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第4話 論争

 廊下の中央、ざわめきが広がる。


「今から『論争』開始しまーす! 巻き添えをくらいたくない人は、私たちから離れておいてくださーいっ!」


 僕と夕凪の周囲から、一瞬にして生徒たちが遠退く。

 んんっ? なにやら、自動的に舞台が整っているんだけど。僕は開始することに頷いた記憶は欠片もないよ?


「あ、あのさ、いくらなんでも、こんな場所で――」


「夕凪の『言霊』は、水辺にたたずむ者――『水蝶』」


 聞く耳持たず。

 言うが早いか、夕凪は人差し指を構え、


「水技――水鉄砲!」


 ぴゅい。

 拍子抜けするような音と同時、僕の頬を青い球体が掠めていった。あちっ! 熱い。ちりちりと、通り過ぎた箇所――っつう! 僅かな痛み。遅れて、背後からなにかの崩れる物音。その音に誘われてチラリ――ほぉお! 教室の扉が吹き飛んでいた。

 僕は唖然とする。その間隙を突かれ、


「余所見は禁物だよっ!」


 ただでさえ近かった距離を、夕凪は更に詰めてくる。


「水技――」


 直撃コース。

 最早、避けることは不可能だろう。だ、駄目だ、やられ――るぃや、待て待て。よく考えてみよう。


 ……やられてもいいんじゃないの? 


 やられてしまえば、生徒会長などという重責を背負うことはなくなる。そうっ! 僕やられる、夕凪生徒会長――原始的に考えても素晴らしい流れだ。


 ある意味、チャンスに違いない。


 甘んじて受け入れよう。痛いのは一瞬――歯を食いしばれ! 我慢すればいいんだ。穏やかな高校生活はまだ取り戻せる。我慢、我慢すれば、がま――、


「…………」


 ――扉の残骸が脳裏に浮かぶ。

 歯を食いしばってどうにかなるレベルじゃない。全身の骨が粉々になりそうな気がしてきた。どう安く見積もっても救急車の手配がいるよ、これ。入学初日から、病院のお世話になるとかどうなの? 最悪、生命の危機的予感さえ感じてくる。

 くらったら死――、


「――水鉄砲!」


「っ! その言葉、否定する――水鉄砲!」


「ふぇっ? ……ぶばっぱあふぉ!」


 ――ツインテールを回転させながら、夕凪が盛大に吹き飛ぶ。

 その勢いはとどまることを知らず、二度、三度とバウンドし、遠目に見ていた生徒たちの群衆に紛れて消えていった。先ほどの生徒会長に続いて、なんて威力なんだ。もしかして、皆さん僕を殺す気なんじゃなかろうか、恐怖心が芽生えてくるんですけど。


 ……そう、恐怖心、がね。


 静寂に包まれる廊下、硬直する生徒たち――一つの感情が支配する場を尻目に、僕は教室の入り口を跨いだ。


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