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たけし入学する

たけしは急いでいた。


その日、東京都上空から飛行機の轟音のような激しい爆音が鳴り響いていたのを、何人もの人が証言している。


たけしが音の壁を突き破って移動していた音だった。


「あれか」


巨大なバルーンがいくつも浮いている建物があった。王立魔術高等専門学院だ。ゴシック調のレンガの建物がざっと見て7棟あり、中央にお城が鎮座していた。学院全体は高い塀で囲われており、入り口から建物まではかなり距離がある。


「入学案内にここってかいてあったけど、東京にこんな城があったとは、、」


ここは奥多摩の山の中だった。東京といえど、西東京は自然豊かな未開発地域が広がっていた。


たけしが到着した時には人が疎らになっており、奥にある1000坪はありそうのドーム型の建物に人の流れが向かっていた。


「あれが体育館か?」


たけしは箒に器用にまたがりながら、学校の案内図を見て、入学式の会場を特定した。


「これより!学長訓示!!」


学院を包んでいた楽しそうな音楽が鳴り止み、空も震えそうなほど拡張された声が学院全体に鳴り響いた。


「やばい!はじまる!」


たけしは急いで体育館の奥の森の中に着地した。


「誰にも見つかってないだろうな、、」


たけしは親から魔法は将来学ぶから、今は人前でむやみやたらに使ってはいけないと教えられてきた。そのせいもあって、魔法を練習する時や使う時は、誰にも見られないように隠れるくせがついていた。


たけしは髪の毛にかかった葉っぱを払いながら体育館入り口に小走りでむかった。


どんっ!


「いてぇ!!」


「ああ?」


入り口で別方向から走ってきた人とぶつかった。


「あ」 「あ」


モヒカンだった。


「てめぇ!」


ばきっ!


たけしの右ストレートがモヒカンにヒットした。


「ここであったが100年目じゃ!!」


「なにしやがんだ!」


「てめーもここの生徒だったとはな」


指をパキパキならしながら近づいてくるたけしにモヒカンは狼狽えた。


(うわ〜周りの人めっちゃ見てる、、)


さすがに学長訓示の最中にケンカはやばかった。


「ちょ、ちょっとまて!落ち着け!お前もここの生徒だったんだな。とりあえず周りみろ!」


ざわざわ


「えーちょっとなにーケンカー?」

「おいおい、モヒカンと金髪がケンカしてるぜ笑」

「やだー」


「な?お前もせっかく魔法使いとして選ばれたんだからいきなり問題沙汰はいやだろ?一旦落ち着こうじゃないか」


(頼む、、!ひいてくれ!)


モヒカンは冷や汗をかきながら祈った。


「それもそーだな!」


ほっ


「遅れてきた方は中に入って自分の席に静かに着席して下さい」


案内係の女の先輩がでてきて、階段の上からジロリと2人を一瞥して静かに言った。


(てめーいきなり殴りやがって、頭おかしいんじゃねーの!)


(うるせー脊髄反射じゃ)


2人が競うように会場に入りながらこそこそ話していると、後ろから愚痴が聞こえてきた。


「まったく、、!今年の新入生は金髪にモヒカンなんて、魔高もどうかなっちゃったのかしら⁉︎今年は<大転生>の子が入学するって噂があるのに、、」


先輩の愚痴を背中で受けながら、2人は真っ暗な会場の席に座った。


「なかなか元気な新入生がいるようだね。」


壇上で話していたハゲの学長が、2人の方に向けて言った。


会場には、くすくす笑い声が上がった。


スポットライトに照らされた学長が続けて言った。


「さて、今日から魔高の生徒となる諸君には、はげたおっさんの話よりも、血気盛んな同級生の方が間違いなく興味を引くだろうが、それでも君たちにとって、一生に一度しかない、魔高の新入生として、私の訓示を聞いてもらいたいのだが、どうだろうか。」


学長がそう言うと、ざわついていた会場が水を打ったように静かになった。


「ありがとう。君たちの敬意に感謝する。」


学長は愛嬌のある笑顔を見せた後に話を続けた。


「まずは新入生諸君、入学おめでとう。君たちは偉大な魔法の力をその身に宿して、本校への入学を認められた才能ある若き血潮です。これまでの義務教育が終わり、魔法の専門教育がこれから始まります。魔法とは、魔法使いとは何かをどっぷりと学ぶ7年間となるでしょう!そして一生ものの友人とライバルができることでしょう!だって7年間も一緒に暮らすんだから!」


学長のドーン・橋本が気色ばみながら物凄い興奮した様子で話しているものだから、学生たちは笑っていいのか真面目に聞いていた方がいいのか分からなかった。


遠目から見ても唾がすごい飛んでいた。


「それにあれだ!恋人なんかも作っちゃえばいいじゃない!?正直に言おう。魔法使いは魔法使いと結婚するのが過半数だ!なんでかって!?だって青春時代をほとんど魔法使いに囲まれて過ごすもんだからさ!!」


