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十二星の剣闘士  作者: 山口 浩平
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射手座の落星Ⅱ

「シュザ、アルバスが戻りました」

思わず聞き入ってしまいそうな甘美な声が響いた。声の持ち主は男にも女にも見える中性的な顔つきの美しい剣闘士だった。

「ウラノス、アルバスの首尾はどうだ?」

シュザは閉じていた目を開き言った。険しい顔つきは熟練の剣闘士の風格を感じさせる。

「もちろん、うまくいきました。サジタリアスが死んだことはもう耳にしているでしょう」

「なぜサジタリアスの屋敷を燃やした?サジタリアスの首はどこにある?」

シュザの声はほんの少し怒気を含んでいた。屋敷を燃やすように指示を出してはいなかったからだ。だが、そんなことよりもシュザはサジタリアスが死んだという証拠を欲していた。それこそ喉から手が出そうなくらいに強く。

「ふふ、そう慌てないでください。来なさい、アルバス」

ウラノスは落ち着いた様子で十二星の一人牡牛座のアルバスを呼んだ。アルバスは無言で二人の前に姿を見せ、うつろな瞳を向けた。巨躯の剣闘士だった。鍛え抜かれた肉体は並みの剣闘士とは比べ物にならない分厚い筋肉の鎧で覆われている。右手には血のついた抜き身の巨大な大剣が握られており、左手には白布に覆われて朱に染まった包みを持っていた。

シュザはアルバスを見てにたりと笑みを浮かべた。他者を不快にさせる気味の悪い笑みだった。

「その包みにサジタリアスの首があるのか?」

シュザが言った。しかし、アルバスは無言だった。まるで言葉を知らないかのようにうつろな瞳のままただ呆然と立っていた。

「アルバス、その包みの中を見せなさい」

ウラノスが命じた。アルバスは左手だけで包みを無造作に開けた。左手だけで開けたため中に入っていた首がごとりと地面へと転がり落ちた。

シュザはその首を見て一層笑みを深めた。その首は紛れもなく十二星サジタリアスの首だった。その後、アルバスは落ちた首を拾いあげた。ウラノスはシュザが今まで見たことがないほど強い笑みを浮かべているのを横目で見ながら言った。

「アルバス、その首をシュザに渡しなさい」

命じられアルバスは首をシュザに渡した。シュザは長い時間その顔を見つめた。シュザにとってサジタリアスは因縁の相手だった。サジタリアスは剣の天才だった、もしサジタリアスが若き日に右腕を失うことがなければ十二星最強の剣闘士となっていたとシュザは確信していた。そして、かつてサジタリアスの右腕を切り落としたのは他ならぬ水瓶座のシュザ自身だった。

「見事だ、ウラノス。お前との約束は守ろう」

「ふふ、助かります。それでは私達はこれで」

ウラノスが言うとウラノスとアルバスの影がうごめき二人をどぷりと飲みこんだ。後には誰もいなかったように何も残らなかった。残されたシュザは首だけとなったサジタリアスの顔を長い間見つめていた。




十二星座最強の剣闘士は誰か、いつの時代にも必ず民衆や学者の中で議論が起きる話題のひとつだった。

「十二星最強、そりゃあ決まってる。獅子座のライナス様に決まっているだろう。なんたって若いときから王になる器って言われているのはライナス様くらいだもんよ」

中年の男が酒場で言った。この意見には多くの者がうなずきあまり異を唱えるものがいなかった。しかし誰も異を唱えないのを面白くないと思ったのか別の男が話し始めた。

「確かにライナス様は強い。弱点といえるような所もないし、剣も魔法も隙がない。けど戦いってのはいつだってどう転ぶかわからないもんだ。俺はサジタリアス様を推すね。八十八星の時に右腕を失って一時は弱くなったが最終的には十二星になったお方だ。あの不屈の精神はライナス様だって真似できないぜ、俺はサジタリアス様が最強だと思うね」

「まあ俺もサジタリアス様の精神の強さは尊敬してるよ。義手をつけてるのに十二星になっちまうんだから。すごいもんだ。けどやっぱ義手じゃなかったらどれくらい強かったのかとは思っちまうよ」

「強いかどうかはともかく水瓶座のシュザ様は随分と長いからな。あの人は俺がガキの時からずっと十二星をやってるぜ」

と初老の男が言った。

「けどシュザ様は悪い噂も聞くけどなあ。才能のある剣闘士を再起不能にしたりするらしいぜ。噂じゃサジタリアス様もシュザ様にやられたなんて話もあるくらいだしよ」

「おい、やめとけよ、そういう物騒な話は。酒がまずくなっちまう。サジタリアス様の行方がわからないっていうのによ」

十二星サジタリアスが死んだという噂が国内に広がっていたが十二宮中央府はサジタリアスの行方について調査中としか発表していなかった。


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