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Quest 1-6 未来の英雄

 革鎧、よし。甲手もよし。ウエストホルダーの中身も確認して……よし!


 お祝い(・・・)にもらった先生とお揃いの装備を身につけて、支度を終えた。


「用意はいいか、二人とも」


「ばっちりだよ。どう? 師匠にもらった帽子、似合ってるかな?」


 頭より大きな紺色のとんがり帽子を被る優奈。


 クルクルと回って、白のローブがひらひらと揺れる。


「十分に一人前の魔法使いに見えるよ」


「ノンノン、ダメだよ、マナト。こういう時はちゃんと可愛いって言ってあげなきゃ」


 二人はじ〜っとこちらに目を向ける。


 女性二人には敵わない。白旗をあげたのは俺の方だった。


「……すごく可愛いと思う」


「えへへっ、ありがとう。愛人くんもかっこいいよ。……本当に格好よくなった」


「そ、そうか? たしかに体つきも良くなったし、あの時よりはマシになってるかも」


 もしそうだとしたら優奈のおかげだ。


 彼女がいなかったら俺はこうも変われなかっただろう。


「ラ、ラトナも装備新しくしたんだな」


 恥ずかしくて優奈を直視できず、露骨だが話題を逸らす。


「二人がご飯分けてくれたおかげで元気満々だったからね! 毎日いっぱいクエスト受けて新しい弓買ったの! 助けてもらった分もバンバン狩っちゃうよ〜」


「頼もしい限りだ。準備も万端だな」


「うん! この日を待っていたんだから!」


 それは俺と優奈も同じ。


 今日から俺たちは討伐クエストが解禁される。


 冒険者としてギルドに認められ、パーティーで活動できるようになったからだ。


 1ヶ月の間、世話になった部屋を見渡す。


 今日で俺たちはここを出る。ここも新たな冒険者に引き継がれるだろう。


 寂しさも残るが、いつまでも立ち止まってはいられない。


 胸の内で感謝を告げる。


「……よし! 行くか!」


「「おー!!」」


 最後となる光景を目に焼きつけて、扉を閉めた。


 宿屋を出た後は通い慣れた道を歩き、ギルドの扉を開ける。


 すると、受け付けの近くにいたアリアスさんと目が合った。


「みなさん、おはようございます。いよいよ初陣ですね!」


「おはようございます。アリアスさんやギルドが支援してくれたおかげです。この恩は活躍できっちり返します」


「ふふっ、楽しみに待っていますね。そして、みなさんの初めてのクエストはこちらです。ちゃ〜んと討伐クエスト取っておきましたよ」


 そう言って彼女はクエスト内容が書かれた紙を俺たちへ差し出す。


 本来ならクエストに予約なんて制度はないんだけど、多分これが以前に言っていた優遇措置というやつなのだろう。


 討伐対象は近隣の村近くに住み着いたオークの討伐。確認された対象は5匹。


 証拠となる耳を10つ5組提出して完了とされる。


「オーク討伐の推奨ランクはEだから、私たちにピッタリだね」


「アリアスさん、いいクエスト用意してくれてありがとー!」


「いえいえ、本当に私も楽しみだったんです。マナトさんたちがどんな冒険者になるのか。きっとそれはエトラーさんやジェシーさんも一緒だと思います」


 先生やジェシーさんはもう王都にはいない。


 活躍の場を求めて、違う街へと旅立っていった。


『いずれは君たちと依頼の取り合いになってしまいますから、僕たちはもっと戦線に近い街へ行きます』

『そんな顔しなくても、君たちが実績を積み上げればまた会えますよ』

『そして、その日は必ず来ます。なにせ君は僕の期待を裏切らない優秀な生徒なのですから』


 最後の会話を思い返して、ぎゅっと拳を握る。


 とっくにやる気は最高潮を超えていた。


「……師匠たちの元まで噂が届くくらい頑張ります! だよね、2人とも?」


「なんならすぐに追い抜いてみせるさ。先生曰く、Cランクは通過点らしいからな」


「ワタシはスキルがないけれど……マナトとユウナとなら超えられるって信じてるの!」


「その意気ですよ! んんっ! ……では、ギルドはクエスト受注を承認いたします。無事に帰ってきてくださいね!」


「「「はいっ!」」」


 アリアスさんに見送られて、俺たちは初めてのクエストに出た。



     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 地獄とは、きっとこういう光景なのだろう。


 昨日まで貧しいながらも平和な時間が流れていた。


 それが今、怪物たちによって壊されようとしている。


「ひぃっ!?」


 ノソノソと巨体を揺らして村へと近づいてくるオークたち。


 動きは散漫なのに威圧感を感じるのは圧倒的な大きさのせいだ。


 腕が僕の腰ぐらい太い。


 あの分厚い脂肪に槍を刺してもダメージがあるのかどうか……。


