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シャルティアのお姉ちゃんはソフィア

 公爵邸での会談から数日がたった。


 ストロノースとレイフォードの死に関しては、会談の翌日に発表されていた。アルスの意向で国民には包み隠さず真実を発表することとなった。


 多くの国民はストロノースの死を受け入れることが出来ずにいた。それだけストロノースがレザリア王国に対しての貢献が大きかったのだろう。


 今日は王城でアルスの戴冠式が行われることになっていた。


 俺は戴冠式に招待されていたが、新しいレザリア王国の女王誕生に部外者がいては申し訳ないと思い、丁重にお断りをした。


 アルスには、


「レン様は部外者ではございません。我が国のれっきとした国民です」


 と言って俺をレザリアに取り込もうとしていた。


 いやいや。俺はエルミナの国民、いや、何なら炎帝(えんてい)の森にある村民(そんみん)なのだが。これを言うとテスタにも怒られそうだな。


 会談が終わった日からずっと、俺はアルスからレザリア王国に籍を置いて欲しいと迫られ続けた。


 そして戴冠式の今日、俺たちはアルスの勧誘をかわし、パルティアの街にいた。ダキアの攻撃を受けたルカがパルティアで療養していたが、マルクスさんから回復したとの連絡があって、今日みんなで集まったのだ。


 いつも人で賑わっているパルティアも、ほとんどの人が新女王を一目見ようと、王都に行ってしまって閑散としていた。


 ルカと、ストロースが(かくま)っていたとされる、(さら)われた子たちがマルクスの店にいたので、俺たちはそこへ向かった。


「こんにちはマルクスさん」

「これはこれはレンさん。今回は色々とお世話になりました」

「とんでもない、それはこちらのセリフですよ。僕たちもマルクスさんに出会ってなければ、みんなを助けることができませんでしたから」


 これは大げさではなく、本当のことだ。天啓(てんけい)のことをロベルタに聞いて分ったことだが、マルクスさんと出会っていなければ、ダキアの襲来より速く、魔族の子供を救出することも出来なかっただろう。そのおかげで、レザリア王国がダキアの報復を受けずに済んだのだ。


 全てはマルクスさんとの出会いから始まったのだ。


「マルクスさんは戴冠式に行かなくて良かったのですか?」

「はい。私は、レンさんたちのおかげで、戴冠式前に女王陛下との謁見がかないましたから」


 反王国勢力(レジスタンス)のメンバーは、アルスを支えていたこともあり、戴冠式前日に全員がアルスとの謁見を許されていたのである。


「でもユリベラさん、いきなり叙爵(じょしゃく)なんて、すごいですね」

「私も聞いた時には、驚きました。反王国勢力(レジスタンス)の多くのメンバーがそのままユリベラに仕えることになりましたからね。平民出の我々にとっては大変ありがたいことです」

「それはいいですね」

「レンさんはいつまでこの国に滞在されるのですか?」

「今日はそのことも伝えようと思って、マルクスさんに会いに来たんですよ」


 俺たちが追ってきた人身売買の多くがこのレザリア王国と繋がっていて、王城で囚われていた子を助けたことで、探していた多くの被害者を見つけることができた。

 さらに、反王国勢力(レジスタンス)の調査によって、売られてしまった子の販売先の情報を入手することができたのだ。

 そして人身売買の買い手の多くが貴族だった。


 エルミナ、レザリア、アールスフォードに関してはすでに極太のパイプが出来ているので、三国での救出は時間の問題だろう。


 ある程度の目的を果たせたので、俺たちは一度エルミナに戻り、その後、我が家へ帰ることを決めたのだ。


「そうですか。明日出発されるのですね。寂しくなります」


 そんな話をしていたら、一人の女の子がこっちを見ているのに気づいた。


 あれ? あの子は確か······。 そうだ、ルカがレザリア王国に来た時に助けた子だ。


「あれって、ルカが助けた子じゃない? ほら、勘違いして暴れた」

「い、言わないでください師匠」


 俺がそう言うと、杖をついたルカが部屋から出てきた。


「ルカ! 大丈夫だった? 心配したよ」

「ご心配おかけしました」


 恥ずかしさもあったが、ダキアに負けた事のほうを気にしているようだった。


「それよりルカ、あの子って」

「はい。僕もさっき知ったのですが、実は······」


 ルカが応えるより先にシャルティアの声が響いた。


「お姉ちゃん!」

「「「お姉ちゃん!?」」」


 全員が(おどろ)く。


 ルカが勘違いしてパルティアの冒険者をぶちのめして助けた子はシャルティアのお姉ちゃんだったようだ。


「シャルってお姉ちゃんいたの?」

「はい。実は······」


 シャルティアの姉はソフィアという。


 ソフィアはシャルティアが拐われてから一人で探し回っていたらしい。シャルティアは注意されていたのに、2度も拐われてしまい、村での捜索が後回しにされてしまっていたのだ。


 探している最中に賊に拐われたうえに、利用され、シャルティアも一緒にレザリア王国に連れて来られてしまい、その途中でルカに救出されたというわけだ。


「お姉ちゃんも無事だったんだ」

「それはこっちのセリフよ! ずっと心配してたんだから!」

「ご、ごめんなさい。でも、お姉ちゃん、勝手に村を出てきて大丈夫なの?」

「マジでやばいわ! はっはっはっ!」


 俺はすぐにシャルティア以上のおてんば娘だと悟った。

 

「それよりも、シャル。この人たちは?」

「私が村に帰った時に話したでしょ。最初に賊から助けてくれたのがレンさんで、その後に拐われた時に助けてくれたのがこちらのルカ様です」


 あれ? 俺は「さん」で、ルカは「様」なんだ。なんかちょっと悲しい。


「はじめましてソフィアさん。レンといいます」

「ご挨拶が遅れました。ソフィア・ラフィーナと申します」


 おてんば娘の雰囲気を消して、ソフィアは丁寧にお辞儀した。


 俺はソフィアに、シャルティアを助けたあと、一緒に行動を共にしていたことを説明した。そして、今回拐われたのが3度目だったことも。


 それを聞いたソフィアがシャルティアを睨むと、シャルティアはルカの影にスッと隠れた。


「レン様。妹ともども、助けて頂き本当に感謝しております」

「御礼はルカに言って下さい。ルカはシャルの勇者様なので」

「あら! そうなの!?」


 俺は面倒をルカになすりつけようとした。それが見事にはまり、ルカがソフィアに質問攻めにあっていた。 


 ルカたちが騒いでいる間に、マルクスさんと話を進める事にした。

 

「マルクスさん。今日までみんなの面倒を見てくれてありがとうございました」


 マルクスは今日まで助けた子たちの面倒をみていてくれたのだ。


「気にしないでください。みんな店のことを手伝ってくれて、こっちも大助かりでしたから。彼らも一緒に行かれるのですか?」

「はい。一度エルミナに戻って、それから元の場所に送り届けようと考えています」

「それはみんな喜ぶことでしょう。なら、私は彼らの身の回りの物を用意するとしましょう」


 そう言うとマルクスは、必要なものを用意するようにと、従業員に指示を出した。


「そうだレンさん。明日帰るのなら、今日はパーッと送別会でも開きましょう」

「いいですね。是非お願いします」


 こうしてパルティアの一部で夜の大宴会が開かれることが決定した。


 しかし、この大宴会がパルティアの歴史に残る大宴会になることを誰も予想していなかった。

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