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大宴会がおおごとになりました

 大宴会はパルティアに残っていた反王国勢力(レジスタンス)のメンバー全員が参加することになった。あまりの多さに、出店を広げるやつらまで出できたのだ。


 マルクスさんの店がある商店通りが俺たちの宴会場と化してしまったのだ。


「お兄ちゃん、これほとんどお祭りじゃない?」


 桜火が(おどろ)くのも無理はなかった。ぱっと見千人以上はいる。パルティアに残っている人全員集まっているのではと思った。屋台が出たことで、関係のない人たちも参加し始めたのだ。


「ははは、こんなに集まるとはね。さすがマルクスさん」


 俺たちはマルクスさんの店の前に陣取り、宴会の準備を始めていた。


 今日の宴会は送別会も兼ねているが、実は他にも目的があった。実は何もかもうまくいっている訳ではなかったのだ。


 王城での戦いのあと、負傷して退場になった。ルカ、シャル、メル、マイル、そして、負傷はしなかったものの、師団長を倒しきれなかったセリナたちが、気を落としたままだったのだ。


 俺が彼らの稽古を見るようになってから、初めて感じた敗北だった。稽古や身内との戦闘以外で、ここまで戦力差を感じた事がなかったのだ。


 特に責任を感じていたのはルカとセリナだった。


 ルカはシャルを守ることができず、セリナは月光の頭だからだ。二人とも責任感が人一倍つよいのだ。


 ダキアにやられたルカの怪我が思ったよりひどく、ちゃんと回復して、こうやってみんなが揃うのは久しぶりだった。 


「ルカの怪我も治って、こうやってみんなが無事に顔をそろえることができて本当に良かった」


 俺が話し始めると全員が真剣な顔になって俺の方を向いた。


「まずは、皆に謝りたいと思う。本当に申し訳ない」

「師匠······」


 ルカが何か言おうとしたが俺はそれを制した。


「皆は僕のせいじゃないと言うと思うけど、結果が全てだ。一つでも間違えていたら、誰が死んでもおかしくなかった。それは指導不足である僕の責任だ」


 皆も俺と同じように責任を感じているのは顔を見れば分かった。大切な人を守りたい時に力不足では意味がない。俺は指導者としてそれを回避させる(すべ)を教えなければいけないのだ。俺はそれを怠った。


「クラークもストロノースも強かった。そして、何より黒翼の魔人ダキアが圧倒的に強かった。僕も対策なしでは勝てるかどうかも分からない程の強さだと思った。

 対峙してみて桜火と狐月はどうだった?」

「私はまだ無理かな······」

「私も勝つことはできないと思います」

「ルカはどう?」


 ルカにとっては辛い質問だ。手も足も出なかったのだから。


「感情的に動いてしまっていたので、まったく攻撃の気配を感じることができませんでした。それだけではありません。威力も質も今まで感じたことがないくらい強かったと思います」


 ダキアは素手を軽く振っただけでルカを吹き飛ばしたのだ。それだけに動作に一切の無駄がなかったことを覚えている。


「皆は落ち込んでいるかもしれないけど、僕は少し嬉しいこともあるだよ」

「どういう事でしょうか?」


 セリナが不思議そうに聞いてきた。


「今まで皆が強すぎて、誰も相手にならないんじゃないかって心配してたんだよ」


 これは本当に思っていたことだ。エルミナとレザリアしか知らないが、光月旅団のメンバーであれば、中隊長クラスと戦っても平気で勝ってしまうだろう。それが、桜火や狐月、ルカ、ポルン、セリナ、(ほむら)ならほとんど敵がいないんじゃないかと思っていた。


「自分で言うのもなんだけど、負けを知らないで成長するのって結構大変なんだよ」

「師匠は負けたことがあるんですか?」

「あるある。でも、僕より強かった人がいなくなったとたんすごく寂しくなったのを覚えてるよ。それからはずっと無敗で生きてきたからね。それでも最近負けたことがあって、その時は本当に嬉しかったよ。どうやって勝とうか毎日試行錯誤していたからね」

