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招かれざる客

【別視点】 桜火(おうか)狐月(こげつ)



 戦場に展開したレザリア王国軍の一部の兵士たちが混乱をきわめていた。


 桜火と狐月がレザリア王国の王都に向かうためにレザリア王国軍のど真ん中に突っ込んでいったのだ。


 先頭にいる兵士たちは自分達に突っ込んでくる二人の人影を捕えていたが、ひとたび中に入られると、認識する前に過ぎ去ってしまうので誰も対応できずにいた。

 先頭の方からは「敵襲!」と騒ぐ兵がいるが、それい以外の兵士たちは何も見えていないので気づいていなかった。

 後方で騎乗している中隊長クラスが辛うじて何かが高速で移動しているのに気づき指示を出すも、誰も反応できる者がいなかった。


「何をしている! 第一陣抜かれるぞ!」



 ピーーーーー!!



 二人が突っ込んでいった場所を指揮していた大隊長が、事態に気づいて本陣に警笛(けいてき)を鳴らした。


 すでに二人は第一陣を突破していた。そのまま第二、第三陣と突破していく。


 警笛を聞いた本陣の騎馬隊が二つ飛び出してきた。先頭を率いている隊長は二人を認識しているらしく、桜火と狐月、それぞれに向かって行った。


 先頭の隊長が剣を抜き、目の前に来た侵入者を斬りつけた。隊長の剣は侵入者の体を斬りつけ、視認できている者全員、胴体が真っ二つになったと思っていた。


 しかし、斬りつけたはずの桜火と狐月の姿はいつの間にか消えていた。


 この時桜火と狐月は跳躍(ちょうやく)し、騎馬隊の真上を通過していた。


「うわー。本当に気づかないで斬りつけてるよ」

「マダムから教わったのだから当然だと思いますよ」


 二人が使ったのはロベルタから教わった奥義のひとつ『明鏡止水(めいきょうしすい)』だった。

隊長達が認識していた二人の姿は、全て彼らの脳裏に焼き付けられた残像だったのだ。


「桜火さん、このまま本陣も抜けて行きましょう」

「はーい!」


 本陣ともなると、攻撃をしてくる兵士が多かった。二人はそれらの攻撃を全て(かわ)しながら、なんなく抜けて行った。



 レザリア王国軍を突破した桜火と狐月は北側の上空を見上げた。そこには大きな翼を広げた黒龍(ドラゴン)が飛んでいた。


「あっちのほうが早そうだね」

「急ぎましょう」


 黒龍はまだ二人の後方に居た。二人は更に速度を上げていった。


「そういえばイーファさんって、なんであそこにいたの?」

「あれは、レザリアの王城から転移で飛ばされてきたそうです」


 ロベルタの話では、イーファは王城での戦闘中、敵が使った転移結晶(トランシス)によって、ミセラ砦の戦場に転移させられたという。


 狐月は、この話を聞いた時ロベルタが「あの子が居たら全員殺しちゃうから邪魔なのよ」と言っていたのを思い出した。


「イーファさんが敵を殺すとなにか都合が悪かったのではないでしょうか」

(おう)···マダムはそんな細かい未来まで見れるの?」

「はい。マダムが選択した未来は必ずその通りなります」

「じゃあ、全部思い通りにできるってこと?」

「全部ではありません。変えようと思っても変えられないものもあるようです。どの時点で何を選択すればその未来が変わるのか。何をどのようにしても一つだけ変えられないものがあったそうです」

「お兄ちゃんの······死······」

「······はい」


 二人はロベルタからレンが近い将来死ぬことになると聞いていたのだ。


「でもマダムは可能性はまだあるって言ってたよね?」

「はい。マダムが見た未来で気づいたことあるそうです。若様が誰かを(あや)めた時、真っ直ぐ死の未来に向かって行くそうです。若様を死から遠ざけるには若様に掟というものを守ってもらうことが絶対条件だとマダムは言っておりました」

