たけしの母親は白金高輪がお好き
1万人に1人の確率で生まれてきた魔法使い。100年前に魔法界でも人間界でも力を持っていたウィンザー公爵、エドワード8世が公布した<<青の公文書>>をきっかけに、魔法と魔法を使える人たちの存在が公になった。どのように共存していくかが議論され、少しづつ人々の認識や法の整備が進んできている。<<青の公文書>>公布から100年経過した東京を舞台に、1万人に1人の確率を引き当てた貧乏家庭出身の魔法使い「山田たけし」が魔術の専門学校へ入学する。山田家の朝は騒がしい。今日は王立魔術高等専門学校の入学式だ。
「たけし!なんだい!その髪の毛は!」
「うるせー!ババア!なめられちゃあおしまいじゃ!」
荒川区にある木造家屋が連なる通称「荒川のスラム街」に朝から山田家の怒声が飛び交う。
近隣住民にとっては毎朝の恒例行事でもあり、ゴミ捨て場に散乱したプラスチックを啄むカラスも知らん顔だ。
たけしと呼ばれる青年の髪の毛は、ギラギラした金色をしており、周りの情景とうるさい不協和音を奏でていた。
「もう俺はいくぜ!次来るときは世田谷の一等地に庭付きの一軒家でもよこしてやるよ!」
「ちょっとたけし!」
「あばよ!」
「白金高輪にして!!」
母親の最後の台詞は、既に走り出したたけしの背中に虚しく響き、たけしに聞こえていたかは分からなかった。
たけしは、物心ついた時には「あんたは魔法使い」と、母親にそう教えられて、育てられてきた。
今日は王立魔術高等専門学院の入学式。
たけしは日暮里舎人ライナーに乗りこみ都心の学院まで向かった。電車の出入り口の角に立ちながら、ふと思い出したようにボロボロの鞄から友人達の寄せ書きを取り出した。同級生は、たけしの魔高(注:王立魔術高等専門学院の略称)入学を応援してくれていた。たけしは、この寄せ書きに何度も目を通したはずだったが、いざ入学初日となると勢いで金髪にした不安もあり、元気をもらいたくてもう1度目を通すことにした。
<教頭の車こわすなよ(笑)!>
悪友の佐藤からのコメントを見て、友達と一緒に教頭のクレスタを壁に立てかけたことを思い出し、吹き出しそうになるのをなんとか堪えた。
ドガーン!
日暮里駅に着く手前で、前の車両が爆発した。