王女、魔法を使う
他の血が混じると種族特性が薄れるらしく、天使の翼は魔力で動かすもので、魔力がない彼女は飛べないそうだ。因みに、彼女の血には人魚とエルフと竜人の血が入ってるらしい。どうやら極端なキメラにはならないようだ。
魔法は必要だ。
転生したからには女神が仕組んだバトルロワイアルが必ず起こる。拒否やリタイアや逃亡ができるならそうするが、無抵抗に殺される気はない。そのためには力が必要だ。特にまともなチート能力を持たない私は。
それなりの筋トレはしているが、女子の体だ、どれだけ鍛えても筋肉で戦うことは無理だろう。それ以前に戦うために集められた連中に与えられるチート能力だ……抵抗するだけ無駄な気がしてきた。
わからないものに悩んでも仕方ない。いざそういう場面で、自分ができる行動の選択を増やすのは悪いことではない。
(防御や煙幕に使える魔法は欲しい)
自室でぼんやりとしていると部屋の掃除のために侍女がやってくる。彼女達は談笑しながら手の平から水の球体を生み出すと桶に流し込んだ。
(むっちゃ自然に魔法使いやがった)
よくある詠唱なんてしなかった。基礎中の基礎の魔法だからか、もしくは何かしらの道具を使っているのか。もしかしたら、ちょっと集中するだけで使えるんじゃないのか?
(水よ出ろ。水よ出ろ。水よ出ろ)
念じながら手の平に見つめると小さな水の球体が生まれ出た。
(できたああああ)
感動。これは感動する。
それにしても盲点だった。こんな簡単とは。そりゃ前世で何度となくやってできなかったことなんだ、できるとは思わないだろう。
「姫様!何をなさっているのですか!!」
いきなり叫ばれて驚き、その拍子に浮いていた水の球が手の平に落ちて消えた。
濡れるものと思っていたから首を傾げる。
「まだ魔力も安定しない時期に魔法を使うなど、暴走して大変なことになることもあるのですよ!」
「一体、誰に教わったのですか全くもう!」
二人の侍女が説教をしながら私の体をペタペタと触ってくる。
暴走するとかあるのか。いやいや、そういうのを記述しろよ、魔導書。
「何を騒いでいるの?」
騒ぎに駆け付けたのは弟を抱いた母だった。侍女から話を聞くと、母は小さく笑っていた。
「大丈夫よ、メルディアナは魔力が小さいから暴走しても大したことないわ」
はい?魔力が小さい?ちょっといみがわからない。
絶望に打ちひしがれて母を見つめる。
「水の球体を生み出したのでしょう?それで魔力尽きているのだもの」
言われて気づく。試しにもう一度念じても水は出なかった。
「この歳で魔法を使えるなんて偉いわ」
そう言って母は頭を撫でるが、更に私を絶望に落とす一言を投げつけた。それはもう、全力で殺しにかかってくる勢いの言葉だった。
「魔力量って成長しても増えないから、使い道ないと思うけど」