「それならイーファさんが王城にいた方が都合が良かったんじゃない? それは変えられなかったのかな?」

「多分イーファさんではダメなんだと思います······。

 私は若様の為ならこの手を汚すことに何のためらいもありません」


 狐月の言葉を聞いて、桜火も理解したようだった。


「私も同じ気持ちだよ。それでお兄ちゃんが死なずに済むなら······」

「でもきっと若様は責任を感じてしまうでしょうね······」


 二人の表情が曇る。


 しばらく間、無言で走っていたら、桜火が覚悟を決めたように自分の頬を両手で(はさ)むように叩いた。


「ど、どうしました」

「マダムはあたしたちが鍵だって言ってたよね」

「はい」

「お兄ちゃんには掟を守ってもらう。そういう状況になったら私は迷わず行動するよ」


 桜火の顔から迷いがなくなっていた。


「狐月さんはどう?」

「ふふふ。愚問ですよ桜火さん。若様がいない未来なんて考えられません」

「······。狐月さんてってさぁ、お兄ちゃん好き過ぎない?」

「それこそ愚問です」


 二人はいつの間にか笑っていた。


「若様のところへ急ぎましょうか」

「うん! 行こう!」


 桜火と狐月は更に速度をあげていった。二人の視界にはレザリアの王都が広がっていた。そして、その上空に例の黒龍の姿があった。


 すでに二人を追い越していた黒龍が王都の上空に位置しており、旋回を始めていたのだ。そして王都全体に響くほどの咆哮を放っていた。


 王都に到着すると桜火が黒龍を見て叫んだ。


「あれって北の災厄じゃない!?」


 桜火は以前、レンと(ほむら)と三人でいる時に北の災厄と言われる黒龍と対峙したことがあった。


 黒龍が王城に向かって降下を始めた。


 二人が急いで王城に向かおうとすると、王都中の住民がパニック状態に陥っていた。あまりにひどい状況に動けなくなっていると、二人の背後から急に声をかけられた。


「桜火様、狐月様、お久しぶりでございます。お二人ともご無事でなによりです。どうしてこちらに?」


 振り返ると、黒装束に仮面をつけた月光(げっこう)がいた。セリナの部下である。


「話は後で。申し訳ありませんが王城までの案内を頼めますか」

「こちらです」


 月光はそう言って、移動を始めた。二人もすぐに後に続いた。


「どういう状況か教えてもらえますか?」

「はい。一連の誘拐事件の首謀者と思われる人物がこの国の国王とつながりがあることが分かりました。(さら)われた者たちはすでに救出が済んでおり、現在若様は、王国の公爵令嬢と一緒に国王断罪の為に王城にいらっしゃいます。

 そこで戦闘が始まり、イーファ様が敵の転移結晶(トランシス)によって退場。ルカ様、セリナ様、他三名によって、公爵、公爵令嬢、魔族の子供を護衛中。

 現在若様によって敵全員の無力化に成功しております」


 それを聞いた二人に緊張が走った。


「死者は?」

「死者は20名ほど出ており、ルカ様が師団長を······。他は無力化後、我々以外の何者かの手によって刺殺されたと思われます」

「どういうこでしょうか?」

「分かりません。若様がクラーク師団長を相手にしている際に、ルカ様とセリナ様が敵兵を相手にしておりました。若様の命令で殺さないよう言われていたので、全員気絶させておりました。

 しばらくすると急に全員立ち上がり、その胸には短刀が突き刺さっていたのです」

「その状態で立ったのですか?」

「はい。その後どんなに攻撃しても無力化できず、死人(しびと)と判断したルカ様が首をはねたことにより完全に停止しました」


 狐月と月光の会話が続く。


「それで今は?」

「ルカ様が師団長を倒した後に、若様がその場を制圧し、国王の断罪に入るところでした。私が共有しているのはここまでになります」

「わかりました」


 とりあえず今の段階で、レンが掟を破った事実が無いことが分かって二人は安堵した。しかし、二人は王都に入ってからずっと気になっていることがある。桜火がそれを口にした。


「ねえ。お兄ちゃんたち以外に戦闘は起きてるの?」

「いえ、現在王城から敵を逃がさない為に城門を封鎖しているだけで大きな戦闘は起きておりませんが······ッ!?」


 桜火に聞かれて月光も何かに気づいたらしい。


「狐月さんこれって······」

「ええ。誰かが戦っているようですが殺気が大きすぎます」


 二人は王都に入ってからずっと殺気を感じていた。それは王城で戦闘中のレン達のところから感じるものだと思っていた。

 しかし、月光からの報告を聞く限りでは、殺気を感じるような状況ではなかった。


 そうこうしている間に王城の前までやってきた。


「城門を封鎖していたんじゃありませんか?」


 狐月に軽く睨まれた月光が慌てていると、そこに別の月光がやって来た。狐月に睨まれた月光がすがるように説明を求めた。


「先ほどまで公爵家の私兵でここを封鎖しておりましたが、黒龍が現れた瞬間、何者かが場内に侵入しました。残念ながら、その者は我々では太刀打ちできないと判断し、私兵は避難させることにしました。現在は我々月光数名で監視することしかできておりません。我々の力不足であります」


 報告した月光が頭を下げる。


「いえ、正しい判断だったかもしれませんね」

「うん、ちょっと普通じゃないかも」

「あとは私たちに任せて、監視に戻っても大丈夫です。あなたも案内ご苦労様でした」


 月光の二人は頷き、姿を消した。


 城門を開けると目を疑った。


 そこには王国兵士と思われる死体が広がっていた。一目見て絶命していることが分かる。容赦のかけらもない、まさに蹂躙(じゅうりん)だった。


 殺気の主がすでに場内に入ってるのが分かる。


「狐月さん急ごう」

「はい」


 二人は気配の後を追って城内に入っていった。


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