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【別視点】 ミセラ砦

【別視点】 ミセラ砦



 アールスフォード帝国の軍がレザリア王国に向けて進軍していた。すでに、国境であるミセラ砦を越えている。


 近年、帝国が他国に向けて軍を起こすことはなかった。今軍を率いているのは帝国の聖女と呼ばれているマリア・ロベルタだ。


 ロベルタは他国への侵略行為を禁止し、帝国内の貴族が、自分の利益の為に領土を拡大させようなど企むものなら粛清(しゅくせい)を行うほどだ。


 そのロベルタが先陣を切ってレザリア王国に軍を進行させたことに、帝国内の誰もが信じられないでいた。


 今までロベルタに抑えられていた貴族たちに猛反発を受けていたが、アールスフォード帝国現皇帝の一言で、誰も声を上げることが出来なくなったのだ。


 ロベルタが皇帝に告げた言葉は『天啓(てんけい)』の一言だった。


 他国に進軍しているとは思えない豪華な馬車が一台、軍の中に混ざっていた。その中にいるのは、ロベルタと桜火(おうか)狐月(こげつ)の三人だ。桜火と狐月は緊張を隠せないでいた。


 全てを見通す未来覗を持つロベルタにとって、何も緊張することはなかった。鼻歌を歌い、口元には笑みを浮かべているほどだった。


「なんでマダムはそんなに嬉しそうなの?」


 桜火に問われて、自分が無意識のうちに喜んでいることに気づいて、あわてて取り繕った。


「べ、別に、そんなことはないわ」

(いや絶対何か楽しみにしてたでしょ)


「そんなことより、あなた達の心の準備は大丈夫? 失敗は許さないわよ。

 もし、あの人になにかあったら······。この世界に未来はないわ」

「わ、わかってるよ」

「とくに狐月。あなたの責任は重大よ。この先の未来はあなた次第と言っても過言ではないわ」


 その言葉を聞いて狐月の表情をさらに曇らせた。


「私に出来るでしょうか······」


 見かねてロベルタが語りかけた。


「私が最初に受けた『天啓(てんけい)』はキティの未来だったわ」

「「えッ!?」」

「狐月、あなたが育ったあの孤児院ね、あそこは帝国が忌み子(いみご)と呼ばれる子供たちを処分するために用意された施設だったの」


 ここからロベルタの話が始まった。




   ***




 帝国は昔から魔法の才能に秀でた者を聖女候補として集めていた。ある期間でその力を覚醒できなかった者は忌み子(いみご)として、帝国から追放されることになるのだ。


 しかし、追放とは名ばかりで、実際は孤児院送りにした後に、全員が処刑される運命が待っていた。


 忌み子(いみご)と言っても魔法の才能はあり、いずれ覚醒する可能性は十分にあったからだ。

 他国に追放した後に才能が覚醒してしまうと、そのまま他国の戦力となり、帝国の脅威にもなりえたのだ。


 当時のわたしは才能が覚醒することがなく、忌み子(いみご)として追放された。その時に一緒に追放されたのがキティだった。


 彼女たちは、他国に移動するための準備期間と聞かされて孤児院に向かった。


 しかし、そこは処刑場にほかならなかった。


 ある晩、孤児院は大勢の殺気に囲まれることになった。


 私は魔法は使えなかったが、昔から今みたいに強かったから、一人で制圧しようと思った。


 しかし、一人で守るには限度があった。


 私の目の届かないところから侵入を許し、キティの悲鳴が聞こえた。


 私が駆けつけると、二人の賊がキティの隠れていた部屋の入り口をふさいでいた。


 一人はすぐに制圧したが、もう一人の賊がキティを人質にとった。首筋には刃物が突き付けられていた。


 私は怒りに震えた。何の躊躇もなくその賊の腕を斬り落としていた。


 のた打ち回る賊を見下ろし、殺意しか芽生えないそんな時だった。私の脳裏に色々な映像が流れ込んできた。


 その映像はどれも未来の映像だった。その未来で、キティや仲間たちが何度も殺されていった。映像は何度も繰り返され、選択肢を変えると未来の内容が変化するが、必ず最後にはキティが殺されてしまうのだ。


 私の選んだ選択肢の中に、なかったものが一つだけあった。人を殺せなかった。私たちを(おそ)った賊に対しても致命傷はさけていたのだ。


 何度もキティが殺される未来を見ていた私は、一度だけキティを殺そうとしていた賊を殺した。その選択をした未来で、キティは成長し、今まで見たことない未来につづいていったのである。


