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異常事態

 俺はこの声に聞き覚えがある。以前炎帝(えんてい)の森付近で遭遇した、北の厄災と呼ばれている黒龍(ドラゴン)に似ていた。


 黒龍の出現と同時に、城の外に強い気配が現れたと思ったら、次々と多くの気配が消えていくのが分かった。城の外で何かが起きている。


 悠長に断罪を行っている場合ではないかもしれない。


 アルスたちの避難を考えていたらセリナが判断をあおってきた。


「若様」

「うん。セリナさんはアルス様を、ルカはアルベルト公爵を、メルとシャルでその子をお願い」


 マイルの姿はなかった。月光の手によってすでに場外に連れ出されているようだ。判断と行動が速すぎる。


 ハザクとハウザーはまだ気を失っていた。二人ともギルドマスターだし何とかなるだろう。


 俺の目の前にはまだ膝をついたストロノースがいる。


「あなたには聞きたいことがあります。少し付き合ってもらいますよ」

「フッ······そんな時間があるかな? 私は最初に言ったはずだ彼には(・・・)死んでもらうと」


 ストロノースがそう言った瞬間ルカが叫んだ


「シャル!」


 先ほどまで倒れていたクラークがシャルとメルに襲いかかっていた。二人とも辛うじて攻撃を防いだが耐えきれずに弾き飛ばされてしまい、その場に魔人の子供が残されてしまったのだ。

 そして気づくとクラークの横には同じく倒れていたもう一人の師団長が立っていた。


 師団長は魔族の子供の首を掴みあげていた。


「やめろ!」


 すぐにルカとセリナが飛び出そうとした。


「動くな」


 クラークに言われてルカとセリナは動くことが出来なくなった。


 俺は先ほどまでハザクとハウザーが転がっていた場所を見た。いつの間にかいなくなっていた。その二人が、クラークに弾き飛ばされたシャルとメルの首元に剣をつきつけていたのだ。


「なんで······」

「あいつらは今、私の支配下にある。首を飛ばせば止まるがな。分かっていると思うがやつらは死人(しびと)ではない。

 これは君が招いた結果だよ。さっき、やつらにとどめを刺していればこの状況は起こらなかった。クラークも言っていただろう、自分の首をはねろと······」


 クラークはこの状況になることを分かっていたみたいだ。だから、俺との戦いであんなことを言っていたのだ。


「これは君の(とが)だ······」


 ストロノースがそう言うと、彼の支配下にあったクラークたちが人質に対し剣を振りあげた。


 その時だった。部屋の扉が突き破られて見覚えのある二人が入ってきたのだ。


 シャルとメルを人質にとっていたハザクとハウザーの剣は空を切り地面に叩きつけられていた。寸前のところで入って来た二人がメルとシャルを救出したのだ。


 「桜火(おうか)! 狐月(こげつ)!」


 俺は二人の登場に喜んでいたが、メルとシャルを抱えている二人は何故か慌てていた。


「みんな逃げて!」

「若様! 早く避難を!」


 桜火と狐月の呼びかけによってその場にいる全員が異常事態に気づいた。


 魔人の子供を掴み上げていた師団長の胸から腕が突き出ていたのだ。クラークの振り上げていた腕は肘から先が無くなっていた。


 ルカが倒れた魔族の子供を助けようと飛び出した。


「ダメだ動くな!」


 俺の忠告もむなしく気づくとルカが壁に叩きつけられていた。


「遅かったか······」


 ストロノースが呟くと、その姿が現れた。


 そこに立っていたのは黒い翼を持つ女の姿だった。エルミナ王国では知らぬものはいない。


 黒翼の魔人だ。


 俺も遠目でしか見たことがなかった。見た目は美しい女性だったが、その瞳からは、人から伝わるような感情が一切感じられなかった。


 黒翼の魔人は師団長の死体をまるでゴミでも扱うように振り払った。


 両サイドにいたハザクとハウザーが黒翼の魔人のほうへ向きを変えた。ストロノースの支配が続いていたのだ。


「やめろストロノース!」


 まずい、ハザクとハウザーが向かって行けば確実に殺される。俺が叫んだことで、桜火と狐月が反応してくれた。


 ハザクは桜火に蹴り飛ばされ、ハウザーは狐月に鉄扇で殴り飛ばされていた。壁まで吹き飛ばされた二人だが、すぐに起き上がった。


 支配の力とはこれほどのものなのか。


 俺はストロノースを見た。こいつをやらなければ二人を止めることができない。止めなけ殺されてしまう。アルスには悪いが約束を守ることはできなくなった。


 俺の殺気に気づいたのか、狐月と桜花の叫ぶ声が聞こえた。


「若様だめです! おやめください!」

「セリナさんお兄ちゃんを止めて!」

 

 セリナが飛び出してくるのが分かったが、すでにストロノースは俺の間合いの中にいる。一番近くにいるセリナでも間に合わないだろう。


 俺が振った刀は、ストロノースの首めがけて水平に走った。


 確実に首をはねるはずの間合いだった。俺もそのつもりで刀を振っていた。それなのに、なぜか俺の刀はストロノースの首に届かなかった。


 気づいた時には、俺は後ろに飛ばされ、尻もちをついていた。


 俺のお腹の上にはしがみついて放そうとしない月光がいた。俺はこの小さな月光に突き飛ばされていたのだ。俺の間合いに気づかれずに入れるやつは一人しかいない。


 ストロノースの腹部にはトゥカが愛用していた小太刀が刺さっていた。


「若様はだめにゃ······」


 小さな月光は肩を震わせていた。俺はこんな小さな子にまで守られてしまった。そして、また責任を負わせてしまったのだ。


 ストロノースの意識が無くなったせいか、ハザクとハウザーがその場に倒れた。


 これでストロノースとの戦いは終わったが、まだ黒翼の魔人が残っていた。

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