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アルス出陣

 魔族の子供の存在で状況が大きく変わってきた。この子の存在で、魔物の大暴走( スタンピード )の引き金になる可能性が生まれてしまったのだ。


 そのせいで救出した子たちと一緒に、エルミナ王国へ連れて行くことは出来なくなった。

 今エルミナ王国に連れて行って、エルミナで魔族の子供が発見されたら、今度こそ魔族が本気で攻めてくる可能性だってある。


 特にあの黒い翼を持った魔族の女はやっかいだ。エルミナ王国では彼女のことを『黒翼の魔人(こくよくのまじん)』と呼んでいる。

 ドラゴンを使役し、魔物の大暴走( スタンピード )の指揮権まで持っている。彼女の実力は分からないが、彼女の一声で一瞬で国を亡ぼすことも容易なはずだ。


 俺が難しい顔をしていたら、アルスが話しかけてきた。


「レンさん、エルミナ王国で魔物の大暴走( スタンピード )が発生したのと同じように、レザリア王国にも起きる可能性があるのでしょうか······」

「十分考えられます。この子が(さら)われてから日が浅いこともあって、今は捜索段階だと思いますが、すぐにオクロスだと気づいて動き出すと思います」


 俺の言葉にハウザーが続いた。


「魔族たちはオクロスのことをご存じなんですか?」

「はい。前回の魔物の大暴走( スタンピード )の際に、オクロスの関係者が魔族側に引き渡されています。もし、そこから何かしらの情報が伝わっていた場合、魔族の捜索はこの国にも(およ)ぶ可能性があります。

 それと、前回の魔物の大暴走( スタンピード )には猶予がありましたが、それは誘拐にエルミナ王国が関与している確信が魔族側になかったからだと思います。しかし、今回、レザリア王国が関与していると情報が伝わっていたら、その猶予はないと考えたほうがいいと思います」

「そんな······今レザリア王国を(おそ)われたりしたら······」

「我々の国でも魔物の大暴走( スタンピード )を防ぐことは難しいのですか?」


 俺の話を聞いて難しい顔をしていたハウザーにアルスが聞いた。


「いつもらなら、防衛も可能であります。それでも防衛で手一杯です。もって数日というところでしょう。

 しかし、今は状況が違います」

「······っ!? アールスフォード帝国···」

「そうです。今レザリア王国に存在するほとんどの軍がアールスフォード帝国の防衛に向かってしまっています。この状態で魔物の大暴走( スタンピード )が発生すれば一日も持たずに壊滅します」

「そんな······」


 エルミナ王国も一部の軍が遠征に行っていただけで、ほとんど全軍で対応していた。だが結果は劣勢だった。

 光月旅団が介入したことで、戦況を戻すことはできたが、被害は甚大(じんだい)だった。

 それに、認めたくはないが、ルーカスが現れなかったら、被害はもっと大きなものになっていただろう。


 考えていても仕方がない、魔族が動く前にこの国の問題を終わらせてしまおう。


「アルスさん、とりあえず予定通り国王断罪に向かいましょう」

「この子はどうされるのですか」

「この子は私が預かります。魔族が動くとしても、王城に使者が来るはずです。そこで私が何とかします」


 そう言って俺は魔族の子に向き合った。


「必ず仲間のところに戻してあげるからね。一緒に来てくれるかな?」

「·········」


 魔族の子は無言だったが、俺の顔を見てから、差し出した手を(にぎ)ってくれた。


「よし。 それじゃ他の人は全員エルミナに向かおうか」


 どこに連れて行かれるのか不安そうにしていた人たちに、今後の流れを伝えた。

 まずはエルミナに向かい、光月旅団の拠点で生活をしてもらう。その後、各自の住んでいる場所を調べ、冒険者ギルドの仕事として、その場所に帰してあげることにした。


 それを聞いた人たちはみんな喜んでくれた。


「ルカとセリナさんで、馬車まで連れて行ってくれる? その後は王城で合流しよう」

「「はい」」

「シャル、メル、マイルは三人でこの子の護衛をお願い。一緒に王城に行くことにしたからね」

「「「はい」」」


 俺は自分の仲間に指示を出し、アルスの方を見た。


 俺と目があったアルスは軽くうなずいて、みんなに声をかけた。


「みなさん。今日はレザリア王国の未来にとって重要な一日になります。魔族の脅威も残っていますが、まずはこの王国の問題をかたずけてしまいましょう。

 これから王城に向かいます。命の保証はできませんので、残るのは自由です」


 アルスの言葉を聞いて迷う者はこの場にいなかった。


(わたくし)は今日、ストロノース・レザリアを断罪し、レザリア王国の女王になります。

 どうか最後まで私に力をお貸しください」


 その言葉に、その場にいたアルスの仲間全員が右手に拳を作り、それを胸に当てた。忠誠の証だ。

 俺たちに背を向けていたアルスが振り返った。 


「では、参りましょう」

 

 そうして俺達は王城に向かうことになった。


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