言いましたよね?
王城に向かう前に俺たちは、アルスの父親である、オルクライン公爵に会うために、王都にあるアルスの屋敷にやってきた。
屋敷に着くと国王反対派の複数の貴族と、アルスの父親のオルクライン伯爵たちが出陣の準備を済ませて待っていた。
「待っていたぞアルス。覚悟はできているんだな?」
「もちろんです。お父様」
本来であれば国王反対派のトップであるアルスの父親が次期国王に名乗りをあげてもいいはずだ。しかし、全員アルスが女王になることに何の異論も持っていなかった。
国王反対派といっても、みんなストロノース・レザリアの功績と、国王としての資質については認めていた。その国王がアルスを王妃に迎えようとしていたことは周知の事実だった。それ自体もほとんどの貴族が認めていた。
今のレザリア王国を作り上げた現国王の理念と思想をより強く受け継いでいるのはアルスだった。
アルスは幼少期からストロノースより、王妃になることが決められいて、レザリア王国の理念と思想を誰よりも刷り込まれていた。アルス自身も国民の為の王妃になれるよう努力を続けてきた。その姿を多くの貴族が見て来ていたのだ。
だからこそ、今の国王の行動が誰も理解できないでいるのだ。それは、アルスが受け継いできた理念と思想にかけ離れたものだったからだ。
俺はアルスたちのやり取りを見ていて、レザリア王国は本当にいい国なのだと思った。
どんな国でも欲にまみれた貴族はいるだろう。それは俺が生きてきた現世でも同じだった。しかし、今アルスの元に集まっているのは国民のことを第一に考える貴族ばかりだった。そうでなければ、アルスを次期女王として担ぐことはなかっただろう。新たな政権を握ろうとして新しい派閥が生まれていたはずだ。
「アルス、その方たちは?」
「申し訳ありません。ご紹介が遅くなりました。この方たちは、レザリア王国の為に力を貸してした抱くことになりました。エルミナ王国の方々です」
「エルミナ王国?」
「はい。私とハウザーが王城に囚われいて、助けてくださったのもこの方たちです」
アルスは自分の父親に俺たちを紹介していった。
「そうだったのか。私はアルスの父親で、アルベルト・オルクラインという。娘のことを助けてくれたこと、礼を言う」
「始めまして。私はエルミナ王国冒険者ギルドのマスターを任せられています、レンといいます。
この度はアルス様の護衛の指揮を任されております。事が終わるまで必ずお守りすると約束いたします」
「大した自信だ。ストロノース陛下の強さを理解してのことか?」
「もちろんです」
「······そうか。それでは娘を頼む」
「承知しました」
アルベルトが号令を出すと、各貴族が連れてきた近衛兵たちがそれに呼応した。兵力は冒険者を合わせると千人近くいる。
ちょっとした軍の出来上がりだ。
アルスを先頭に、王城へ向けて進軍が始まった。俺たちはアルスを囲うように護衛した。
王城に着くとそれを待っていたかのようにセリナとルカが現れた。
「若様お待ちしておりました」
待っている間セリナは情報収集にあたっていたらしい。
「みんな無事に出発できたかな?」
「はい。月光のメンバー数人でエルミナに向けて出発しました。残りの月光は王城周辺に配置しておきました」
さすがセリナ。仕事が早い。
セリナの話だと、王城は国王軍によって厳重に警備されていた。
先日俺たちが侵入したせいだろう。
王城に残っているのはクラーク師団長が抱える師団員とその他の兵団が少し残っているだけだという。
レザリア王国にいる多くの兵がアールスフォード帝国に向けて出陣しているはずなのに、突然千人近くの軍が現れたので、王城を守る兵士たちが慌てだした。
「なんだお前たちは! ここに何しに来た!」
門番の問いにアルベルトが応える。
「私はオルクライン家の当主、アルベルト・オルクラインだ。ストロノース陛下に火急の知らせがあって参った。すぐに陛下にお目通り願いたい」
オルクライン家と聞いて門番の兵士が姿勢を正した。
それを見て意外に簡単に入れるのかと思ったが、返答は「通すことはできない」だった。昨日の件があり、誰も通すなと指示が出ているらしい。
「我々は国が定めた法律にのっとり、必要数の貴族の署名が入った書状をもっている。約束が無くとも陛下との謁見は可能なはずだ」
「し、しかし、我々にはその権限が与えられておりません。なので通すことは······」
門番の兵がしどろもどろしていると、その後ろで話を聞いていた隊長らしき恰好をした兵士が現れ口をはさんできた。
「今は誰も通すなと言われている。例えオルクライン公爵とはいえ、約束がなければ通すことはできない。お引き取り願おう」
そう言ってその男はおもむろに剣を抜こうとした。
アルベルトの横にはアルスも立っていて、剣を抜こうとしている隊長の間合いにいた。
しかし、剣を抜き切る前にその隊長は膝から崩れ落ちて倒れてしまった。
「レン殿! お主何をやっておる!」
倒れた隊長の横には俺が立っていた。
「言いましたよね。事が済むまでアルス様を守ると。危険があると思えば全て排除します。大丈夫死んではいませんから」
アルベルトはあきれた顔をしている。アルスも苦笑いだった。
俺は門番に向き直ってこう言った。
「こっちはちゃんとルールを守って書状を用意しています。それを拒むのは陛下に対する反逆と考えますがよろしいですか? 悪いけど急いでいるんで、通すか寝るかどっちか選んでください」
門番の兵は俺と倒れた隊長を交互に見てどうしようか迷った結果···
「し、書状を確認いたします」
···と言って、書状を確認したあとすんなり通してくれた。上官を倒されて日和るなんて情けない。
城門を抜ける時、俺の後ろでアルベルトとアルスが何か喋っていたが内容は分からなった。
「アルス······お前の護衛ちと無茶苦茶だぞ」
「はははは······」
こうして俺達は無事に王城に入ることに成功した。