たけしとスィンコ塔新入生
蔦が絡まった巨城。
スィンコ塔の後ろには森が広がっていた。小鳥が眩しそうに飛んでいた。
みんなが入り口から大広間に入ると、緑のローブに身を包んだ女性が1人立っていた。肩程まで伸びた薄茶色の髪の毛が少し外ハネしている。その女性が新入生をぐるりと見渡して怪訝な顔をした。
「ん?ペルー教授はどうしたの?」
リーとヤンが顔を見合わせて気まずそうに答えた。
「なんか、走ってどこかいっちゃいました。笑」
「恐らく急な腹痛かと、、!」
「なんて無責任な!」
女性は眉を吊り上げて激昂した。
「まあいいでしょう!新入生はこれで全員かしら?ええ、ええ、そうね。人数はあってるわね。ああ!挨拶が遅れました。私はスィンコ塔2年の監督生、長嶋美樹と言います。以後、私のことはミス長嶋と呼んでください。スィンコ塔では一年生は3人部屋です。名前を呼ぶので、呼ばれたら返事をして前に出てきて下さい。」
ミス長嶋が早口でまくしたてた。
「大丈夫?言うわよ。我妻明日菜!上白石栞!原琴美!」
「はい!」「はい」「はい」
「貴方達は睦月の部屋になります。イル!おいで!」
天井で羽を休めていた黄色いインコがミス長嶋の肩まで降りて来た。
「イル、彼女たちを案内してあげて。睦月の部屋よ。」
「クエー!」
ばささっと、肩から飛び降り、イルが3人の周りを飛びながら誘導し始めた。
「ツイテコイ!ツイテコイ!」
「え、可愛い!」
上白石栞はインコに目を輝かせている。
我妻明日菜は動じないように目を見開いて平静を装っていた。嫌そうな顔をしていたのは原琴美だった。
「たけし、上白石家と我妻家はチェックだぞ」
ヤンが耳打ちしてきた。周りの新入生達もこの2人が同部屋になることに驚いていた。
「いや、だれ?」
「上白石さんと我妻さんだよ。あの2人の家系は代々の魔法使い一族として結構有名だよ。恐らく家系にアルターレが継承されてると思う。」
「アルターレってなに?」
「お、お、、そうか。アルターレっていうのは、、」
「ヤン!いらんことまで教えんでええねん!」
リーが仏頂面で遮ってきた。
「わいらも"万家"やねんぞ!」
ヤンはたけしと目を合わせながら、両の手のひらを上に向けて、やれやれのポーズをした。
「分かってるよ。兄さん。」
ミス長嶋の声が響いた。
「ティア我妻、ティア上白石、ティア原の3人はこのインコについていって下さい。部屋まで案内してくれます。それと、皆さん、この後は各自、食堂で昼食をすませたら、13時には寮の子望月の間に集まって下さい。寮の説明がありますので、遅れないように!」
「はーい!だって!!行きましょ!」
上白石栞が、他の2人の手をとってパタパタと3人で奥の階段を上がっていった。我妻は少し恥ずかしそうにしていたが、原は明らかに嫌がっていた。
「はい次!サクサク行きますよ!竈門友里、中村翠、橋本蘭!」
「はい」「はーい!」「はい!」
中村翠が1番に元気よく出てきた。橋本蘭は楽しそうで、竈門友里は眠たそうだ。
「貴方達は如月の部屋です。メル!」
ばささっ
今度は青色の文鳥が降りてきた。
「そう、そう、いい子ね。あの子達を如月まで案内してあげて。」
メルはミス長嶋の耳を咥えながらじっと3人の方を見つめていたが、ピョっと言って、竈門の頭に着地した。
「んー?」
竈門は少し目が覚めたようだった。
「随分馴れ馴れしい鳥なんだけど。」
竈門がぼそっというと、メルは慌てて飛び立って奥の階段へ消えていった。
「そら3人ともメルを見失わないように!部屋で休めなくなりますよ!」
ミス長嶋がピシャリと言った。
「やば!」
中村と橋本が同時に駆け足でメルを追って階段を登っていき、竈門は2人の後ろをついていった。
「竈門家も要チェックだぞ。たけし」
「分かった。なかなかまびーな。竈門ちゃん」
「ざっと見たけど、スィンコ塔の同級生で1番やばいのは竈門ちゃんだな。竈門家は現当主が九宮神、天皇と日本を守護する役職についてる。現人神として国に認められてるよ。」
「え?竈門ちゃんの親父、神様なの?」
「うーん、、人でありながら神様ってことなんだけど、、まあ神様レベルに強いってことよ。竈門家は神職を3代に渡って輩出した事で、三神通と恐れられ、皇室魔法職の中で相当な影響力を持っているそうだよ。それと、他の寮の新入生だと、曾我家、天草家、藤原家らへんが有名だね。」
「あの金髪のねーちゃんは?黒タンクトップ怪力女の後についていってた子。」
「ん?うーん、ああ沖副学長の寮だった子か。あの子は多分オズボーン家の子女だと思うけど、魔法使い一族としては百年の歴史もないよ。ガチモンの一族なら自国の学院に入学するだろうしね。たしかイギリスだっけ?」
「ふーん、結構強そうだったけどね。」
「そうなんだ、、ただ魔法使いは強ければいいってもんじゃないけどね。魔法銀行に就職するのに強いアピールしても受からないでしょ?宮人になりたいなら別だけど。ああ、皇室に仕える魔法使いのことね。」
「まあなんでもいいや。」
「山田たけし!万洋!甲斐荘亮太!」
「お、呼ばれた。はいはい!」
「返事は一度でいい!!」
ミス長嶋だ。
「たけし一緒じゃん!」
ヤンがウインクしてきた。
「お、おお。(こいつカマじゃねーだろーな)」
「貴様が大転生のたけしだったのか。」
ミス長嶋がたけしを睨みつけた。よく見ると入学式の時、注意してきた上級生が長嶋だったことにたけしは気付いた。
「おお、あんたか。よろしくな先輩」
「、、貴様、身の振り方を覚えないと痛い目をみるぞ。魔高は甘くない。」
通り過ぎるときに、ミス長嶋に耳元で言われた。
たけしは口笛を吹いて、鳥についていった。