ここまで言い切ると、流石に生徒たちは歓声をあげた。


「ヒュー!」

「俺は明日にでも結婚するぜ!」

「まずは相手だろ笑」

「きゃー!」

「すごい学校ね笑」


たけしも唸った。


「最高の場所にきちまったようだな、、、えーとあいつの名前なんていうだ?」


モヒカンが嫌そうに答えた。


「橋本だよ。ドーン・橋本。」


「イカすぜ橋本ー!!!」



「うるせぇぞガキども!!!!」


会場内に響き渡るように怒声が響いた。沖・キャストレイ・玲子副学長のものだった。


「黙って聞いてろ!!」


玲子副学長の一声で会場はまた、水を打ったように静かになった。


(な、何者だよ。あのタンクトップの筋肉女は、、)


何枚か会場のガラスが割れていた。おそらく怒声によるものだと理解したモヒカンは震えた。他の生徒たちも蛇に睨まれたカエルのように小刻みに震えていた。


(じょ、上等じゃねーか、、)



たけしは強がりながらも、自分の唾を飲み込む音が、静かな会場に驚くほど大きな音で響いた気がした。ドーン・橋本は玲子副学長の怒声に少し気まずそうな表情で、話を続けた。


「うおっほん」


「、、もう話しても大丈夫かな?沖副学長?」


「しゃんとしろ!!」


「は、はいい!!」


「続けろ!!」


「はい!!」


ドーン・橋本は、少し罰が悪そうに、チラチラ玲子副学長の方を見ながら、話を続けた。



「、、、え〜、そういうわけで、、みなさん、7年間の学園生活で良き仲間と、競い合えるライバルと、苦しさをわかちあえる恋人を見つけてください。まぁ中にはポルポルと結婚する変わり者もいますがね。」


ドーン・橋本は威厳を取り戻すかのように、ジロリと教員席のメガネの男を睨みつけた。自然と生徒の視線もメガネの男に集まった。


メガネの男は心底疲れたような顔をして、引きつった笑顔をドーン・橋本にむけた。



「えっイケメン!」


あちらこちらから女学生の囁き声が上がってきた。



それもそのはず、橋本が睨んでいるメガネの男は、少しパーマがかった長髪に黒縁のメガネをかけた180cmはありそうな色白の男性だった。遠目から見ても9頭身はありそうなスタイルの良さに整った顔立ちが見て取れた。年は30代ぐらいだろうか。肌の艶も若いように感じられた。


「ちっ!!」


ドーン・橋本の舌打ちだった。メガネの男に視線を注いでいた女学生たちもびっくりして橋本のほうに注視した。なんせ、マイクを通して舌打ちしていたからだ。橋本はまだメガネの男を睨みつけていたが、会場の学生たちが自分に注目していることに気づき、少し照れた様子で上機嫌になった。


「まぁなんでもいいですよ。はい」


「ひとまず訓示終わり!」


高らかに橋本が叫ぶと、会場が一斉に明るくなった。


「ウノ塔とドス塔の学生は私についてきな!いくよ!」


沖・キャストレイ・玲子が声を上げ、さっさと体育館を出ていった。大勢の生徒が慌てて、自分の入る寮の名前を確認しだした。


「ふん、そんなことも覚えてないのかしら。雑魚ばっかね。」


沖の後に1番についていったのが金髪のウェーブをなびかせている小柄な少女、ヴィクトリア・未央・オズボーンだった。未央は慌てている生徒たちを横目にふふっと笑いながらさっそうと体育館を後にした。その後ろをぞろぞろと出遅れた生徒たちがついていった。


「ふーん」


たけしは金髪をなびかせている未央がちらっと視界に入って、ふーんと言った。


「き、き、きみは、スィンコ塔だね。たけし君」


「ひょわ!!」


急に後ろから声をかけられてたけしは驚いた。たけしが振り向くと後ろに背の低い白衣の男がいた。肩まで届く伸び切った髪は、脂でテカテカしながらパーマがかっていた。


「は、は、はじめまして、ペルー・仁です。ま、魔術概論の教授でで、です。」


「お、おう。よろしくな。」


「き、き、君に会えて、僕は光栄でで、です。」


ペルー・仁はきらきらした目でたけしを見つめた。


「き、き、君が、、あ、あの<大転生の子>なんだね、、!300年に一度の、、ふ、ふふ!困った事があったらなんでも、い、、言ってきなさい、、!ぼ、、僕は、け、、結構、みー、ミーハーなんだ!ひとまずき、き、君はぼ、ぼくのか、管理する、スィンコ、スィンコ塔だから、つ、つ、ついてきなさい」


「あ、はい」


たけしはよく分からなかったがペルー・仁の後についていった。体育館を出るまで、たけしを見てひそひそ話をする学生達が大勢いたが、たけしは気付かなかった。


「え、先生。他の人は居ないんですか?僕だけですか?」


「ほ、そう、、そうだね。じ、事前に配った、あ、案内に書いて、書いてあるんだが、、よ、呼んであげようかな、」


ペルー・仁はスィンコ塔に入寮する新入生リストを取り出すとリストの名前を撫でながらぶつぶつ言い出した。


「こ、こ、この声がき、聞こえた学生は、入り口でたとこ、、右、、大転生のたけし君もいる。そ、そこにきたまえ、、」


リストをしまいながらペルー・仁は興奮していた。


「ふ、ふふ、、!た、大変なこと、な、なるぞ!」

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