのがうまかった。本人に自覚はなく、そばにいても気づかれないことが多かったのだ。セリナが最初に王都へ調査に来た時も、誰にも気づかれずについて来れたのはこれが理由だった。


 俺はトゥカに気配を消す稽古(けいこ)を受けさせた。結果は俺の予想通り、『月光』の中でも一番気配を隠すのがうまくなった。今までは自覚なく気配を断っていたが、今では自分で意図的に気配を消すことができるまでになったのだ。


「ねね様いるところにトゥカありにゃ」


 何言っているのか分からなかったが、結局はセリナに黙ってついてきたらしい。屋敷の中も勝手に調べて回っていたみたいで予想以上の情報が手に入った。隠密としての動きだけで言えば完璧である。


「大体状況は(つか)めたね。とりあえず亜人達の救出を最優先で。俺と焔は屋敷の護衛を(おさ)えておくから、他のメンバーで亜人達の救出を頼むね」

「ドレーヌはどうする?」


 相手は貴族だ。出来れば事実を明らかにして王都の衛兵(えいへい)に引き渡したいが、貴族がそう簡単に認める訳がないと思った。最悪(しば)り上げて連れて行くか。


 結局ドレーヌに関しては無傷で捕縛(ほばく)という事になった。


 俺と焔以外はセリナの案内で亜人の救出に向かった。俺と焔は正面から堂々と入ることにした。いきなりの訪問(ほうもん)に屋敷内が騒然(そうぜん)とする。ドレーヌの護衛と思われる兵士達が次々と集まってきた。


「貴様ら何者だ! ここが誰の屋敷か分かって来てるのか? ただでは済まないぞ!」

「世直し!」


 俺が一言そう言うと、焔が動き出した。一瞬にして兵士達を倒していく。焔には抜刀(ばっとう)を禁止させてある。刀を(さや)に入れたまま敵を(なぐ)り倒していった。抜刀していたら今頃屋敷は血の海になっていただろう。


 (さわ)ぎを聞きつけたドレーヌが階段の上に現れた。


「な、何だこれは!? 一体何が起きている! お前らいったい何者だ!」

何爵(なにしゃく)さんかは分かりませんが、あなたが亜人の誘拐(ゆうかい)に関わっていること知ってる者ですよ」

「き、貴様何を言ってる。そんなことは知らん!」


 やっぱり認めないか。俺と焔は手はず通りドレーヌを捕縛(ほばく)することにした。焔がドレーヌに近づこうとすると、ドレーヌは近くに居たメイドを(つか)まえてきた。メイドの髪を(つか)喉元(のどもと)に短刀をつき当てた。


「動くな。この亜人がどうなってもいいのか?」


 亜人? よく見るとドレーヌが髪を(つか)んだせいでメイドキャップが脱げ、頭にもふもふの耳が現れたのだ。ドレーヌは亜人をメイドにしていた。メイドにしていたという事は許可でも取っていたのか。今はそれを確認することも出来ない。


 ドレーヌの短刀を持つ手に力が入る。喉元(のどもと)から血が流れ始めていた。そして俺はあるものに気づく。短刀がつきつけられている首に銀色の輪が付けられていた。

 セリナに聞いたことがある。人間が亜人を(したが)わせるために作られた服従(ふくじゅう)の輪だ。それのせいでドレーヌに逆らえないのだろう。


 獣人(じゅうじん)メイドの身体が急に力が抜けたように(しず)んだ。ドレーヌは必死に立たせようとする。どうやら短刀を当てられて気絶(きぜつ)してしまったようだ。服従(ふくじゅう)の輪も気を失った相手には効果が無いようだ。


「おい! 何やってる! 立てこの亜人め!」


 そう言ってドレーヌは倒れこんだ獣人(じゅうじん)メイドを()り飛ばした。それを見て俺の感情が一気に振れてしまった。こいつは俺が許せないことをしたのだ。


 焔が(いか)り、一瞬飛び掛かろうとしたが、俺の気配に気づき動きを()めた。俺はゆっくりと階段を上がり、焔の横を通り過ぎる。


「お、おいレン」


 焔が声をかけてきたが俺の耳には入っていなかった。その時の俺は本気でドレーヌを殺す気で殺気を放っていたのだ。


 俺がドレーヌの目の前まで来た時、屋敷の入り口で大きな音がした。扉が勢いよく開いた音だった。そこから王国の衛兵が流れ込んできた。そしてその中央を堂々と闊歩(かっぽ)する老人の姿があった。ギルドマスターのルーカスだ。


 下のフロアが騒然(そうぜん)となっていたが俺は気にも()めていなかった。しかし、俺は肩に手を当てられて、ようやくその相手を見た。


「そのくらいにしといてやれ、もうのびてるでのー」

「···ギルマス?」


 目の前にいたのはさっきまで下にいたルーカスだった。いつの間にか俺の目の前にいたのだ。それに気づいてドレーヌを見ると、口から泡を吹いて気絶(きぜつ)していた。俺の殺気に当てられたせいだろう。


