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元歌い手悪役令嬢、うっかりラスボスに懐かれる  作者: 蔵崎とら


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無事被弾

 あの婚約解消から、私を取り巻く環境は日々変わり続けている。

 弟が作ったという絶対に文句を言わせない書類のおかげで、ヴィージンガー家からの文句も抗議もなく静かに婚約は解消された。

 しかし我が家はどちらかといえば貧乏寄りの貴族である。ヴィージンガー家の支援を失って本当に大丈夫なのだろうか?

 シナリオ通りだったとしてもヴィージンガー家と我が家が繋がることはないのだが、漫画ではルーシャ・マキオンの存在が完全に消えてしまうので大丈夫だったかどうかは謎なのだ。

 そんな感じで私の脳内はそんな不安でいっぱいだったのだが、弟は絶対に大丈夫だと言う。

 絶対に、と言うくらいなので相当な自信があるらしい。


「これ見て」


 不安でいっぱいの私に、弟がマキオンパールマラカスを見せてきた。

 クリストハルト様が見せてくれたマキオンパールマラカスよりも質素なデザインで、少し大きいような気がする。


「楽器?」


 私がそう尋ねると、弟は別のマキオンパールマラカスを取り出す。


「楽器はこっち」


 それはクリストハルト様が見せてくれたおしゃれガラスで出来たマキオンパールマラカスだった。

 では、さっきの質素なやつは……なんだ?


「これはね、害獣除け」

「害獣除け……?」


 弟からその害獣除けだというそれを受け取って振ってみれば、マキオンパールマラカスと同様綺麗な音が鳴る。


「なんかクリストハルト様がこの瓶詰めマキオンパールの音を鳴らしてたら害獣が寄ってこないって話になったらしくて、あれこれ実験を重ねた結果、害獣はこの音がとても苦手らしいってことに気が付いてね」


 また弟がいつの間にか新しいマキオンパールの活用法を見付けていたらしい。しかもクリストハルト様と共に。

 本来のシナリオ通りなら悪魔に魂を売っていたはずのクリストハルト様がマキオンパールの魅力に取りつかれてしまったようだ。なんでだよ。


「昔からそれが当たり前だったから気付かなかったけど、そういえばマキオンパールの畑には害獣が来ないよね」


 そんな弟のつぶやきを聞いて改めて考えてみる。


「確かに、害獣って見たことないね。マキオンパールが食べられないからだと思ってたけど」

「ね。音が嫌いらしい。まぁ食えもしないんだけど」


 マキオンパールの根には毒もあるしね。


「それで、服飾関連の飾り、楽器、害獣除けと新しい販路開拓も出来たから、姉さんは本当に好きな人と結婚して」

「……いや、それこないだから何回も言われてるけど別に」

「こないだクリストハルト様が好きって言いかけてたくせに」


 あー、やっぱりあれ聞かれてたかぁ。

 あれはフランシス・ヴィージンガーじゃなくクリストハルト・クロウリー派だとうっかり言いそうになってしまっただけなのだが……そんなこと言えやしない。


「あれはちょっと違うんだけど……っていうか、いや、クリストハルト様は私のことなんてなんとも思ってないでしょ」

「それ本気で言ってる?」

「はい」

「ずっとここに居座ってるあの人を毎日見てるのに?」

「まぁ……はい」


 そう、あの婚約解消事件の後からずっと、クリストハルト様は私と一緒にいる。

 私がマリカさんのお屋敷にいる間も、マリカさんのお屋敷から帰って来た今もずっと。

 しかも最初は以前泊まってもらった宿にいたのだが、毎日通ってもらうのも悪いからという理由で今は我が家に滞在している。

 そして多分そろそろギターを持って私のところに遊びにくる。


「ルーシャ~」


 ……ほらね。懐かれてしまったもんだ。


 そんな穏やかな日々に不穏な空気を連れてきたのは、一通の招待状だった。

 一目見ただけでは普通の招待状で、宛名のところには私の名前がある。開かれるのは夜会らしい。


「初めて見る名前だな」


 招待状を見たクリストハルト様がそう呟く。もう当たり前のように私の隣にいるな、この人。


「これ、確かヴィージンガー家の親戚だ」


 記憶があやふやだけれど、フランシス・ヴィージンガーの従姉かなんかがこんな名前だった気がする。


「あのヴィージンガー家の親戚?」

「はい、あの。……今まで一度も招待なんかされたことないのに」

「嫌な予感がするね」


 確かに、嫌な予感がする……気がする。

 でもフランシス・ヴィージンガーはきっともうヒロインとくっついてるはずだし、今更ヴィージンガー家の関係者から何か言われる筋合いもないし……。


「夜会ってことはさ、エスコートが必要じゃない?」

「え? あぁ、そうですね、確かに」


 今までは婚約者であるフランシス・ヴィージンガーが適当にエスコートしてくれてたけど、今後はもうエスコートしてくれる人などいない。強いて言うなら弟くらいか。


「弟に」

「……忙しいんじゃないかな」


 そうなんだよなぁ、害獣除けマキオンパールの件であれこれ忙しそうなんだよなぁ。


「その、嫌な予感もするし、俺がエスコートしてもいいかな?」

「え……いや、でも、親族でも婚約者でもないですし」


 いやいや、と首を横に振って見せれば、クリストハルト様の眉尻がへにゃりと下がってしまった。

 心底悲しそうなしょんぼり顔である。


「俺じゃ、ダメかな?」

「や……」


 は? この人、自分の顔面がカッコイイということに気が付いていないのか? その顔面で「俺じゃダメ?」はもう凶器だって。

 うっかり被弾して死ぬところだったのだが?


「俺が絶対幸せにするから」


 え、それ……、え?





 

ブクマ、評価、いいね等ありがとうございます。とても励みになっております。

そしていつも読んでくださって本当にありがとうございます。

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