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スイブル救出戦②

 スイブルの町では戦闘が勃発(ぼっぱつ)していた。悲鳴を上げて逃げ出す住民。その原因は(ほむら)にあった。


 アジトの三か所同時救出という作戦だったのに一人で正面突破を(はか)った結果、焔がアジトに到着する前に賊と鉢合(はち)わせし、焔が賊に強烈な火炎魔法を放ったのだ。


脆弱(ぜいじゃく)な賊どもめ! ワラワの民に手を出したことを後悔しながら()くが良い! あははははは!」


 あのおバカ。全然作戦聞いてなかったな。あと、あれで手加減出来てるのか? 仕方ない。こっちはこっちでやるか。


「ナバルさん、ギルティさん、焔が暴れているうちに僕らで救出に向かいましょう。僕とセリナさんは焔の担当アジトに向かいます」

「「はっ!!」」


 突然の指揮(しき)にも反論なく素直に従ってくれた。焔にも見習って欲しい。(さわ)ぎを聞きつけて多くの賊達が、焔の元に向かっているようだ。


「セリナさん僕らも急ぎましょう」

「はい!」

「シオン、レオン、頼むね」

「「クオーーーン!」」


 うん。この子達も素直だね。焔のせいで町は大混乱である。救出部隊にとっては絶好のチャンスが生まれた。うん? 結果的に一番良い結果なのでは? 後で焔が勝ち誇りそうだな、とげんなりしながら俺は賊のアジトに向かった。


 ナバルに聞いていた通りに町を進んで行くと、賊のアジトらしい建物が見えた。


「多分あれだな。見張りが立ってますね。どうします? ···あれ···セリナさん?」


 見張りをどうするか確認しようと思っていたらセリナがレオンと一緒に飛び出していった。


 セリナも怒っていたのだ。それもそうだ。危険を承知で小隊を組んで王都まで調査に来ていたくらいだ。目の前に同族が捕まっていると分かっていて冷静でいられる訳がない。


 セリナが賊に向かって魔法で攻撃を仕掛ける。風魔法か何かだろう。集束された風が(やり)のようになって賊に飛んでいく。賊は建物の扉と一緒に吹き飛んでしまった。


 一応ギルティに護衛を頼まれているんだけどな···。


 セリナの後を追い建物に入ると、既に賊の二人が倒れていた。焔の騒ぎで人がほとんど出払っていたのかもしれない。


 階段を降りて地下に入ると、扉がいくつかあった。鍵が開いている部屋には物資が置いてあったり、賊の住居のようになっていた。奥に行くと鍵が閉まっている部屋がある。ここだ。


「セリナさん、任せて下さい」


 倒した賊が鍵を持っていたと思うが、忘れて上の階に放って来てしまった。面倒だったので壊すことにした。


 いつも通り鍵の部分に手を当てて、瞬時に力を込める。「ガキン!!」と音が鳴って扉が開く。


「いつ見ても不思議です。レン様。いったいどういう原理なのでしょうか?」


 セリナが鍵の破壊を見るのは二回目だ。ここの世界で、無穴錠(むけつじょう)と呼ばれるものを破壊するのは非常識なようだ。別段鍵を壊すための技ではない。人に向けて放てば内臓が壊れる。現に焔も(のど)を俺に壊されている。これは現世でも使っていた「破壊掌(はかいしょう)」という技だ。もちろん現世でも人に向ければ内臓が壊れてしまう。俺の破壊掌は危険と判断され公式での使用を禁止されていた。


 扉が開くと部屋の隅で獣人(じゅうじん)の子供達が手を合わせて固まっていた。一人の子がセリナに気づき飛びついてくる。


「ねね様!」

「マリル!」


 どうやら探していた子供の一人だったらしい。見つけられてよかった。他の子供達にも助けに来たことを伝えて安心させた。ナバル達との合流地点を目指し、急いでアジトを出ることにした。


