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十二星の剣闘士  作者: 山口 浩平
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ガレラ山の魔王

 十二星座の一人、牡牛座となったのはアルバスだった。前の牡牛座の剣闘士マルキスが戦死したことで牡牛座の地位をかけた国内最大規模となる剣闘大会が開催された。八十八星座の称号を持ち出場を希望する者と無名の剣闘士による予備選を勝ち上がった四名の剣闘士によって本戦が行われた。アルバスは予備選を勝ち抜き本戦へと出場した。ダークホースだった。観客や民衆の多くは八十八星座の誰かが十二星の地位を得るのだろうと思っていたからだ。しかし、大方の予想に反して優勝したのは予備選を勝ち抜き本戦へと出場したアルバスだった。アルバスはこの日、国内最高の地位と名誉、多額の財という誰もがうらやむ栄光を手に入れた。

アルバスが牡牛座の地位を得てから数年の歳月が経ったある日のことだった。執務室にいるアルバスのもとに弟子の一人がやって来て言った。

「アルバス様、水瓶座のシュザ様が訪ねてきています」

「わかった、客室に案内しておけ」

シュザの訪問はアルバスを少しばかり不快にさせた。シュザは剣闘士としての実力も確かにあるが策謀をめぐらすことを好む男で、正々堂々と戦うことが剣闘士の誇りであると信じるアルバスはそのシュザの気質を嫌っていた。

アルバスはシュザを長く待たせた後に客室へと向かった。

「久しぶりだな、シュザ」

待たせたことを詫びることもなくアルバスは年長者のシュザに話しかけた。

「そうだな、前の会議以来か」

シュザは礼儀を欠いた対応に怒った様子も見せず答えた。アルバスはその冷静な対応にさえも嫌悪感を抱いていた。

「それで、わざわざ屋敷にまで訪ねてきた用件は何だ?」

「ガレラ山を知っておるか?」

「ああ、知っているがあの山がどうかしたのか?」

「噂が流れていてな。なんでも魔王が住んでいるということだ」

「魔王?なんだ魔王というのは。おとぎ話にでてくる勇者に倒される怪物とでもいうのか?」

アルバスはふざけた冗談でも聞かされているような気分で尋ねた。

「そうだ、その魔王だ。ガレラ山に入った剣闘士や庶民を襲っている」

「正気で言っているのか?賊か何かがやっているんだろう」

「最初はわしもそう思った。それで弟子の一人、うさぎ座のアルヴを調査に向かわせた」

「どうなった?」

「アルヴは死んだ。ガレラ山の麓に住む村人が川に流れ着いていた遺体を見つけてわしのところに連絡を寄越した。うさぎ座の紋章を付けていたからかろうじて八十八星だとわかったらしいが遺体はひどい有様だった。全身の骨を折られ人に殺されたとは思えない状態で今までガレラ山でやられた者と同様の死体だった」

「人の殺し方ではないから魔王の仕業というわけか、安直だな」

「昔からガレラ山には魔王が住み着いているという伝承があるのでな。地元の人間がその話を連想したのだろう」

「で、それを俺に話してどうするつもりだ?死んだのはシュザの弟子だろう。魔王とやらを倒すのならその師が行くのが筋ではないのか?」

「わしもそうしたいのだが、わしもさすがに歳だ。次に十二星を降りることになるのもわしになるだろう。アルヴは弟子の中でも特に優秀な剣闘士だった、弟子の仇は討ってやりたいのだ」

「老いたから代わりに噂の魔王を倒してくれということか。剣闘士としての誇りさえも失ったか、見損なったぞ」

アルバスは怒り客室の机を強く叩いた。木製の机はアルバスの拳の跡がくっきりと残った。アルバスの怒りは当然のことだといえた。剣闘士達は命がけで十二星の座を目指している、現在その座についているシュザが老いたからといって他の十二星に弟子の仇討ち依頼することは非常識な行為だった。

「報酬に魔剣ダインスレイヴを出そう」

アルバスはわずかに息を飲んだ。アルバスは以前から手に合う剣を欲しがっていた。十二星となってからも実力を磨いてきたアルバスは並みの剣ではすぐに使い物にならなくなっていて悩みの種だった。

「最初からそれを餌に俺を釣るつもりだったか」

「ダインスレイヴは大剣でな、老いて退くだけのわしには過ぎた宝剣だ。巨躯のお前さんにはよく似合いそうだ」

アルバスは逡巡した。シュザという男は信用ならないところがあるし、弟子の敵討ちの代わりを他の十二星に頼む行為も気に入らなかった。だが、ドワーフが作ったとされる伝説の魔剣ダインスレイヴはこの機会を逃せば永遠に手に入らないだろう。それと同等の伝説級の剣を探すというのも奇跡が起こるのを待つようなものだ。アルバスは十二星となった今もなお更なる強さを渇望していた、従って結論は自ずと出ていた。

「いいだろう。ガレラ山の魔王は俺が仕留めてやる。ただしダインスレイヴはガレラ山に向かう前に貰う。魔王がどういうものかわからない以上万全の態勢で臨みたいからな」

「うむ、よかろう」

シュザが了承し話は決まった。


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