 横には獣人(じゅうじん)メイドが倒れていた。俺は持っていた刀を振り下ろした。「チンッ」と甲高(かんだか)い音が鳴り、服従(ふくじゅう)の輪が獣人メイドの首から斬り落とされた。これでもう自由だ。


「それにしてもどえらい殺気放っておったのー。もう少し当てとったら死んでおったのー」

「······」

「おーい。全員連れてけ」


 ルーカスは二階から衛兵に指示を出した。屋敷に居た全員を拘束(こうそく)するらしい。その時地下から、(とら)われた亜人達を救出した桜火たちが上がってきた。


「ほー、そんなにおったんか。ドレーヌもこれでおしまいだのー」

「え? ギルマスは知ってたの?」


 思わず声に出ていた。どうやらルーカスはギルドの冒険者を使って王都の誘拐(ゆうかい)事件の調査を行っていたらしい。その際、ドレーヌが事件に関係していることには気づいてはいたが、相手は王国の貴族である。決定的な証拠がない限り動くことが出来なかったようだ。


「いやー。わしらも冒険者に内偵(ないてい)させてたんだがの、誰かに全治三か月の病院送りにされてしまったわい。お尻が可哀(かわい)そうなことになっとったのー」

{{

「「!?」」

 

 俺と焔は冷汗(ひやあせ)が止まらない。焔がやってしまった冒険者はルーカスの部下だったみたいだ。俺達は早々に退散することを決めた。


 その時、気を失っていたドレーヌが意識を戻した。「この! 放せ!」と言って衛兵に拘束(こうそく)を解けと(さけ)んでいる。


「おい、ルーカス。証拠も無しにこんな事してただで済むと思うなよ」

「んー証拠かー。困ったのー」


 ルーカスは口ではそう言うが顔は全く困っていなかった。その時、空気を読まない無邪気(むじゃき)な声が俺の後ろから聞こえてきた。


「若様ー!」


 トゥカだった。相変わらず全く気配を感じさせない。いきなり声を掛けられると俺でもびっくりするほどだ。トゥカは皆と別行動をしていたみたいだ。


「若様これ見てにゃー」

「これって···」


 奴隷(どれい)売買記録(ばいばいきろく)だ。トゥカはとんでもないものを見つけてきてしまった。これで全てのカードが手に入ってしまった。ドレーヌの有罪が決定した瞬間だった。


「証拠、出てきてしまったのー。ほっほっほっ」


 ルーカスは全ては予定通りと言わんばかりの態度だった。それに対しドレーヌが()える。


「ふざけるなルーカス!貴様···」


 ドレーヌが怒鳴(どな)っている途中で言葉が切れた。さっきまで隣にいたルーカスの姿が無くなっている。一瞬の出来事に全員が言葉を失っていた。姿を消したルーカスはいつの間にかドレーヌの背後(はいご)に立っていた。何をしたか分かっているのは数人だけだった。


 ドレーヌの声が切れると、ドレーヌの首から赤い線がうき上がり、首がずれ、そのまま頭が床に転がった。ルーカスがドレーヌの首を切り落としたのだ。衛兵達も目の前の出来事に言葉も出せず固まってしまっている。


「ほっほっほっ。どの道こやつは死刑になっとったろ。今死ぬも後で死ぬも一緒じゃ。この王国の面汚(つらよご)しめ」


 最後の言葉には(いか)りが込められていた。


 この後ルーカスの裁量で全てが決められていった。ドレーヌに従っていた者は全て衛兵に連行されていった。獣人(じゅうじん)メイドと地下に(とら)われていた亜人達は全部で七人もいた。ルーカスは全員に特別滞在許可を発行した。これもギルドマスターの特権なのだろうか。屋敷に居た亜人達は一度ギルド預かりとなった。


「それから、宿におる二人にも許可を出してやるから明日ギルドに連れて来るんだのー」


 ルーカスには全てお見通しだったみたいだ。食えない(じい)さんだ。


 王都の誘拐(ゆうかい)事件は、主犯ドレーヌの死亡によって(まく)を閉じた。俺達はルーカスのおかげで、貴族の屋敷に乗り込んだことを無かったことにしてもらえた。


 事件の翌日、俺達はギルドに足を運び、ローラとシャルティアの特別滞在許可を発行してもらった。そして、お尻の彼のお見舞(みま)いに行った。焔の全力治癒魔法の甲斐(かい)あって、お尻の彼は即日退院することが出来た。


 これで王都誘拐(ゆうかい)事件の問題処理は亜人の対応のみとなった。

【読者の皆様へ感謝】


数ある作品の中からこの小説を読んで頂き、そしてここまで読み進めて下さり本当にありがとうございました。


「面白い」 「続き!」 「まぁ、もう少し読んでもいいかな」


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これからも「モンツヨ」は毎日更新しながら、しっかり完結させていただきます。引き続き「モンツヨ」を宜しくお願い致します。


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