王女、まだ鍛える
リドテックが4歳になる頃には剣の訓練も取り入れた。
私がしたかったのだ。いいだろ。
いかにお転婆姫とあろうとも、城の兵士の訓練に混ざることができず、できるのは刃の部分が半分になった木の剣を振り回すことくらいだ。
で、似た体格の相手を得たのだ、打ち合いとかしたいじゃないか。
とは言っても、さすがに私が本気で攻撃して怪我をさせるわけにもいかないので、まだリドテックのがむしゃらな攻撃を受けるくらいしかできない。
(早く頑丈な男に育ってもらいたいものだ)
それから侍女が回復魔法が使えると聞いて、少しくらいの無茶はできるとわかり、徐々に訓練を厳しくしていった。時には涙し(弟が)、気絶し(弟が)、漏らしたこともあった(弟が)。
それでもリドテックは耐えて私に付き合った。
1年に及ぶ訓練の日々、唐突にそれは起こった。
「もういやだ!もう姉さんとしゅぎょうしない!!」
と、叫び、弟は号泣した。
どうやら他所の貴族の子と友達になったおり、自分が受けているような訓練は受けてないと知ったようだ。他を知らないから耐えられただけだったのか。
「そうか。ならばこれまでにしよう。お疲れさん」
私はそう言って軽くリドテックの肩を叩く。
泣き止み、目を丸くしていた。
何か変なことでも言ったか?
それにしてもやはり幼児に訓練は早かったか。父母も笑って観ていたし、問題ないと思っていた。
限界が来てからが本番と、体力が尽きてもケツを叩いて走らせたことがよくなかったか。
握力がなくなってからも木剣を持った手を布で固定させて振らせたのが原因か。
なんちゃって帝王学は聞き流していたようだからこれは問題ないだろう。
(ああそうか)
私はあることに気づいた。
そうだ、鞭ばかりで飴を用意していなかった。
思えば言葉で褒めてもいなかった気がしないでもない。
理由がわかり厨房へと向かう。
いかに料理スキルが皆無と言ってもある程度のことは知っている。
戸惑う料理人達を無視し、厨房で素材を探す。
卵、小麦粉、牛乳、砂糖。っぽいものを見つけ、それらを適量、木製のボウルにぶち込んでスプーンで混ぜ、脂を引いた熱したフライパンに流し込む。俗に言うホットケーキやパンケーキになるはずだ。多分。
(おかしい)
フライ返しのような木製のへらでひっくり返す。焦げてはいない。へらっぽいものは焦げたが。
私の知るホットケーキはもっと膨らんだはずだが、これはやけに平たい。
仕方ないので複数枚重ねることで誤魔化す。
ただ、残念なことにハチミツやメープルシロップはなく、やや物足りないものになってしまった。
砂糖を大量にぶち込んでいるので、甘みは問題ないだろう。
(誰かホットケーキミックスを開発してくれないかな)
さすがの私でもあれがあればまともなものができる。
試食しようとしたとき、リドテックがやってきた。
「ごめんなさい」
母にでも仕向けられたのだろうか、頭を下げてきた。
「自分が悪いと思っていないのならば、謝る必要はないぞ。まぁ、姉である私ならばいいが、敵対する者には付け入る隙を与えるものじゃない」
軽く頭を撫で、忠告してやる。
やれ賠償だなんだと平気でむしり取る連中がいるからな。怖いもんだ。
ホットケーキもどきを食べさせると弟は喜んでいた。まぁ、不味くはなかったが物足りない。
後日、料理人達の手により、より出来のいいホットケーキが作られていた。何よりハチミツっぽいものがかけられていた。
(解せぬ。美味しいけど解せぬ)