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レベル1の意地

 ギルドで冒険者の登録が終わり、俺はレベル1の称号を手に入れた。(ほむら)(さわ)ぐので出店の多い通りに戻ってきた。お祭りの屋台みたいなのがいくつも並んでいて、焔について行くときりがないと思った。


 焔に「待ってるから好きなの買ってきて良いよ」とパナメラに両替してもらった大銀貨を渡し、桜火(おうか)と一緒に待ってることにした。焔は喜んで走っていった。


「桜火は行かなくて良かったの?」

「うん。お兄ちゃんと一緒にいる。お兄ちゃんも誰か待ってるんでしょ?」

「おお。分かってるね。もうそろそろだと思うんだけどね」


 桜火と会話を楽しんでると、女性が路地から飛び出してきて、「すみません助けてください」と言ってきた。路地裏で子供が倒れて動かなくなってしまったらしい。俺は桜火と一緒に路地に入った。


 路地に入ると女性が立ち止まって、泣きそうな顔をしながら「ごめんなさい」と言って立ち去ってしまった。なんてベタなパターンなんだろう。そう思いながら来た道を戻ろうとすると、三人組に道をふさがれていた。

 

「僕ちゃん達、おじさん達お金に困ってるんだよね。悪いんだけど有り金全部貸してくれないかなぁ」


 なんとひねりの無い。もう少しなんかないのか。


 あきれていると、一人の男が「へっへっへっ」と言って桜火に近づいてきた。行け! 正当防衛だ! 桜火の一撃に沈んでしまえ。悪には鉄拳制裁(てっけんせいさい)が必要である。


「お兄ちゃん怖い!」

(は?)


 桜火は俺の後ろに隠れた。今日は何かの遊びでもしてるのか、妹よ。


「おいおい。そんなレベル1のへなちょこに隠れたってしょうがないだろ」


 ばかにしたように笑う男達。桜花にやられてしまえ。


「お、お兄ちゃん、こ、怖いようぅ」

(うん桜火、お兄ちゃんのほうが怖い。そんなにお兄ちゃんの服握りしめたら破れちゃう。)


 俺をばかにされて怒りに震えている桜火が何をしたいか分からないがしょうがない、付き合ってあげよう。

 俺は「桜火、お兄ちゃんに任せて少し下がってなさい」と棒読(ぼうよ)みで言うと、満面の笑みを浮かべ、近くの箱の上に座ってしっかり観戦する体勢になった。 


「ねぇおじさん達冒険者? ギルドからつけて来たんでしょ?」

「新人冒険者があんな貴重な素材持ってる訳ないだろ。不正はだめだよ不正は。今回は授業料だと思ってさっさと有り金全部置いてきな。さもないと痛い目見るぞ」

「へぇ。二人でどうやって?」

「はぁ? こっちは三人だよ。···? おい、お前何寝てんだよ!」


 (しゃべ)っていた男が後ろで倒れている男に気づき声を掛ける。一番後ろに立っていた男が、いつの間にか倒れていたのだ。


「お前何しやがった! えっ?」


 後ろに倒れていた男から、俺に視線を戻したとき、今度は前にいた男が倒れていた。


「二人じゃなくて一人だったね」


 子供らしい笑顔で挑発してみる。俺は最初から一歩も動いていない。彼からしたら何かしらの魔法を使っていると思っているのだろう。


「へっ! ガキ二人ぐらい俺一人で十分なんだよ。あんまりなめんなよ小僧!」

「あのー、申し訳ないんですが、僕たち二人じゃなくて三人なんですけど」

「何ハッタリこいてんだ赤髪の女はどっかに行って······。ひぃ!」


 男が(しゃべ)ってる途中に自分の背後に、誰か立っていることに気づいたらしい。そこには食い物を両手に抱えた焔が立っていた。残った男は「···お、オーバー」と言って泡を吹いて倒れてしまった。


「なんじゃ。人の顔を見て倒れるなんて失礼な奴じゃ」


 倒れた男達をどうするか考えていたら、先ほど立ち去った女性が、衛兵を連れて戻ってきた。

 男達は衛兵に(しば)られて、連れて行かれた。女性は泣きながら「ごめんなさい」と謝った。どうやら、悪いところからお金を借りてしまい、(おど)されて協力させられたようだ。しかし、相手が子供だったので、自責(じせき)の念に耐えきれず、衛兵の詰所(つめしょ)に駆け込んだのだ。


「助かりました。あの男達をどうやって処理しようかと悩んでいたところです」


 女性が逆恨みされないように一応注意を(うな)した。金貸しの居場所も確認をしておいた。女性は何度も謝りながら帰っていった。


「お兄ちゃん優しいね」

「何が?」

「ううん何でもない。ただ、またお金が無くなっちゃうんじゃないかと思って」

(うっ。なんと鋭い。)


「それより、桜火こそさっきの『お兄ちゃん怖い』って何よ」

「うーん てへっ」

(くっ、かわいいから許す。)

 

 桜火は、前からずっとお兄ちゃんに甘えるのが夢だったらしい。今までの本当の兄達は、桜火を召使(めしつかい)のように(あつ)い、甘えることなんて出来なかったようだ。この話は、のちに焔から聞いた話なので、俺は知らなかったことにしよう。


「それよりお兄ちゃん何やったの? 知らないうちにどんどん人が倒れていったんだけど?」

「それは···レベル1にしか使えない魔法だよ魔法」


 魔法ではない。ただの指弾(しだん)だ。男達との距離は近く、3メートルぐらいなら普通に狙える距離だった。ギルドから後をつけられていたので、小石を手に隠しておいたのだ。桜火が観戦の体勢に入る直前に一発。男が後ろを振り向いた時に一発。どちらも、全員が俺から視線を外した瞬間だった。


 それから宿屋に着くまで桜火の追及は終わらなかった。ふん、レベル1にだって意地はあるのだよ妹よ。


 宿屋に着いて、部屋を取った。焔と桜火が同じベットで寝るというのでベットが二つの部屋を借りた。


 みんなで焔が買ってきたお土産を食べた。それが夕食の代わりだった。焔が「少し出てくる」と言って窓から降りて行った。あれだけ食べたのだから食後の運動にでも行くのかなと思ったら、しばらく帰って来なかった。


 その(ばん)王都では三つの事件が起きていた。一つは王城に侵入者が入ったという事、二つ目は王都の街にある金貸しの店舗が火事にあったという事、三つめが俺達の巾着(きんちゃく)から大金貨が一枚無くなっていた事だった。桜火はせいぜい小金貨ぐらいだと思ってたらしい。俺は焔が帰るまでずっと桜火に(しか)られていた。

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