守るもの
クラークなぜ俺の事を知っているか気になったが、それよりも、クラークが言っていたことの方が頭から離れなかった。
クラークが言っているようにこの世界は俺がいた世界とは違って、目的の為に平気で人の命を奪うものがいる。
俺の頭の中では、ドレーヌの屋敷でルーカスが彼の首をはねた姿を思い浮かべていた。それと同時に、トゥカを利用してテスタの父親を手にかけたことを思い出し、トゥカが俺を刺した時の彼女の悲痛な顔が頭から離れなかった。
「貴様は、周りの人間にだけ十字架を背負わせ続ける気か?」
まるで心の中を覗かれているようだった。
「もう一度言う。今すぐ俺の首をはねろ。さもなければ、貴様以外の人間がまた十字架を背負うことになるぞ」
「······また?」
その言葉に俺の感情は大きく揺れることになった。
俺は連想してしまっていたのだ。
「間に合わなっかったか···今から起こることは全て貴様の責任だ」
俺が動揺した瞬間、目の前にいたクラークが姿を消した。俺がトゥカのことを考えていたせいで、クラークの気を読むことを怠ってしまったのだ。
すぐにクラークの気配を探ると、その気配は俺の後方にあった。
まずい、そっちは······。
「ルカ!」
俺が叫んだ時にはルカも動いていた。しかし、ルカの目の前には先ほどまでいなかった騎士が立ちはだかっていた。
セリナの方に目を向けたら、そこにも別の騎士が立っていたのだ。
二人の前に立ちはだかった騎士は先ほどまで戦っていた騎士たちとは比べものにならないほどの気配を放っていた。
そして俺の目の前にも先ほどまでいなかった男の姿があった。
「はじめましてコウヅキレン、私がストロノース・レザリアである。さっそくで悪いが彼には死んでもらう」
一瞬の出来事だった。クラークが消えた瞬間俺とルカ、セリナの前に敵が現れたのだ。しかも俺の目の前には今回の目的であるレザリア国王が立っていたのだ。
二人の目の前にいるのは、セリナの事前情報を考えると、レザリア王国の三師団長の残りの二人だという事がわかる。
そして不思議な現象がもう一つ起きていた。先に倒していたいたはずの兵士たちが起きあがって向かって来たのだ。致命傷は避けていたがすぐに動けるはずがなかった。よく見ると全員の胸元に、記憶にない短刀のようなものが突き刺さっていた。どう考えても致命傷になっているはずだ。
それなのに兵士は次々と起き上がり襲いかかって来たのだ。
三師団に加えてあの人数が相手だと、ルカとセリナもすぐにメルたちの援護に向かうのは難しい。
「何を慌てている。先ほどクラークが忠告しただろう。これから起こることは全て君の責任だと」
そう言ってストロノースは持っていた剣を振り下ろして来た。早さはないが違和感があった。攻撃を躱そうと思ったら、何かか両サイドから飛んできた。全てを躱すには後方に間合いをとるしかなかった。
ストロノースの剣先が目の前をぎりぎり通過したしたあと、両サイドから飛んできたものが何か視認することができた。それは鋭い牙をもった2匹のムカデだった。
辛うじてムカデの攻撃もかわすことができた。
俺の目の前を通過したムカデはそのままストロノースの周りに取り巻くように移動した。
「ミネルバの言ってた通り素早いな。これは骨が折れそうだ」
ミネルバって···ルーカスの事か!
「あなたも、ルーカスもなんでこんな国を裏切るようなことするんですか」
「くっくっくっ。裏切る···か。君に言われるのは少々堪えるな。しかし、いいのか? こんな無駄話をしていて。そろそろ危ないぞ」
ルカと、セリナは師団長を相手にしながら、立ち上がる兵士たちを次々と倒していくが、何度倒しても起き上がってくる。そのせいでメルたちの援護に向かうことはできなかった。
姿を消したクラークの標的になっていたのはシャルティアだった。今のシャルティアではクラークの相手にはならない。
シャルティアもクラークの殺気に身動きが取れなくなってしまっていた。武器を構えるでもなく、躱す姿勢でもなかった。このままでは身体で剣を受けることになる。
「シャル!」
俺は最悪の想像をしながら叫んでいた。
間に合わないと思ったその時、クラークとシャルティアとの間に何者かが割って入って、クラークの剣を弾いた。
「バカシャル! しっかりするにゃ!」
現れたのは仮面を付けた月光だった。
月光のお陰で、最悪の状況が回避されたが、クラークの攻撃は止まらなかった。
しかし、その攻撃が月光に当たることはなかった。躱すというよりも、クラークの攻撃の間合いが合っていなかったのだ。そのおかけで、月光はほとんど動かずに攻撃を受けずに済んでいた。
周りから見たら変な光景に見えた。クラークが何もない場所を攻撃しているように見えるのだ。
突然の攻撃で身動きが取れなかったシャルティアも、月光の援護により気を取り戻すことができた。
月光の援護にすぐに反応したのはマイルだった。月光がクラークの攻撃を引き付けてる隙を狙って攻撃に出たのだ。それに呼応して、シャルティアもアルスの護衛から攻撃に転じた。
マイルとシャルティアの猛攻が続くが、クラークに全て防がれてしまっている。しかし、クラークも反撃することができない。少しでも反撃をしようとすると死角から月光の攻撃が飛んでくるからだ。
実際のところマイルとシャルティアが攻撃に転じた時点で月光はアルスたちの護衛に転じていた。しかし、クラークは気配を完全に消してる月光の姿を捕えることが出来ないでいるので、どうしても死角からの攻撃を意識せざるおえないのだ。
力の差があり過ぎる戦況を、月光が完全にコントローしていた。
「助けに行かなくていいのか? それともあの子にまた手を汚させる気か? 助けに行きたければ私を殺すしかないぞ。
しかし君にはその覚悟ができていない。断罪などというものではもう止まることなどできないのだよ。本当に止めたければ君が覚悟を決めるしかない。
人を守るとはそういう事だ。···そう、ゴウヅキシズカが君の妹を守ったの同じように···」
コウヅキシズカ。その名を聞いて俺はその場を動くことが出来なくなった。