扇風機頭の恋模様
「先輩、またですか。」
「すまない...。」
その男性は、年季の入った扇風機頭だった。
すっかりガタついていて、あちこち調子が悪い始末だ。
勝手に動き出しては書類を吹き飛ばし、首が回って人にぶつかることも少なくはない。
あげくの果てには前のカバーが落ちやすく、周囲に怖がられていた。
「カバーが無い状態で動き出したら凶器だもんなぁ。」
ため息をついていたところへ、仕事仲間が紐を手渡してきた。
「これ、よかったら使ってください。結んでおけば、いざというときに落ちないと思うので。」
「あ、ありがとう!」
忙しすぎて考えたこともなかった発想に彼は感謝した。
ギュッとカバーを結び付ければ、安心感が違うのがわかる。
今度、念のためにもっと紐を結んでおこうと決めながら再び礼を告げた。
「本当にありがとう。」
「いえ、...あの、ところで。」
チラリと相手が見たのは、最近入社したばかりの女性社員の一人だった。
同じ扇風機頭だが、小さめでピンク色でいかにも新品って感じの雰囲気が羨ましくてよく眺めていた。
「やっぱり、あぁいう子が好みなんですか?」
「え?別にそんなことはないけど。」
「そうですか。」
答えを聞いて何を納得したのか、早々に仕事に戻ってしまった。
いや仕事をするのは当然なのだからと、自分も急いで作業に戻ると同僚に話しかけられた。
「鈍感だよな、お前。」
「え、何か失敗でも!?」
「そういうとこだよ。」