オズボーン家登場
非魔法使いの両親から生まれた貧乏魔法使い「山田たけし」が魔高(王立魔術高等専門学院)の入学式に向かう途中、魔法使いによるテロに遭遇する。命の危険の最中、モヒカンの髪型をした男とたけし以外の時間が止まる。停止した世界の中で2人の喧嘩が始まる。その最中、たけしは地上30メートルから落下してしまうが、無傷で生還。目撃していた通行人によると、たけしの体がボールのように跳ねたと言う。また、テロは恐らく、忘れられない一味か黒の絨毯という犯罪集団による犯行との情報を得る。たけしは入学式に遅れないよう、箒に乗って急いで学院に向かう。その遥か下方で、首都高をワインレッドのファントム(ロールスロイス)が、たけしに負けないぐらい飛ばしていた。
-車中にて-
口と顎に沿って白髪混じりの綺麗に切り揃えられた髭を蓄えた(50代前半だろうか?)男性が、運転席の窓から顔を出し、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
男性は何もない空を眺めながら心底困っていた。
「おえええーー!」
停車した車の横の草むらから女の子の嗚咽と吐瀉物が地面に撒き散らされる音が聞こえてきた。
その音を聞いて車内にいた全員が眉間に皺を寄せながら困った表情をした。
「水を渡してくる!」
たまりかねて車中から飛び出したのは今年16歳を迎えるオズボーン家の嫡子、アーサー・圭一・オズボーンだった。
アーサーは道路脇の公園の茂みに向かって、声をかけた。
「大丈夫?水おいとくよ?」
茂みの中で苦しそうに膝をついて胸を抱えているのはアーサーの双子の妹、ヴィクトリア・未央・オズボーンだ。
「こっちきて」
未央に呼ばれて、アーサーが茂みの中に入ると、小枝や葉っぱがついて髪の毛がくしゃくしゃになった未央がいた。
いつもの未央は、澄んだ流水のように整った髪型とムラのない金髪をしていることを思うと、アーサーは未央があまりに不憫で可哀想になった。
「背中さすって」
青白い顔で俯いていた未央がアーサーを睨みつけながら言った。
「わかった、わかったからミオ。」
「はやくして」
うっ、、!ビチャビチャ!!
アーサーは目を瞑りながらミオの背中をさすった。
公園の木々には青々とした新芽が芽吹いていた。
-車中にて-
「未央は大丈夫かしら」
「大丈夫さ。ちょっと酔っただけだよ。」
「せっかく学校の入学式だって、張り切っていたのに、、」
残念そうな顔をしながら、黒いベールに包まれた公爵夫人がため息をついた。
「初めての日本の道路に目が回ってしまったんだろう」
夫人を励まそうと、笑いながら話すのはリーズ公爵位を受け継ぐオズボーン家第15代当主、フランシス・ルーベン・ゴドルフィン・オズボーン、その人だった。
「ねぇあなた?やっぱり、私不安だわ、、アーサーは心配ないと思うのだけれど、未央が学院についていけるかしら、、?」
「ハハハ!君は心配しすぎだよ!未央はアーサーよりも勉強はできないが、魔法力に関しては未央の方が強いからね。君も覚えているだろう?未央が2歳の頃に開けた穴を。」
「え、ええ、そうね。そうだったわね。」
夫人は当時を思い出し、我が子ながら、魔法使いとしての潜在能力の高さに身震いした。基本的に魔法使いとして生まれた子供は、自我が芽生え始める1歳後半から15歳までに偶発的になんらかの不思議な現象(最初の春)を起こすことで、魔法使いの子であると他者に認識される。未央は2歳、アーサーは4歳の時に、「最初の春」を経験している。魔法開花の時期が早ければ早いほど、基礎的な魔法のパワーが比例して強くなる傾向が認められている。
コンコン
窓をノックする音が聞こえた。リーズ公ルーベンは窓を開けた。
「もう大丈夫かね?」
「うん、大丈夫。もう何もでそうにない。」
「そうか、そしたら、父さんと母さんは後から行くから、2人で先に行ってなさい。」
「え?」
アーサーがびっくりした。
「実は学院はここから歩いていける距離にあるんだよ。ほら、地図を渡すから、自分たちで行っておいで」
ぱぁっと2人の顔が明るくなった。
「ありがとう!父さん母さん!」「行ってくる!」
2人して、車の置いてあったバッグをひっ掴み、学院の方へ走り出した。
「おい未央!サークルは何入るか決めたか!?」
「まだ決めてない!魔法の学校でしょ!?どんなところなんだろう!!」
2人の背中に向けてリーズ公ルーベンは声をかけた。
「浮かれすぎるなよ!!」
夫人は、はしゃいで駆けていった子供たちを微笑しく見守りながら、無詠唱で回復魔法を未央の腹部に飛ばしておいた。
学院が近付くにつれ、人だかりが増え、前方の大通りではパレードが開かれていた。王立魔術高等専門学院の入学式は、年に一度のお祭りだった。