表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Forever Dreamer  作者: 小林汐希
第1幕 つばさが欲しいから
9/25

【9】




 昼休み、美弥は弁当を持って保健室に向かった。保健の先生と真弥が彼女を待っていてくれていた。


「待ってなくてもよかったのに……。遅れてゴメン」


「真弥ちゃんが、お姉さんと一緒にって言ってたの。本当にあなたたち仲いいのね。先生も女姉妹(きょうだい)いたけど、こんなに優しくなかったなぁ」


 保健の先生は、真弥の学校での数少ない相談相手だった。だから彼女の体のことだけでなく考え方の癖などもよく知っていてくれている。


「優しいってより、甘えっ子なんだよね」


「お姉ちゃん……」


 真弥がジト目で美弥を見る。


「そんな顔しないの。私だって真弥に少し嫉妬してるんだからね。本当は私よりずっと可愛くなっちゃって…」


 美弥がいたずらっぽく言うと、手を当てた真弥の顔が真っ赤になる。彼女にはそんな妹の仕草は真似できないと思っているから。


「放課後はすぐに来るからね」


 午後の授業、美弥は少し切ない気分になっていた。気になったのは今日の真弥のこと。


 今日の真弥は少し変わっていた。それがどこなのか、なぜなのかは分からない。でも確かにそう感じじられた。


 朝の騒ぎのことにしても、今までの彼女であれば、どんな状況になってもあそこまでの行動は考えられなかったから。


 真弥の中で、今まで出来なかったことが溜まり切って耐られなくなっているのかもしれない。


 来週からは長期の病院生活になり、外出もままならなくなる。たとえ自分の体を治すためだとはいえ、まだ中学2年生にとっては辛いことには違いない。


「美弥、元気ないじゃない」


 隣の席に座っている木下さおりが美弥の顔をのぞき込む。


「そう? 平気だよ」


「真弥ちゃんのこと?」


「うん……。こんど入院なの」


「どうしたの? 具合悪くなったの?」


 さおりの顔が一瞬険しくなる。彼女と美弥の付き合いは長く、真弥のことも心配している一人だ。


「ううん、手術受けるって言い出したから…」


「そっか」


 さおりが頷いたとき、


「おい葉月。妹来てるぞ?」


 二人は慌てて立ち上がった。さっきの授業で全部の日程が終わっていたのに気づかないほど美弥は心ここにあらずだったから。


「ごめんね」


 美弥は急いで教室を飛び出す。


「ねえ真弥ちゃん、手術受けるんだってね」


 さおりは他の子と違って、真弥の目線まで腰を下げる。


 これも美弥から学んだことだが、そのおかげか、真弥と対等に話すことができる数少ない高校生の先輩でもある。


「はい、いままで迷惑かけてすみませんでした。今度は元気になります」


 真弥の表情はさっきとは違って明るい。


「頑張ってね」


 さおりが走っていく。美弥は真弥を促して階段を下りた。


「同じクラスの子には会ったの?」


 美弥はそれが少し気になっていた。


「ううん。知らせない方がいいと思って……。わたしも嫌だし……」


 校庭に出て、真弥は立ち止まった。


「どうしたの?」


「わたし、またここに来られるのかなあ……」


 振り返って寂しそうにつぶやく妹の顔は、美弥の胸を締め付けた。


「なに言ってるの。帰ってこなくちゃダメでしょう? 私をまた一人で通わせる気?」


 妹の受験結果を一番最初に確認した美弥。彼女はこの学校に姉妹で通えることを、誰よりも喜んでいた。


 普段は妹を引き立てるために見せることはしない美弥の素顔というのも、真弥と変わらない寂しがり屋の少女だ。


「そうだね。ゴメンね変なこと言って」


「帰ってきたら、すぐに夏休みだから、そこでゆっくりリハビリだね」


「うん」


 本当なら、こういう大きな手術は長期休暇の時に行うことが多い。それを前倒しすることには勉学の遅れというリスクも伴う。それでもこの時期に踏み切るのは、後ろに夏休みが控えているから、遅れを取り戻せるという計算があってのこと。


「大丈夫。秋からまた一緒に登校できるから」


 美弥は小さくうなずいた妹の手を引いて家路へついた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