 正気に戻った私は、激しい頭痛に襲われた。かなり長い時間映像を見ていた気がしたが、のた打ち回っている賊を見て、ほんの一瞬しか時間が経っていないことが分かった。


 目の前には気絶したキティを他の子が抱えていた。


 私はその時に覚悟を決めた。


 その晩、私は全ての賊を葬り去った。




   ***




「マダムって昔から化け物だったんだ」


 話を聞いていた桜火の第一声がそれだった。


「あなた、何を聞いていたの······。

 とにかく狐月。あなたが本当にあの人を大切だと思うなら大丈夫。必ずあなたにも出来るわ。それでも不安と言うのなら一つだけいいことを教えてあげる。

 これは『天啓(てんけい)』よ。あなたの未来は決まっている。でもあの人の未来を変えられるのはあなただけ。その内容は私にも見えないわ」


 『天啓(てんけい)』という言葉を聞いて、狐月から不安の色が消えた。


「わかりました。マダム。命に代えても若様をお守りいたします」

「そうしてちょうだい。失敗したら真っ先に殺しに行くわ······ねぇ桜火ちゃん(・・・・・)

「え!? わたし!?」

「当然でしょ」


 そう言ってマダムは嬉しそうに笑った。


 桜火達がワイワイやっていると、馬車の外が騒がしくなった。ロベルタが小窓から兵士に尋ねた。


「騒がしいわね。何かあったの?」

「はッ! どうやら先頭のうほうで不審者が行軍を邪魔しているようです」


 それを聞いたロベルタが一瞬何かを考えるしぐさを見せた。


「あら大変。あの子のことをすっかり忘れていたわ。あなた、馬車を先頭まで進めてちょうだい」

「はっ!!」


 ロベルタの指示を受けると、馬車の速度があがり、問題が起きている軍の先頭に着いた。


 ロベルタたちが馬車をでると、一人の男が暴れていた。


「なんなんだ貴様! 行軍の邪魔をすると命の保証はないぞ!」

「やれるものならやってみろ」


 一人の男に帝国の兵士が次々とやられていた。それを見ていた桜火が叫んだ。


「イーファさん!」

「ん? 桜火······、それと狐月じゃないか。なんでこんなところいるんだ」

「それはこっちのセリフだよ! お兄ちゃんたちと一緒じゃなかったの?」

「いや······それが······」


 イーファはこれまでの経緯を二人に話した。

 イーファはレザリア王国現国王を断罪する為に王城に向かい、そこで戦闘になり、敵の魔法石によって、レザリア王国軍とアールスフォード帝国軍の間に転移させられてしまったのだ。


 土地勘のないイーファは魔力の強さを感じる方に向かっていたら、帝国軍と対峙してしまったらしい。


 何かに焦っているのか、イーファは一気に喋っていた。


「とにかくレザリアの王城に戻りたい。どこへ行けばいいか教えてくれ」


 桜火は返事に迷いロベルタに視線を送る。ロベルタは全てが見えているようにイーファの前に出て、イーファの問いに答えた。


「あなたに王城に戻ってもらうと困るのよ。しばらくここにいてもらうわ」

「誰だおまえは」

「「あ······」」


 桜火と狐月が止めようとした時にはイーファは膝をついて悶絶していた。


「あなた、目上の人に対する口のきき方を教わらなかったの?」


 イーファは立つことが出来ずにそのまま気絶した。


 仮にも落神(おちがみ)であるイーファが手も足も出なかった。それを見ていた二人は、自分達がロベルタに求められている強さがどういうものなのか、改めて思い知らされた。


 イーファはロベルタの部下によって馬車に運ばれた。


「邪魔者は大人しくなったわね。二人とも準備はいいわね」

「「はい!」」


 ロベルタたちの目の前にはレザリア王国軍が到着し、陣を展開し始めていた。


「ここから先は二人にかかっているわ。私が言ったことは全て頭に叩き込んであるわね?」

「大丈夫」「問題ありません」

「そう。では、レザリアの軍は無視してまっすく王都に入って王城に向かいなさい。くれぐれもあれには遅れをとらないように」


 そう言ってロベルタは北の空を指さした。その先に黒い翼を羽ばたかせたドラゴンがレザリア王国に向かって飛んでいた。


「頼んだわよ」


 桜火と狐月は互いを見たあとレザリア王国軍に突っ込んでいった。桜火だけが何か思い出したようにロベルタ所に戻ってきた。


「お兄ちゃんに会いに来てね······桜火さん(・・・・)!」

「······いいから早く行きなさい」

「行ってきます!」


 二人を見送るロベルタは微笑んでいた。


「ロベルタ様、我々はいかが致しましょう」

「全軍待機。私が一人で向かいます」


 そう言ってロベルタはレザリア王国軍に一人で歩みを進めていった。

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