 集合場所にはすでにナバルとギルティの部隊が救出を成功させて集まっていた。救出されたのはドワーフ三名、エルフが五名、そして俺らが救出した、獣人(じゅうじん)三名である。俺らが合流するとナバル達の顔色が変わる。


「レン様、救出されたのはその子達だけですか?」

「はい。僕らが行ったアジトにはこの子達しかいませんでした」

「それでは、今朝報告があった、手負いの獣人(じゅうじん)の子供と炎帝(えんてい)の民の子供が足りない」


 そうだった。確か昨晩逃走を図った子供がいて、目撃者の話によれば血まみれの獣人(じゅうじん)と炎帝の民の子がいてもおかしくない。見逃したのか?いや、部屋は残さず全部確認したはずだ。


「レン様、申し訳ありません。我々の調査が足りず、賊のアジトの発見に()れがあったかもしれません。昨日の今日なので別の町に移動されているのは考えにくいので、必ずこの町にいるに違いありません。是非(ぜひ)私にお任せください」

「私も探そう。手負(てお)いの子は恐らく俺の子だ」


 今だ救出出来ていないのは二人の同族だ、名乗り出て当然だろう。それにしてもギルティの子供までもが(さら)われていたとは。


 ナバルとギルティは二人でアジトを見つけに行った。どうやら賊の一人を捕まえてアジトを聞き出す算段らしい。この状況だ、なりふり構ってられないだろう。


 俺らは救出が済んだ人達を一先ず安全な森に連れて行くことにした。


 残ったナバルとギルティの部下達で、救出した子供達を護衛しながら森に向かっていると、シオンとレオンが何かに気づく。


 急に俺を乗せたシオンが走り出した。


「レン様どちらへ?!」

「わ、分からない。急にシオンが!おい、シオン!」


 セリナを降ろしたレオンもついてくる。俺は「必ず戻りますので森で待っていて下さい!」と叫び、突っ走るシオンに(つか)まる。


 アジトでも見つけたのかと思ったが町中を突っ切り、森とは反対方向の町の外に出てしまった。


『焔!聞こえる?』

『なんじゃ、この楽し···忙しい時に!』

(お前今楽しいって言おうとしたろ)

『シオンが勝手に走り出して町を出ちゃったんだよ。どうすればいい?』

『多分、ワラワの民を見つけたんじゃろう。シオンとレオンなら容易なはずじゃ。ワラワと一緒にいる時は近すぎて気づかんかったんじゃな。そのまま助けに行ってくれぬか?』

『そういうことね。分かったよ。それから焔、あんまりやり過ぎるなよ。』

『わ、分かっておる!』

(絶対分かってないな。)


 よし、そうと分かれば俺も役目を果たそうではないか。ここまで全く出番がなかったからね。


 周りの速度に合わせる必要がないシオンとレオンのスピードは速い。どんどん町から離れていく。気づけば前方に土煙(つちけむり)をあげる馬車が見えてきた。


「シオン。あれに焔の民が乗ってるの?」

「クオーン!」


 シオンはそうだと言わんばかりに()えて返事をしてくれた。


「レオン。先に行って馬車の前に出て止めてくれる?」


 レオンは返事をすると、さらにスピードを上げて馬車を追いかけて行った。あっという間に追いつき、馬車の前に出ると、馬車が急停止した。


 すぐに御者(ぎょしゃ)の首根っこをくわえたレオンが飛び出してきて、御者を振り回している。悲惨だ。


「レオン。そのくらいで離してあげな」


 御者(ぎょしゃ)の男は完全に伸びている。馬車の中にも賊が(ひそ)んでいるかもしれない。俺は警戒して近づく。


 俺が森で乗せられていた馬車とは違い、今回のは外からは何にも見えない。やはり森とは違って目立つから檻には出来なかったのだろう。


 鍵は相変わらず無穴錠(むけつじょう)だった。馬車に近づいて分かったが、中から殺気は感じない。レオンとシオンもおとなしくしている。中には(さら)われた子がいるだけなのだろう。


