番外 天の川の誓い
※この話は番外編です
スイブルの町で救出された獣族の子、バッツラインの物語です。
炎帝の民の村
【別視点】バッツ・ライン
本当に綺麗な空だ。俺は縁側に座って空を眺めていた。スイブルの町で倒れてから数日間、俺はずっと立てずに寝たきりだった。今は炎帝の民の村で療養している。
あの日、俺はミリィを助けられなかった。それが頭から離れない。もし救助が来なかったら今頃どうなっていたんだろう。
「このままじゃだめだ」
気づけば言葉に出ていた。昔から強くなるための努力はしてきたつもりだった。一族の同年代の中でも強いほうだった。それでも俺はまだまだ弱かった。『狂牙』に頼らなければ逃げ出すことも出来なかっただろう。
「バッツ、もう体は大丈夫なのか?」
親父のギルティだ。ペルシア族ではギルティ隊の隊長を務めている。
「···親父。やっと動けるようになったよ」
「何を悩んでいる?」
親父には何でもお見通しだった。俺は親父に自分の弱さについて話した。親父は最後まで何も言わず聞いてくれた。
「バッツ。確かにお前は弱い」
「······」
「だが、お前が命をかけてあの子を守ろうとしたことを、俺は誰よりも知っている。お前があそこから抜け出すと決めた時、沢山の選択肢があったはずだ。その中でお前は自分の命よりもあの子の未来を守ることを選んだ。それは誰にでも出来ることではない。それを選んだお前を俺は誇りに思っている」
言葉がでない。
「いいか、バッツ。強さにも色々ある。きっと今までのお前は本当の意味で弱かった。しかし、今回のことで、お前は他人を思うことの強さを知ったはずだ。あの子を守ろうとした気持ちを決して忘れるな。そうすればお前は本当の意味で強くなれるはずだ」
「······」
「強くなれバッツ」
「···はい」
それしか言えなかった。涙が止まらない。親父は俺の頭をワシワシなでた。俺が泣き止むまで親父は何も言わずに待っていてくれた。
やっと落ち着いて気持ちの整理が着いた。
「親父、また俺を鍛えてくれないか」
「······」
なぜか今度は親父が黙り込んでしまった。しばらくするとゆっくりと話し始めた。
「俺はセリナ様の護衛で王都に入ったんだ。そこでセリナ様とトゥカが賊に拐われてしまった。後を追ってやっと見つけたと思った時に、俺はお前よりも小さい少年に負けてしまったんだ」
「親父が?」
正直驚いた。親父は一族の中でも最強に近いはずだ。それが俺よりも小さい少年に負けたという話はとてもじゃないが信じられない。
「実はお前に偉そうに言える立場でもないんだ。俺もある意味セリナ様を守れなかった。あの少年が敵であったならば、俺はあの場で確実に死んでいたよ」
親父は後悔していた。「命をかけずに命を落としていた」と。
「バッツ、本当に強くなりたければあの少年の元に行け。彼は俺より強い。今この村では彼の道場が造られている。既に弟子も何人かいるみたいだ」
少年の名前はコウヅキ・レンと言うらしい。道場とはどういうものなのだろうか。最初は数名の子供だけで稽古をしていたみたいだが、今では大人も混じって稽古をしているらしい。驚いたことに親父も真似して隠れてやっているという。
直接指導を受けた事のある村の子供は、既に大人以上の実力があるとの事だ。親父でもその子供と立ち合ったら簡単には勝たせてもらえないという。俺はその話を聞いて、その少年に会うことを決めた。
親父と話した俺は、少し心が楽になった。今日の月は綺麗だ。なぜかキラキラ光って見える。
次の日から俺は体を慣らすために、独自に稽古を始めた。まだ完全には回復していないので少しずつ運動量を増やすことにした。
空いた時間に道場と呼ばれているところを覗いてみた。皆同じような動きをひたすら反復している。二人だけ他とは違う稽古をしていた。目隠しをして立ち合いをしていたのだ。あれでどうやって戦うのかと思っていたら、一人が相手に打ち込んでいった。打たれた相手はそれを躱し、その流れで反撃した。しかし、その反撃も躱されてしまったのだ。
どういうことだ? 目隠しをしているのに立ち合いが成立している。父が言っていた村の子供はあの二人の事だろう。信じられなかった。俺よりも小さく、歳も間違いなく下だろう。
すぐに混ざって教えを乞いたい。しかし今の体ではついていくのは難しいだろう。とにかく体を本調子に戻すことを最優先に考えることにした。
その夜、俺はミリィに呼ばれていた。
「具合はどう? もう稽古を始めてるみたいだけど大丈夫?」
ミリィは会う度に同じことを聞いてくる。ミリィは自分のせいで俺が無理をしたと感じているらしい。気にするなと言っても逆に落ち込んでしまうので、俺もその都度「元気だよ」と返すことにした。
今日は見せたいものがあるという事なので、二人で出かける事にした。俺達は、新しく広場にできた噴水の前に来た。夜も遅く誰もいなかった。夜なのに月のおかげで周りが明るく見える。
二人で話しながら月を見上げた。昨日見えたキラキラした感じは今日は無かった。
「バッツは覚えてる? うちの村で見れる『星虫』っていう綺麗な虫がいるって言ったの」
「そういえば言ってたな。確か見れる時期が決まってるって言ってなかった?」
俺とミリィはスイブルで捕まっていた時の話を思い出していた。
「ずっとバッツと見たいと思ってたんだ。今日は飛んでないみたいだけどね」
その割にはすごく楽しそうな顔してるなと言いたかったが止めた。もしかしたら昨日見たキラキラしたのは、その星虫だったのかもしれない。これを言うと「一緒に見たかったのに」って怒りそうだったので黙っておくことにした。
「星虫はね本当は毎日見ることが出来るんだよ。最近ずっと夜の空で光ってたんだ。知ってた?」
「へぇそうなんだ。教えてくれれば良かったのに」
楽しく話していたら急にミリィが手を握ってきた。俺は突然のことに焦ってしまう。
「バッツ。あの時は助けてくれてありがとうね」
「···違う。···俺は」
「バッツは!···」
否定しようとしたらミリィがしゃべらせてくれなかった。
「バッツは助けてくれた。命がけであたしをあそこから連れ出してくれたの。誰がなんて言おうとあたしを助けてくれたのはバッツだよ」
俺はミリィの顔を見ることが出来なかった。するとミリィの握る手が強くなる。
「バッツが悩んでること知ってるよ。だからもう一回約束しようよ。私はバッツから離れない。だからバッツはこれからも私を守ってくれないかな?」
ぐだぐだ考えるのはやめた。ここまでミリィに言わせておいて応えないのは男じゃない。その時、俺は周りが少しだけ明るくなったことに気づいた。そして月を見上げながら誓った。
「今度こそミリィを守ってやる。ミリィを村ごと守れるくらい強くなってやるさ。この『天の川』に誓ってな」
空には時期の終わりに見られるという星虫の群れが大移動していた。まさに天に流れる川ようだった。ミリィは泣きながら「覚えてたんだね」って笑ってくれた。
約束するよミリィ。俺は絶対に強くなる。俺とミリィは『天の川』が消えるまでずっと噴水の前で話をし続けた。
番外編お付き合いいただきありがとうございました。
引き続き本編の「ポルンとルカ、師匠を超える」をお楽しみください。
【感謝】
数ある作品の中からこの小説を読んで頂き、そしてここまで読み進めて下さり本当にありがとうございました。
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これからも「モンツヨ」は毎日更新しながら、しっかり完結させていただきます。引き続き「モンツヨ」を宜しくお願い致します。