なんかいつも唐突にでてくるミオ
「飯だ!飯を食うぞ!!」
たけしとヤンと亮太の3人がスィンコ塔から食堂に向かって歩いていた。たけしは腹が減っていたので嬉しそうだった。
たけしはヤンにはムカついていたが亮太のことは認めていた。(1番弱いくせに)
「お前、名前なんて言うんだ?」
たけしがちょっと気恥ずかしそうに甲斐荘に聞いた。
「ん?俺か?俺は亮太だ。甲斐荘亮太。お前は?」
「俺はたけしだ。山田たけし!さっきのあれどうやってやったんだ?俺にも出来るのか?」
「山田っていうのか。よろしく。さっきのあれってのはこれのことか?」
亮太が握っていた拳を開いた。手の中には黒い砂が握られていた。
それを見たヤンが唸った。
「磁力ですか、、」
たけしも気づいた。
「砂鉄か、これ?」
「ああ。俺の特性魔法は磁力を司る魔法だ。自分自身に強力な磁場を発生させる<マグネティックフォース(本当は寂しがり屋)>と自分が選んだ対象に強力な磁力を持たせる<インダクタンス(強制抱擁)>がある」
(本当は寂しがりやなんだ。)
たけしとやんは同時に思った。
「さっきのはたけしとヤンに強力な磁力を持たせて、部屋の鉄製品を吸着させたんだよ。」
うーん、と唸ってからたけしがきいた。
「インダクタンス(強制抱擁)?でそうしたのは分かったけど、どうやって空中で止めたんだ?」
甲斐尚はたけしの目を見て、少し考えてから口を開けた。
「そうだな、、俺たちは同じ部屋の仲間だから言うが、基本的にベラベラ喋られるのは困る。」
甲斐尚はヤンの方をチラリと見た。
ヤンがすかさずつっこんできた。
「たけし君、魔法使いはそれぞれ独自の魔法を研究開発していくもんなんですが、基本的にその情報は血の繋がりがないと共有されません。以前お伝えしようとしたアルターレって覚えてますか?」
「ん、?あー、、なんか聞き覚えが言葉だな。」
「アルターレってのは、昔からの魔法使い一族が伝承している書物のことなんですが、ユダヤ教に伝わる「タルムード」と類似していると言われています。引き継がれながらも代々の教えや、その家系にしかない秘伝魔法の研究内容が随時更新、記載されていき、家系を色付ける一つの要因となります。古くからの魔法族の家系はアルターレがあるが故に、卓越した知識を誇り、一子相伝の魔法力を引き継ぐことから、魔法界で尊敬と畏怖の対象となっているんです。語源は諸説ありますが、ラテン語のアウスクルターレ「聴く」と言われているそうです。って聞いてますか⁈人の話。」
たけしは歩きながら寝ていた。
「ん、んおう!き、聞いてた聞いてた!なるほどね、、うんうん」
ヤンは疑いの目で見ていた。
「本当ですか?怪しいなあ。まあむやみやたらに自分の魔法の秘密を人に話さないってことです!」
「なるほど!」
「以前僕がたけしくんにアルターレの説明をしようとした時、兄が止めたのも、ようは兄は万家に伝わるアルターレの内容を僕が漏らさないか心配だった訳です。いつまでたっても弟分ですよ笑」
「なるほどね。」
「まあ建前はそんなところだ。」
甲斐尚が入ってきた。
「ただ没落した貴族だったりが、金欲しさにアルターレを売買したり、盗品としてブラックマーケットに出てくることがある。歴史ある家系のものだと小国が買えるぐらいの額になるそうだ。」
「え、国買えんの?笑」
「ああ、それぐらい価値があるものってことだ」
たけしの目がドルになった。
話しているとようやく食堂についた。食堂は他の学生たちで賑わっていた。築100年は経っていそうな古ぼけた教会の体をなしていた。
「3つのうちから好きなの選びな!」
無愛想な食堂のおばちゃんが早くしてくれといった顔でぶっきらぼうに言葉を吐いた。食堂は木造建築だった。
「あー、それじゃない!そう、そっちの!その札持って並んで!」
古ぼけた木の札がたくさん置いてあり、その札にそれぞれ番号が大きく掘られていた。
「食べたい料理の番号もったらあっちに並んで!あんたたちだけじゃないんだから、さっさといきな!」
3人は見本の料理を見る暇もなく、急いで木の札を1つずつひっつかみ列に並んだ。
「おいおい、何食わされるか分かったもんじゃねえなこりゃ」
たけしが毒づいた。というのも食堂のおばちゃんは目が常人の2倍は大きく見開かれており、鋭い黄色の眼光をして、顔の大きさがたけしの5倍はあったからだ。
「心配しなくていいよ。小豆婆は料理は得意なんだ。」
ヤンが嬉しそうに言った。
「そ、そうなんだ。」
たけしはそれ以上質問することをやめた。
世話しなく働いている他の小豆婆に番号の書いてある木の札を渡すと、それぞれ鮭定食、肉定食、たらこスパゲッティがでてきた。木の器が使われていて見た目からして美味しそうだった。
「あそこ空いてるから座ろうぜ」
甲斐尚が席についた。ご飯を食べながらヤンが話し始めた。
「それとさっきの続きだけど、ちなみに<大転生の子>のもとになった学術書はカロリング家が独自に研究していたアルターレの一部を公表したものだよ。それを大衆受けするように物語調に改編したのがベストセラーになったのさ」
「ふーん、ヤンの家にもアルターレあるの?高いの?」
「はは!あるけど、うちのは100年も歴史がないから大した額にはならないよ笑 高値がつくのは500年は歴史がないと」
ヤンが真顔になって周りを気にしながら小声で続けた。
「実はここだけの話、ここ魔高には日本の超大物魔法使い一族のアルターレが保管されているっていう噂があるんだ。実は日本の古代魔法って、世界的にみても結構変わってて、、」
「なーにをこそこそ話してるのかしら!万家の末裔風情が!」
後ろからするどい女性の声がヤンの話を遮った。ヴィクトリア・未央・オズボーンだった。
「え、なに?」
たけしはびっくりした。
「あなた悪目立ちしてますわよ!た、たけし君とばっかり話して!」
ミオはたけしの方をチラッと見てすぐそらした。顔が赤くなっていた。
3人は固まっていた。
たけし (え、なに?だれ?)
甲斐尚 (外国人ってすげえ!)
ヤン (え、こわひ)
周りの学生もなんだなんだと注目してきた。ミオは3人が何も言わないもんだから、恥ずかしさでわなわなしだした。ミオの双子の兄、アーサーが遠くからこの事態に気付いて食べていたタラコスパゲッティを吹き出した。
「た、たけし!私とお昼ご飯食べなさい!!」
ミオのたけしへのお昼ご飯一緒に食べようという提案は、食堂にいた学生全員に聞こえるぐらい大きな声だった。