「あっ!」


 光月村にテスタが視察に来た際に、俺が特別稽古で顔をパンパンに腫らしていたことを、みんなが思い出したらしい。


「まだまだ、僕の知らない強さがあると改めて気づいたよ。そうだ、僕が今の段階で最強だと思う人が誰か知りたいかい?」


 この質問には全員が食いついて来た。


「それは帝国の聖女、マリア・ロベルタだろうね」

「お兄ちゃんでも勝てないの!?」

「そんな! 若様なら勝てるのではないのですか!?」

「あの人だけは異質だよ。残念だけど全く勝てる気がしないね。出会ってから、帰るまで1ミリも隙を見せないってありえないよ。どれだけ鍛練をつめばあそこまで行けるのか、考えただけでもワクワクしたけどね」

「帝国の聖女とはそれほどの人なのですか······」

「そっか、ルカは会っていないんだよね。今度帝国に行くときは一緒に行こうか」

「是非お願いします!」


 ルカの目が期待に満ちた。しかし、若干2名の目は違った。


「ちょっとお兄ちゃん。なんで帝国に行くの?」

「若様、そのあたりを詳しく」


 やば。内緒で行こうと思ったのについ言っちゃった。


「と、とにかく、僕も強くなる目標が見えた。そして、まだまだ皆を強くすることも出来る。だから、今回のことで落ち込むのは今日で終わりにしよう」

「······今より強くなれますか?」

「ルカはどう思ってるの?」

「今のままではダメだと思っています。······でも」

「皆はクラークと戦うまで、自分たちの成長速度に対して焦りを感じてなかったと思う。でも、今回の戦いで焦りや不安を覚えたはずだ。

 それは僕も同じで、ダキアのような強敵がいるなら、今のままでいるのは危険だ。それに、僕の強さの基準はマリア・ロベルタになってるからね。このまま黙ってはいられないよ」


 光月道場での力関係はあったが、命をかけた戦いは今まで無かった。


「僕らの中で、成長速度が一番早いのは誰だと思う?」

「桜火でしょうか?」

「うん。桜火も狐月もかなり速いね。でもそれ以上に成長速度が速い人が一人だけいるんだ」


 これには桜火も食いついた。狐月もかなり気にしているのが分かる。


「それはバッツだよ」

「バッツですか!?」


 意外な人物の名が出て皆が驚いていた。とくに同じ部族のセリナが一番驚いていたかもしれない。


「バッツは一度大切な人を失う経験をしてるんだ。実際は無事に生きていたんだけど、バッツが命がけで守り、失敗した。彼にとってはそれが事実だった。

 二度と大切な人を失わない為に、一日でも速く強くなれるよう、そればかりを考えているよ。ちなみ彼の目標は僕を倒すことみたいだけどね。

 ルカ。今の君ならバッツの気持ちが分かるんじゃないかな?」

「はい! 僕がシャルを守ります!」

「······ルカ様」


 シャルは幸せものだなぁ。


 ルカの顔からは迷いが消えていた。


「ルカだけじゃない。セリナも、シャルも、メルも、マイルも、そして、桜火も狐月も、まだまだ皆強くなる。弱かった自分達は今日で終わりにしよう!」

「「「はい!!」」」


 宴会場に大きな声が響いた。


 そこからはマルクスたちも参加して俺たちの大宴会が始まった。


 楽しい時間が過ぎていったが、しばらくすると大事件が起きた。


「ま、ま、ま、マルクスさん! た、たいへんです!」

「どうした!?」

「お、王都から······じょ、女王陛下が······」


「「「············」」」


「「「えええええええ!!!!」」」


 俺たちが明日出発することと、その送別会が開かれているという情報を聞きつけたアルスが、王城を抜け出し、こちらに向かっているという。アルスを先導しているのは叙爵したばかりのユリベラだった。

 そしてレイブン総長が直々に護衛についているようだ。


 それでいいのか女王陛下······。


 その後のパルティアは、戴冠式より盛り上がったという。

ここまで読んで頂きありがとうございます。


第三部のレザリア王国編も残すところあと2話になりました。


残りの2話を9月22日(日)に投稿致します。


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