ガレラ山の魔王Ⅱ
数日後、アルバスはシュザの屋敷を訪ねた。
「よく来てくれた、アルバス」
シュザはアルバスを快く出迎えた。アルバスは未だシュザという男を信用していない所があり歓迎されていても微塵も心を許していなかった。
「早速だが例の物を貰いたい」
アルバスはすぐに本題を切り出した。
「そう言うと思っていた。ダインスレイヴは奥の武器庫に保管してある、ついてきてくれ」
アルバスは屋敷の一番奥へと案内された。武器庫というより厳重な金庫というべき部屋があった。鉄扉は巨躯のアルバスの背丈を超えた大きさで、見るからに重そうな所を見ると厚みも相当なものだろう。
「魔剣ダインスレイヴはわしが集めた武器の中でも別格でな。こうして専用の部屋を設けて保管している」
シュザはそう言って右手を鉄扉へと押し当てた。驚いたことに扉はゆっくりと液体のようにどろどろと溶けて床に拡がった。
「どういう仕組みだ?」
アルバスが思わずつぶやいた。魔法だとしても気味の悪い現象に感じたからだ。
シュザは問いかけには答えず中へと入った。アルバスは薄気味悪さを覚えながらも後に続いた。部屋の中ほどまで進み振り返ると溶けたはずの鉄扉は再び元に戻っていた。
「これだ、アルバス」
アルバスはシュザの示した物を見た。禍々しい大剣だった。その禍々しさは魔剣であることを疑う余地を一切与えなかった。
「これが魔剣ダインスレイヴか、なんという禍々しさ」
「わしもこの剣には手を焼いていた。名剣、名刀を数多く集めてきたがダインスレイヴは格が違う。しかし、わしが使うには大きすぎるし、邪悪過ぎた。この禍々しさを見てもアルバス、この剣を使いたいか?」
アルバスはもうシュザを見ていなかった、見ていたのは魔剣ダインスレイヴだけだった。魔剣は強力だが持つ者は必ず非業の死を遂げるといわれる。どんなに強さを欲していてもこれほどまでに禍々しい魔剣を手にするかどうかは多くの剣闘士が迷うだろう。だが、アルバスがこの魔剣を欲することはシュザには明白だった。アルバスはすでに魔剣に魅入られていた。
「シュザ、この魔剣は俺が貰う」
「約束だ、お前がこの禍々しさを見ても欲するならば持っていくがいい」
アルバスは迷うことなく魔剣ダインスレイヴを手に取った。アルバスは魔剣を持った瞬間に何十年も愛用してきた剣であるかのように手に馴染むのがわかった。
「これなら俺はさらに強くなれる。十二星最強、いや歴代十二星最強の剣闘士にだってなれる」
アルバスは強い確信を持って言った。
「わしとの約束を忘れんでくれよ」
「わかっている、ガレラ山の魔王を倒せばいいんだろう。この剣の力を試すのにうってつけだ。それに俺が最強の剣闘士となる前の箔付けにちょうどいい」
「魔王殺しの剣闘士か。剛勇を広めるには打ってつけだな」
シュザは頷いて言った。