ウクライナの老人がロシア兵を殺す話
本作品の作者は、化学、生物学、医学、軍事等について、完全に無知です。小学生レベルの知識も持っておりません。したがって、本作品に書かれている化学、生物学、医学、軍事等の知識は全て偽りのでっち上げです。絶対に信じてはいけませんし、使用するなどもっての外です。いかなる目的であっても達成することはできません。また、使用すればあなたの心身の健康を著しく損なうにとどまらず、法律・条例により厳しく罰せられ、あなたとあなたの周囲の人々を深く悲しませることになります。
老いた私には戦う力はない。銃を撃っても当たりはしない。兵士たちのために肉の盾になることも考えたが、彼らは傷ついた私を放っておけないだろう。私を救うために若者を死なせてしまってはいけない。だからもう、ドンバスで死んだ息子の復讐は諦めていた。
だが、奴らは来た。わざわざ私に殺されるために、復讐の機会を与えるために来てくれた。
キエフから北に向かってだいたい30キロくらい。このあたりではどこにでもあるような町の、どこにでもある一軒家。ロシア軍を待ちながら酒を飲む。息子が東部で死んでから、飲んでも味がしなくなった酒だが、今日は美味い。スラブ人の肝臓が使い物にならなくなるまで飲まなければいけない。しかし、完全に理性を失ってもいけない。ロシア軍がベラルーシからキエフを狙うならば必ずここを通るはずだ。そのときに、私はのんだくれの薄汚い老人になっていなければならない。汚い部屋、棚の果実酒、倉庫には食糧、机に突っ伏して酔い潰れる老人。準備はできた。奴らはもうすぐやってくる。
乱暴に扉をたたく音がする。ロシア軍がやってきた。
「セルゲイか?鍵は開いてるぞ、勝手に入れ」
ロシア語で答える。
ドアが開けられ、5人ほどのロシア兵が家の中に入ってくる。私は机に突っ伏したまま、ロシア兵を見ずに言う。
「酒なら好きに飲め。相変わらず、果実酒しかないがな」
入ってきたのがロシア兵だと気づいていないフリをする。ロシア兵どもの一人だろう、足音がもう俺が置いた果実酒の棚に向かって行った。最初のハードルは越えた。さて、他の奴らはどう出るか…
誰かが机に突っ伏す俺の、すぐ左手まで来る音がした。薄く目を開けてみると使い込まれているが、よく手入れされたブーツ。正規兵。ぜひとも殺したい!
「ご老人、よろしいか?」
ロシア兵は私の肩を叩き、あくまで紳士的に呼びかけてきた。素晴らしい!教育を受けた、粗暴でないロシア兵。こんな、ロシア国家と軍の宝のような若者。なおのこと殺したい!
歓喜を悟られぬよう、机に突っ伏していた上体をゆっくり起こし、目を瞬かせる。肩の階級章を確認-少尉だった-しながら、ここではじめてロシア兵がいることに気づいたように、小さく悲鳴を上げて椅子ごと倒れた。
「な、なんのご用ですか?」
少尉は、丁寧だが有無を言わさぬ口調でいう。
「急に押し入って申し訳ないが、我々に寝床を貸してほしい」
黙って頷く。
「あと、私の部下のために食糧を分けてもらえるか?」
これにも頷く。
「全部持っていってください。飯も酒もいくらでも」
少尉は感謝しますと言って、部下に食糧を取りに行かせた。
これで二つ目のハードルをクリア
家に置いてある食糧と酒をあらかた持ってくると、早くも口に入れようとする部下を制して、少尉はパンと果実酒を私の目の前に持ってきて言った。
「あなたもいかがか?」
氷のような目つきで私に勧めてくる。仕掛けが無駄にならなかったことを喜ぶべきだろう。このような用心深さを備えた士官をここで仕留められれば、その分この後の戦闘で死ぬ、ウクライナの若者が減る。
まずパンを掴んで口に頬張る。こちらには何もしていない。咀嚼する時間で覚悟を決め、グラスを掴んで甘ったるい果実酒を飲み干した。
これで最後のハードルを越えた。
他人から出された食べ物が毒入りかどうかを見分ける一番簡単な方法は、出した人間に食べさせることだ。ならば、私だけが死なない毒で殺してやる。私がロシア兵に盛った毒はエチレングリコールという。それ自体は無害な上に甘味があるーだから果実酒に混ぜたーしかし、肝臓で代謝されたエチレングリコールはシュウ酸に変わる。シュウ酸は体内でシュウ酸カルシウムの石になり、重篤な腎障害を引き起こす。私の酒を飲んだロシア兵どもは明日以降、身体がションベンの水風船になる地獄の痛みにのたうち回った末に死ぬだろう。
重要なのは私だけが死なない方法。エチレングリコールは肝臓で代謝されなければそのまま排出される。だから、事前に限界まで酒を飲み、肝臓を弱らせる。ロシア兵への殺意が鈍らせず、死なずに済む酒の量。事前に試すことはできない。私の賭けはここからだ。もっとたくさんのロシア兵をもっとたくさん苦しませて殺したい。死にたくない。