「本当に戦うしかないのか……!?」


「あんなのどうやって倒すんだよ……」


「頼みます……。誰かお助けください……!」


 村の男衆がボロボロの農具を構えているが、雰囲気は最悪だ。


 悲壮感が漂い、誰もが負けを疑っていない。


 だが、それでも戦わなければならないんだ。


 僕たちが少しでも時間を稼がないと、今度は女子供まで餌食になる。


 それに村長は王都に依頼を出したと言っていた。


 抵抗していれば、王都から冒険者がやってきてくれる。


 それだけが村の希望だった。


「く、来るぞ!」


 見張り台にいた男が叫ぶ。


 僕たちは俯いていた顔をあげて、怪物を見据える。


 先頭にいたオークと目が合った。


「ヴォォォォォォ!!」


 オークたちが雄叫びをあげて、村へと向かって走りだす。


 ーー刹那、野太い声で叫んでいたオークの肉体に穴が開いていた。


「……ッ……ォ……」


 緑の血を吐き、倒れるオーク。


 その後ろに拳を突き出した少年の姿があった。


「優奈! ラトナ! 2匹頼めるか!?」


「任せて! 私の魔法の威力、見せてあげる!」


「ふふーん! ワタシの出番も残しておいてくださいよ!」


「サンキュー! それなら俺は……!」


 少年の体がブレる。


 気がつけばオークの頭上にいて、顔面を蹴り飛ばしていた。


「……すごい」


 人の何倍もの大きさがあるオークが浮いて、背中から倒れ落ちる。


 巻き上がった土煙が消えると、顔面が潰れたオークは絶命していた。


 圧倒的強者。


 そんな言葉が僕の頭をよぎっていた。


「ラトナちゃん! 足止めできる!?」


「もちろん! エルフの眼を舐めないでほしいの!」


 ギリリと引き絞られた弓。


 迫りくるオークに対して一切の動揺を見せず、エルフの少女は照準を定める。


「豚は的がデカくて助かります……ねっ!」


 放たれた矢はオークの眼へと突き刺さる。


「まだまだ! 次、いきますよ!」


 休む暇を与えず、連射される矢は的確にオークの視界をつぶす。


 バランスを崩して、味方同士でぶつかる始末。


 あれだけ怖かったオークに今では同情すら覚える。


 そして、奴らにはさらなる攻撃が待ち構えていた。


「雷神よ。轟け。響かせ。撃ち落とせ。大いなる自然の力を思い知らせろ。《穿つ(サンダー)雷槍(ボルト)》!」


 オークを貫く爆音と光。


 消炭になった肉塊は悲鳴すら許されずに死を迎える。


「オォ? オォ?」


 残された一匹は理解が追い付いていない様子で、情けない声を漏らす。


 捕食者から被食者へとなってしまったことにやっと気が付いたのだ。


「あとはお前だけだぜ」


 少年が正面からオークへと近づく。


 彼が一歩進めば、オークは一歩後ずさる。


「魔物が……人間におびえている……」


 まるでさっきまでの僕らのように顔を歪ませるオーク。


「安心しろ。痛みは一瞬だから」


 オークは嫌だと言わんばかりに首を振る。


 その願いは許されなかった。


「――戦神の弾撃(ブレイヴ・ブレット)!」


 少年の拳がオークに突き刺さる。


 あれだけ大きかった怪物はもういない。


 肉片が飛び散り、血がとめどなくあふれる。


 無事と呼べるのは頭だけで、その下は見るも無残な結末を迎えていた。


 戦闘を終えた少年は手に付着した血をぬぐうと、ぼうっと眺めていた僕の方へと駆け寄ってくる。


「ギルドから来ました冒険者のマナトです。お怪我はありませんか?」


 身分を告げて、彼は手を差し伸べてくれる。


 これが……冒険者。魔族と戦う強者。


 僕はこの日を忘れないだろう。


 英雄を見た、この日を絶対に。


 そんな確信を抱きながら、彼の手を掴んだ。


いつも拙作を読んでくださり、ありがとうございます。

今回のお話でプロローグ的な立ち位置だった第一章は終わりとなります。

次話からは第二章に入り、冒険者としてダンジョン攻略や修司たちへのざまぁ展開が始まります。愛人たちの活躍にご期待ください。

これからもよろしくお願いします

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >動きは散漫なのに威圧感を感じるのは圧倒的な大きさのせいだ。 「散漫」の部分は正しくは「緩慢」ではないかと。
2021/05/14 12:35 通りすがり
[良い点] 主人公が腐らず、臆せずに立ち向かう姿勢はとても好感が持てます。 でも、ヒロインがついてこなければ危なかっただろうな。頭悪いギャルと一緒にならんで良かった [気になる点] エルフっ娘の加入が…
2021/01/13 23:17 名無し忍者
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