王女、産まれる
目が覚めた。
周りがやけに煩い。
体が動かない。
意識があるため、どうやら死に損なったのは理解した。
しくじったのだろうか。
あの女神の思惑に乗りたくなかったので不興を買って消滅される。冒頭で真っ先に消される噛ませ役になろうとしたのだが。
瞼が開かないのでぼんやりとそんなことを考えていたら……
パシッ
尻を叩かれた。
そしてようやく瞼が開き、睨みながら周囲を……見渡せなかったから目に入った女を睨んだ。やつれていたが美人なのだろう。その女が気絶し、周囲にいた男女が騒ぎ始めた。
(なんなんだ)
わけがわからなかった。
この日、金髪碧眼の王女が産まれた。右手に小さな金の塊を手に、産声を上げずに産まれた。
自分が赤ん坊であることを認めるのに時間がかかった。
さすがに何もできずにお漏らしをすれば嫌でも理解する。
もう記憶を失いたい。お漏らしプレイを楽しめる性癖は持ってない。
異世界転生をしてしまったのだが、チート能力はどうなったのだろうか。
早々にリタイアしようとしたのだからないのかも知れないが、転生したのなら欲しかった。
むしろこの痴態に耐えるだけの報酬をくれ。
というか数年後とかに意識を飛ばしてくれ。
現実逃避をしながらぼんやりと天井を睨む。
赤ん坊とは暇すぎるんだ。
異世界転生で赤ん坊からやり直している主人公達のメンタルは化け物だな。
こっちは発狂しそうだ。
あれからどれくらい経っただろうか。
ようやく周囲を見ることができ、状況が徐々にわかるようになった。
無駄に広い部屋にぽつんとあるベビーベッド。私の世話をする乳母役の高齢の使用人が一人。
私の手元にあるガラガラ……木製の円筒の中に鈴が入った物が一つ。
このガラガラは私をあやすために用意された。
このガラガラを一度振ると空腹、二度振ると尿意、そして便意は一心不乱に振って合図に使った。
「メルディアナ様は天才ですな」
私の名前らしい。全く馴染めない名前で違和感しかない。
おしめの替えのいらない赤ん坊などそら天才児だろう、そうだろう。
それでも他人に下の世話をされる恥辱は変わらない。
早く大きくなりたい。
手間のかからない赤子だからか、それを奇っ怪に思ったのか、私はまだ両親とやらに出会っていない。ああいや、母親にはあっているようだ。産まれたときに。
だからまだ母乳というのを味わってない。とんだ罰ゲームだ。
生まれ変わってから人口物と思われる乳しか口にしてない。ああいや、もしかしたらどこかで搾ってきた可能性もあるが。
「メルディアナ様が王位を継がれましたら、このお国も安泰でございます。ばあやが健在の内にそのお姿を見たいものです」
乳母、ばあやは私が呼ぶまでは基本居眠りをし、起きていると勝手なことを語りだす。
(王位って基本男が継ぐもんじゃないのか)
どうやら私は王族であり、第一子らしい。
王族とかたまったものではない。
一人っ子ならともかく、今後、男子を産ませたり養子に取ったりして政略結婚で嫁に出され、王位継承問題のいざこざに巻き込まれて面倒くさい展開になるに違いない。
(早急に家出せねば)
決意を胸にする。