「今から鍵を壊すので扉から離れていてください」


 聞こえているかどうか分からなかったが、少し待ってから鍵を壊した。扉がゆっくりと開くと中には炎帝の民の女の子が座っていた。とりあえず一人、救出成功だ。


「シオン様!? レオン様!? ······う、うわーん!!」


 女の子はシオンとレオンを見て泣きながら飛びついていた。どうやら知り合いだったらしい。


 すぐに俺のことに気づきすがるように寄ってきた。焔の眷属(けんぞく)と一緒に居たことで、敵ではないと判断したようだ。


「どなたか知りませんがどうかお力をお貸しください!」


 何やら泣きながら必死に助けを求めてくる。今助けたばっかりなんだけど···。どうやら町で知り合いが捕まっていて大けがをしているらしい。例の血まみれの獣人の子の事を言っているのだろう。女の子をレオンに乗せてすぐに町に向かった。


 町に戻ると、目を(おお)いたくなった。町が半壊していたのだ。アジトが無事ならいいが。


『焔!最後の一人の場所が分かったよ。今向かってるから、焔もこっちに来てくれる? どうやら例のけがをした子がいるらしいんだ』

『わかった。こっちも()きてきたころじゃ。すぐに向かう』


 アジトの前ではナバル達が賊と戦っていた。二人とも賊を圧倒してる。ギルティも隊長らしくちゃんと強かったようだ。


 俺達は戦闘の隙間(すきま)を抜けてアジトに入っていった。広間を抜けて階段を降りると見張りが二人立っていた。


「シオン!」


 掛け声と同時にシオンが見張りの一人に飛び掛かる。もう一人はシオンに気を取られて、飛び降りていた俺に気づいていない。シオンにやられてたほうが良かったかもね。最後まで俺に気づかない見張りは、俺の一撃を無防備に食らうことになった。


 見張りもいなくなった地下には一つしか扉がなかった。俺が扉の鍵を壊すとレオンから降りた女の子は扉を勢いよく開き、倒れている子に飛びついた。


「うわーん! バッツー!!」


 女の子は泣きながら獣人の子にしがみついている。獣人の子はバッツというらしい。バッツは動けはしないが意識はあるようだ。女の子につられてか、バッツも涙を流していた。


「ミ···ミリィ。···なんで、逃げなかった」

「だってバッツと約束したから! 絶対離れるなって! 離さないって! だから···。うわーん!」

「ごめん。···ごめんな。俺が弱いばっかりに。ミリィを守ってやれなくて。···俺、強くなるよ。今度こそミリィを守れるくらいに。···本当に無事でよかった」


 安心したせいかバッツは意識を落とした。ミリィは泣きじゃくっていたが、これ以上はバッツの傷に触ると言って無理やり離した。 


「バッツ!」


 賊を倒したギルティが()けつけてバッツに近寄る。


「やはり狂牙(きょうが)を使っていたか。このままではもうもたないだろう」


 それを聞いたミリィがさらに泣き声を上げる。そこに遅れて焔がやってきた。


「なんじゃ(さわ)がしいのう」


 焔に事情を説明し、バッツに治癒魔法をかけてもらった。傷は癒えたが意識は戻っていない。本当に危険な状態だったらしい。焔の話ではしばらく安静(あんせい)にしていれば意識も回復するとのことだった。バッツの無事が確認できたところで、一同は森に帰ることにした。


 アジトを出ると、半壊している町を見てナバル達が固まる。どうやら救出に夢中で気づかなかったのだろう。それに焔はここに来る間も暴れ続けていたようだ。これは大変なことになると思い、すぐに町を去ることにした。

【読者の皆様へ感謝】


数ある作品の中からこの小説を読んで頂き、そしてここまで読み進めて下さり本当にありがとうございました。


「面白い」 「続き!」 「まぁ、もう少し読んでもいいかな」


と思って頂けたらぜひ、この作品を推してくださると嬉しいです。


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これからも「モンツヨ」は毎日更新しながら、しっかり完結させていただきます。引き続き「モンツヨ」を宜しくお願い致します。


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