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御庭番隠密部隊『月光』/【別視点】

 バッツの件が終わると、道場にもう一人やってきた。


「···あの、レン様、私もお話があるのですが」


 ペルシア族族長代理のセリナ・ペルシアだ。ペルシアは俺より少し背が高く、桃色の髪をしたお姉さんだ。何よりもふもふの耳がかわいい。


 話はこうだった。同族を助ける為の力になりたい。しかし、他の人みたいに剣の技術はない。それでもここでじっとしているだけなのは嫌なようだ。僕は少し、セリナさんが出来ることを確認した。セリナさんはスイブル事件でも魔法を使って賊を撃退していた。決して弱い訳ではない。


 セリナさんが得意な魔法は風魔法だった。確かに風を操って賊を吹き飛ばしてたっけ。それ以外にも素早さ、聴覚、視覚が異常に優れていた。さすが獣族といった特性である。俺はこの時ピッタリな仕事を思いついた。御庭番だ。今後、同族の救出に必要な情報と、村の防衛のための他国の情報の二つが必要になってくる。もともと亜人が他国に入国する時は、長い手続きが必要になる。だったら隠密に入国してしまおうというのが俺の考えだった。それをやるのにセリナさんの能力はピッタリだった。


 色々と稽古は必要になるが、これを気に御庭番隠密部隊『月光』を創設することを決めた。


 セリナさんには同じような特性を持つ人を集めるようにお願いした。炎帝の民の中にも情報収集を得意とする人達がいたのでそっちのほうもあたってもらうことにした。


「レン様。改めてお礼を言わせてください。あの時助けて頂けなければ私達はどうなっていたことか。そしてまだ救われない同族の為にこのようなお役目を与えて下さり心より感謝いたします。今より私はレン様の元で尽力することを固く誓います」

「セリナさん止めてくださいよ。俺も助けてもらった身ですから。でもこれからも一緒に皆を助けていきましょう」

「はい!」


 セリナが(ひざまず)き誓いの姿勢を取った。俺がどれだけ力になれるかは分からない。しかし出来ることはやろう。これでも光月道場本家跡取りだ。指導に関しては自信がある。やることは同じだ。ただこの世界の人達が異常に成長が早いのは気のせいなのだろうか。


 俺はセリナを御庭番隠密部隊『月光』の頭に任命した。ふふふ、これは少し楽しみだ。



   ***



【別視点】ナバル



 レン様が村に帰ってきた後すぐに、道場で立ち合いがあると知り、道場に足を運んだ。レン様が旅先で仲間にしたという桜火の実力を見せたいとの事だった。


 相手はポルンだ。息子のシンバルの件があって一度立ち会ったが恐ろしいほどに強くなっていた。辛くも勝利したが、このままではすぐに追い抜かれてしまうだろう。


 あの焔様が名受けをしたのだ。それをしたレン様が連れてきた子だ。名は桜火という。どのような力があるのか見てみたかった。


 レン様の号令で試合が始まった。両者全く動く気配がなかったが、私は手に汗を握った。俺がポルンの立場にいたら、攻撃は打ち込めるのだろうか。桜火という子に隙が全く見えない。何を打ち込んだとしても自分が打ち取られるイメージしか湧かないのだ。


 結果はポルンが一歩も動けないまま、桜火が先に動いてしまった為、桜火の反則負けで立ち合いがおわった。その時だった。ルカが「シュリ」と言って駆け寄って行ったのだ。


 シュリだと? 息子のシンバル達を無傷で返り討ちにした娘だ。あの子は親元に帰ったはずでは。もし桜火が本当にあの娘だとしたらどれだけ力をつけてきたのだろう。私はあの娘に勝てるのだろうか。答えは否だった。対峙しなくても分かる。今の私ではあの娘には敵わない。


 私はレン様にお願いし、「夜にお一人でお会いできないか」と伝えた。レン様は快く聞き入れてくれた。後にレン様から時間の指定があった。




 夜になって道場に足を運ぶと、レン様と向かいに座るギルティの姿があった。それを見て俺は、ギルティも同じ考えなのだと悟った。


「すみません。このほうが話が早いかと思いまして。お二人とも同じお話ですよね?」


 これでもずっと村を守ってきた兵士長であるが、その力が全く足りていないことを、レン様は全て分かっていたようだ。それはギルティも同じなのであろう。


「レン様、一度我々と本気で立ち合って頂けないでしょうか? 出来れば二人同時に」

「いいですよ。ギルティさんもそれで大丈夫ですか?」

「異存は有りません」


 条件は強化魔法以外の魔法は禁止。後は何を使っても構わないとのことだった。私は剣を持ってレン様に向かっていった。




   ***



【別視点】ギルティ

 


  このレンという少年は何者なのか。ナバルと二人で攻撃を打ち込んでいるが、一度も当てることが出来ていない。


 立ち合いの条件で、魔法以外なら何を使ってもいいとの事だった。身体強化も使っていいらしい。身体強化は獣族にとって得意分野である。


 この少年はまだ一度も手を使っていない。俺の攻撃もナバルの攻撃も、全て紙一重でかわしているのだ。なぜそのようなことが可能なのか。このままでは終われない。俺にもペルシア族の誇りがある。


「ナバル殿、一瞬だけ彼の隙を作る。後は頼んだ」

「承った」


 ナバルも分かっていたのだろう。二人がかりで本気を出さなければ、この少年に攻撃を当てる事ができないと。俺は最後の手段を使った。


「狂牙!」


 体中に血が回るのを感じる。そう長くはもたないだろう。俺は少年に突っ込み攻撃を加える。初撃は避けられたが、その後の連撃に関しては避けることを止めたのか、初めて手足を使って攻撃を受け始めた。攻撃を受けると言っても、全て受け流されている。手ごたえは全くない。


「ナバル殿!」


 援護を頼んだつもりだったが視界に映ったナバルは既に膝をついていた。いつ少年が攻撃したのか全く分からなかった。俺は最後の力を振り絞ろうとした。


「それは使わないほうがいいです」


 急に耳元でそう呟かれたのを最後に俺の意識は途切れた。




 俺はしばらく気を失っていたみたいだ。気がつくと道場の天井が視界に入った。「気がつきましたか?」と少年の顔が俺の目の前に現れた。


 俺は負けたのだと悟った。『狂牙』まで使ったというのにまるで相手にならなかった。不思議なことに体が動く。俺は起き上がり、隣を見るとナバルが手を挙げていた。そうだ、彼もやられていたのだった。それより、俺はなぜ動けているのだろう。


 少年の話では、俺が『狂牙』を使った時点で、危険と判断し、立ち合いに決着をつけたという。もしあのまま『狂牙』を使い続けていたら、動けないどころか命にかかわっていただろう。敗北を受け入れよう。


「お二人にお願いがあるのですが、聞いていただけませんか?」


 少年はあることを提案してきた。俺とナバルはすぐにそれを受け入れた。俺とナバルはこの時から少年のことを『若』と呼ぶことにした。


 若の提案を受け入れてから約1カ月の間、俺とナバルは地獄を見ることになった。

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