たけしとミュージカル兄弟
非魔法使いの両親から生まれた貧乏魔法使い「山田たけし」が魔高(王立魔術高等専門学院)の入学式を迎えた。多摩地区の山の中に高い塀に囲まれた陸の孤島とかした学院には、7つの寮がある。黒タンクトップの肉体美を誇る沖・キャストレイ・玲子副学長につれられ、ヴィクトリア・未央・オズボーンは隣あうウノ塔とドス塔の方へ向かって行った。一方たけしは、どもり気味の魔術概論の教授、ペルー・仁につれられ、スィンコ塔に向かうのだが、、?
たけしは困惑した。
40名ほどの初めて顔をかわす学生たちの尊敬と畏怖と好奇の目に囲まれたからだった。
「え、何?」
たけしは若干イライラしていた。
遠巻きでスィンコ塔に入寮する新入生たちがペルー・仁教授の横にいるたけしに注目している。
「う、、うおっほん!ゲフッ!ゲフッ!」
ペルー・仁が咳払いをした。
「えー、み、みなさん、こ、これから、スィンコ塔に、い、移動しますが、我がりょ、寮に、<大転生>のた、たけし君も入寮す、することが、決まって、います!」
一部の新入生が歓声をあげた。
「今年の寮対抗戦はうちで決まりだな!」
「たけし頼むぜ!」
「先生!聞きづらいんでマスクかぶっていいですよ!」
ペルー・仁はびっくりして、歓声をあげた生徒たちを見つめた。
「ん、ん〜、そのみ、民族衣装は、き、君たちは万さんとこの子達、か、かな?」
それぞれ黒と青のチャンパオ(中華服)に身を包んだ2人が、まってましたと言わんばかりにみんなの前に躍り出てきた。
「あい!待ってました!同寮の皆々様!」
「只今ご紹介賜りましたのは万家の末裔!」
2人は、くるくると踊りながら、ペルー・仁のヨレヨレの白衣をどこからか取り出したはけでパタパタはたき、綺麗に仕立て上げた。
「兄の万麗と!」
「弟の万洋也!」
兄のリーがペルー・仁のメガネのズレを、弟のヤンがネクタイを直して仕上げに入った。
「以後、お見知りおきを!!」
最後は2人揃って立礼した。
緊張していた学生たちもネクタイを頭につけて、逆さまのメガネをつけているペルー教授を見て、さすがに吹き出した。
リーとヤンがたけしの方を向き、笑顔を見せた。
「たけし、よろしくな!リーと、」
「ヤンだ!」
「お、おお。よろしく、、」
たけしは2人のことをミュージカル兄弟と心の中で名付けた。自分より目立っていたので若干腹が立ったが、様子を見てから敵か味方かを判断することにした。
「と、と、とりあえず、、スゥインコ、スゥインコと、と、塔に、い、い、いってなさい!」
ペルー・仁が頭を隠しながら走ってどこかに行ってしまった。
「寮はこっちだから、みんなついてきて!」
リーとヤンが先頭に立ってみんなを誘導してくれた。たけしはここは愛想を振りまいた方が間違いなくいいと判断し、媚びモードに切り替えた。
「ヤンくんとリーくん?だっけか。よろしくな!おれはたけし。色々教えてくれると嬉しいな!」
「おう!学院のことならなんでも聞いてくれ!」
「俺ら兄貴と姉者も入学してるから大体知ってるんだよね笑」
「そうなんだ!だから詳しいんだね!すごいや!」
たけしが目をキラキラさせながら答えた。
「よ、よしてくれよ笑 大転生のたけしにそんなこと言われたら恥ずかしいよ」
「それな笑」
リーとヤンが顔を見合わせて笑った。たけしはここだと思い、意を決して質問した。
「その、大転生?って、、何か教えてくれない?」
2人が急に真顔になった。
「え?知らないの?」
リーがびっくりした顔で言った。
「そ、そうなんだ。知らないんだよね。」
たけしはこめかみにピクピクと怒りのせいで血管が浮き出ていたが、顔はなんとか笑顔を保っていた。
「よ、よかったら、教えて、くれないかな、?」
なんとか明るい声を腹からひりだした。
「えー?ほんとかなー⁈ほんとに知らないの⁈」
リーは自分がからかわれているんじゃないかと思って、聞き返した。
(あ、やばい。キレそう)
たけしの視界が怒りで真っ白になる寸前、ヤンが会話に入ってきた。
「兄さん、それは失礼だよ。たけし君はピュアの生まれなんだから、魔法界の事をこれから学ばれるんでしょ。」
「え?たけし、ピュアなの⁈」
「兄さん、大転生の子はこれまでの統計上、ピュアの生まれからしか誕生してないよ。僕、原作読んだから知ってるんだ。」
「そーなのか!俺、ドラマしか見てないからな〜」
「たけし君、ごめんね。大転生っていうのは300年に1度誕生すると言われているすごい魔法力を秘めた魔法使いのことを言うんだ。たけし君は最初の春をいつ経験してる?」
「最初の春ってなに?」
たけしはヤンにならムカつかずに質問出来ると悟った。
「最初の春っていうのは、魔法使いとして産まれたことを証明する最初の不思議な現象のことを言うんだけど、、身に覚えがある?親から聞いたとか?」
「あー、それだったらなんか母ちゃんの腹の中にいる時に、声が聞こえたって、両親が言ってたわ」
「お腹の中で!!」
リーが口をポカーンと開けてたけしを見つめた。
「す、すごい!すごいよ!!最初の春を出産前にしてるなんて!!普通はどんなに早くても1歳後半だよ!」
ヤンは興奮してる。
「それの何がそんなにすごいのよ。」
たけしは2人のリアクションについていけなかった。
「単純に、最初の春が早いほど魔法力が高くなるってのもあるけど、大転生、つまり1歳になる前に最初の春を迎えた子のことをいうんだけれど、大転生の子は継承魔法が使えるらしいんだ。」
「継承魔法?」
「うん、まだ考察の域を出ないんだけど、、何しろ300年単位で1人、しかもピュアの子からしか生まれないもんだから、全然研究が進んでないんだけど、、生まれ変わりってあるでしょ?それの魔法版だと思ってくれていいんだけど、、あ、ピュアっていうのは両親がどっちも非魔法使いなのに魔法使いとして産まれた子のことを言うんだけど、、」
「1万人に1人の確率で産まれるらしいよ。」
リーが考え事をしながらボソッと言った。
「ふーん、じゃあ俺強いんだ!」
たけしは機嫌が良くなってきた。
ヤンがうなづいた。
「多分、というか絶対強いよ笑 というか、<<大転生の子>>を絶対読んだ方がいい!昔出版された本なんだけど、超人気で何度も重版してるんだ!!自分がそうなら尚更だよ!笑笑」
「今期のドラマも最高だぜ!?キリスト役の雨麗 めちゃ可愛いよ!キリストに女優ってのが意外とハマるんだよな〜!」
「キリストってイエスキリスト?多分俺見ないよ笑」
たけしの返事にリーが笑って、ヤンは困った。
リーが急に真面目な顔をしてわざとらしく、仰々しくたけしに言った。
「たけし殿!キリストを馬鹿にしてはなりませんぞ!
イエス様も貴方様も同じ大転生の子なのですから!」
リーが腹を抱えながら笑っている。たけしはハッとした。いつのまにかスィンコ塔に到着していたことに気づいたからだった。