光月同盟
子供達の喧嘩から数日経った。
スイブル救出戦の結果を話し合い、今後は売られてしまった同族の捜索を行っていくことになった。
今回救出された、炎帝の民の子ミリィはエルグの娘だった。エルグは涙を流しながら感謝してくれた。それと同時に、他にも自分の子供を生贄に捧げた親がいることを考えると、喜んでばかりはいられないと、今後も同族の捜索を続けることを誓った。
それについては、セリアもペルシア族をあげて協力することを約束した。それに伴って、この村に拠点を置かせて欲しいとの要望があった。
エルグはこれを快諾し、ここに炎帝の民とペルシア族の同盟が締結された。さすが、族長の娘。重要な決断を族長の許可なしに行なってしまった。
セリナたちは拠点に移住する人員の選抜をしに、一度自分の村に帰るとのことだった。バッツの容体はまだ良くなっていない。それに関してはミリィが面倒を見たいと自ら買って出た。ギルティは「息子を頼みます」と頭を下げる。
村を壊滅されたドワーフ族の件は、エルグの承諾を得ることが出来たので、炎帝の碑石の拓けた場所に村を再建させることを決定した。既に炎帝の民の協力で整地と建築準備が行われている。
再建には時間も労力も必要になる。ベレンが「今自分たちで動かずにいつ動くのだ」と、自分達の同族をすぐに呼びに行くと言って村を出て行った。道案内兼護衛役として、ペルルと数名の炎帝の民がついていった。
ペルシア族との同盟、ドワーフ族の移住と、この数日で物事がどんどん進んでいく。エルグが「これを機に村を広げてはどうか?」と焔に尋ねた。
「それは良いかもな。それなら、ドワーフ達が再建する村からこの村まで繋げてしまったらどうじゃ? ペルシア族も増えるのであろう?」
「それは良い案ですな」
そう言って二人は俺を見る。
(なぜ俺を見る。)
「そういえば、レン様の住まいはどちらになさるので?」
「え? 僕?」
そう聞かれて初めて気づいた。俺は異世界で目を覚ましてから今まで色々ありすぎて忘れていたが、拐われる前の記憶がない。現世の記憶はあるが。
普通にこの村に滞在していたが、俺もよそ者だったのを忘れていたのだ。
「実は拐われる前の記憶がなくて、どこから来たかも分かってないんですよね。王都にでも行って住むところでも探してみますよ」
「何を言っておる。ここに住むに決まっておろうが」
(は?)
俺がエルグに答えたのに、さも当たり前みたいに焔がエルグに答える。
「レンはここに住む。村の開拓と一緒にレンの家も造ればよかろう。ちなみにワラワも住むから宜しくのう」
(おいおい。俺の意思はどうした。それに一緒に住むって。)
しかし、俺としても内心嬉しかった。この世界に来たばかりだとはいえ、一番一緒に居た人達と生活出来るからだ。何よりもみんな気のいい人ばかりだ。
エルグは「分かりました」と言って、俺がこの村に住むことを認めてくれた。
「そうじゃ。これを機に村に名前を付けよう。そうじゃなぁ、『光月村』はどうじゃ?」
「えっ! そ、それはやめない?」
「良いではないですか! 光月村! 早速皆に伝えておきます」
(おいおい。君達炎帝の民じゃないの?)
焔とエルグの勢いを止めることが出来ず、新しく造っていく村を『光月村』と呼ぶことに決定した。
それからさらに数日が経ち、セリナ達とベレン達が戻り、村に住む全員がそろった。既に村から碑石にかけて開拓が終わっていた。皆が「いつの間に」とざわついていた。
俺を迎え入れてくれることに対してせめてものお礼だ。稽古と称して焔にも付き合わせた。
開拓された場所に住民全員が集められた。炎帝の民三百名、ドワーフ族百名、獣族百名、俺を含めた客人三名、総勢約五百名だ。
炎帝の民代表はエルグ、ドワーフ族代表は族長のゼノス、獣族代表はペルシア族長代理のセリナ、そして俺は客人代表として皆の前に立たされた。
焔が代表者の前に立ち、全住民に向けて話し始めた。
「皆の者よく聞け。今日この時より、炎帝の民族長エルグ、ドワーフ族族長ゼノス、ペルシア族族長代理セリナ・ペルシア、光月家代表のコウヅキレン、この代表者四名によって同盟が結ばれた。
この同盟は村の発展と保護、そして何よりも同族の救出を第一目的としている。
この世界は元は争いもなく平和な世界であった。今やその影もなく、争いは起こり、人身売買を目的とした人拐いまで横行している。ここにいる者達や、未来の子供達が、安心して暮らせる世界がもう一度やってくることを願うばかりである。ワラワはこの村がその礎になること信じている。皆も種族の垣根を越え、手をとりあって協力して欲しい」
初めて焔が四帝なんだなと思った。神の御使いで世の中の平和を願う守護者だ。これで変なこと言わなければ完璧だ。
「改めて宣言しよう。炎帝の使いであるこの光月焔が認める! 光月同盟の締結じゃ!」
(えっ! なにそれ!?)
俺は何も聞いていない。他の代表者の顔を見ると、皆なぜか納得している表情だ。五百人近くいる住民も、焔の宣言で歓声を上げている。俺以外は皆承知していたようだ。焔はこちらを見てニヤニヤしていいた。はめられた。
その後エルグから、今後の建築計画が発表された。
技術監督はドワーフが請負うことになった。炎帝の民の住居は古くて脆くなっていたのでこの機に全部立て直すという大計画になったのだ。
それによって村の配置も変更になり、炎帝の碑石の場所を村の入り口にし、その周辺を炎帝の民の住居にした。
入り口から真っ直ぐ大通りにして、そこに今までなかった商店街を造ることになった。
大通りの右側一帯をドワーフ族の住居とし、左側をペルシア族の住居とした。大通りを抜けると広場があり、その一帯に各種族の大使館的な建物を造り、俺の希望で道場と銭湯を造ってもらうことになった。大通りを抜けた突き当たりに位置する場所に、皆が集まれる寄り合い所的な建物を造ることになったのだ。最後に村の周りを塀で囲むことが決まり、この建築計画が完成したのだ。
住居は今ある素材で何とかなるが、それ以外の予算と物資が当面の課題になっている。
これは、計画段階であがっていたことだ。炎帝の民の生活は、ほとんどが自給自足だった。これからは外部の物資を取り入れていく必要がある。そしてそれには資金が必要になった。当面はドワーフ族とペルシア族からの資金提供があったので、それで賄うことができるが、それでは先が無い。
この後、現世での俺の知識がこの村の発展に大きく影響することになるが、それを知るのはまだ先の話だった。