スイブル救出戦①
ギルティが戻ってくるのを待っている間、救出隊の戦力の確認と、光月道場門弟の指導に時間を使った。
救出隊の戦力に関しては、俺以外の全員が何かしらの魔法を使える。その仲間のうち、治癒魔法を使えるのは焔とセリナだけだ。ミリアも治癒魔法を使えるが、今回は待機組になった。村の中にも治癒魔法ができる人が数人必要だからだ。
それにしてもなぜ俺には魔法が使えないのだろう。焔が言うには、膨大な魔力が見えるとの事だったが、いくら教えてもらっても魔法は発動しなかった。しかし、一つだけ分かっていることがある。光月家の技を繰り出すと、現世にいた時よりも威力が高いのだ。それは気を集中させればさせるほど威力が上がるような気がする。人拐いに合って枷を外した時にも、思ったよりも軽く外せていた。それが、魔法なのか、身体強化なのかは分からないが、とにかくみんなが使っているような魔法は、俺には使えない。悔しい。
光月流が、俺の力に影響しているのかもしれないと思い、この世界で初めての門弟である、シュリ、ポルン、ルカに教え込んでやろうと思った。
俺らがスイブルに救出に行っている間、シュリ達も待機することになった。シュリには三人で行う稽古のメニューを伝えた。シュリは真面目で物覚えも良い。ポルンとルカがさぼらないように見張ってくれるはずだ。そのメニューに加え、実践に必要な技術を高める為の特別稽古を用意した。
シュリは、特別稽古を覚える為に、普段の稽古が終わった後、俺と二人で特別稽古を続けた。
普段の稽古も厳しいはずなのに、シュリは嫌な顔をせずについてくる。素晴らしい。
特別稽古の内容はお互い目隠しをし、攻撃する側と受ける側を決める。そして、攻撃する側は相手に気づかれないように攻撃を打ち込み、受ける側は相手の攻撃の気配を感じて避けるというものだ。避けた後なら攻撃しても良い。攻撃を打ち込めたら勝利である。
この特別稽古の目的は「気配を消す」「気配を感じる」という二つの事を極める事が目的である。
光月流でこの気配をコントロールすることは、俺にとって一番重要なことだと思っている。そして俺は、その技術が光月家でも突出していた。シュリ達には俺達が帰ってくるまでこの特別稽古をマスターするように伝えてある。
一方ベンに依頼した刀だったが、どうやら鍛錬の際の折り返しにつまづいてしまっているらしい。
「レン様、焔様。わざわざすみません。どうにも教わった鍛錬がうまくいかなくて、四回程折り返すと鋼が割れてしまうんですわ」
鍛錬とは、鋼を折り返して鍛えることである。何回も折り返すことで不純物を取り除き、炭素量を均一化させることが目的である。本来なら複数人でやったり、機械式のハンマーを使うことが多いが、ベンの工房は一人で行なわれている。それでは無理がある。
「一人でやっているってこともありますが、この技術は私には難しいかもしれません。もしかしたら、この世界でもできる奴は限られるかもしれませんよ。例えばドワーフのやつらなら可能かもしれません」
ドワーフか。この世界にもいるんだな。
「焔、ドワーフがいる場所ってわかる?」
「うーん。ドワーフ達も独自の結界で自分たちの住みかを隠す習性があるからのう。探すのはっちと苦労しそうじゃの」
「そっか。当面は刀の件は保留かな」
ベンさんには刀の作成を保留にしてもらい、代わりに弓の作成を依頼した。今後、光月道場の稽古で弓道の稽古も加えていくからだ。
話し合いから三日が経ち、王都からギルティが部下を連れて戻ってきた。セリナが王都の調査に同行させていた護衛部隊だ。
護衛部隊はギルティを含めて五名で、ギルティはその部隊の隊長だったようだ。護衛部隊は部族の中でギルティ隊と呼ばれていて、今回連れてきたのはその一部らしい。ギルティは部族の中でも一番の強さを誇っているようだ。たしか、一撃で沈んでいたような気が···、まあいいか。
一足早くナバルの部隊が先行偵察でスイブルに向かっている。エルグが用意してくれた馬車で、俺達もすぐに向かうことにした。俺と焔は、シオンとレオンに乗っていくことにした。
先導はナバルの部下のペルルが行なっている。ナバルの部隊は普段、近隣諸国の情報収集や村を守るための戦闘に特化した者で編成されている。今回の救出作戦において情報収集は最も重要である。先行部隊がどれだけ情報を集めているかによっては、救出の難易度は大きく変わってくる。
ペルルの先導のかいあって、無事スイブル付近の森までたどりついた。そこではナバル達が救出の準備に取り掛かっていた。俺達はナバルから報告を受ける。
「レン様、焔様、お待ちしておりました。早速ですが、直ちに救出に向かうことになってしまいますが、宜しいでしょうか?」
「構わん。状況は?」
ナバルが先行して集めた情報では、賊のアジトは全部で四か所あり、うち三か所に拐われた者が収容されているということだった。
今朝の調査で分かったことが、昨晩一か所のアジトで騒動があったようだ。捕まっていた子供が逃げ出したというものだった。しかし、逃走中に捕まり、連れ戻されてしまったらしい。目撃した人の話では、その際、血まみれになった獣人の子供と、泣きながら抱えられた炎天の民の子供が連れて行かれていたとのことだった。
ギルティの拳が力んで震えている。ナバル達も同様だ。当然だろう。話に出たのは間違いなく同族だ。
「よし、すぐに向かおう。ワラワの民に手を出したことを死ぬほど後悔させてやろう。レン。力を貸してくれるな?」
「当然」(ワラワの民って言っちゃってるよ···)
アジトの三か所を攻める部隊を焔隊、ナバル隊、ギルティ隊の三つの隊に分けた。
隊と言っても焔は単騎だったけどそれでも十分すぎるだろう。俺はギルティにセリナを守ってくれと頼まれたので、俺とセリナ、シオンとレオンは後方支援になった。まあ、焔がいれば最終的に何とかなるだろう。
救出は三か所同時に行なうことになった。
俺は焔の加護のおかげで、俺からも念話を飛ばせるようになっていた。
『焔、くれぐれも手加減を間違えないようにね。また土下座は嫌だからな』
『わ、分かっておるわ。レンこそ剣を使うんじゃないぞ』
『うっ···』
炎帝の森大災害の張本人たちは自重しながらも救出に向かうのであった。