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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-03『BLACK EXECUTER』
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第一章:戸惑い、揺れ動く紅蓮の乙女/07

「誰……?」

「っ、また貴女ですか……!?」

「セイレーン、アンタとの決着は後回しよ! 今はバンディットを撃滅するのが最優先……全部アタシが平らげる! だからアンタたち二人とも、引っ込んでなさい!」

「そんな無茶苦茶が通る道理が!」

「道理を無理で押し通す! アタシの邪魔をするようなら……セイレーン! アンタごと倒すまでのことよ!」

 現れた三人目の神姫、ガーネット・フェニックス。

 唐突に現れた乱入者に……相手が友人のセラフィナ・マックスウェルであることも知らぬままに狼狽えるアンジェの傍ら、グラスホッパーと剣を交える遥と、そして乱入してきたセラはお互いに荒い語気での問答を繰り返していて。そんな二人の様子を見ながら、アンジェはさっきまでの気迫が嘘のような戸惑い顔で「どういうこと……?」といがみ合う二人を眺めていた。

「……彼女はガーネット・フェニックス、私たちと同じ神姫です」

 そうしてアンジェが戸惑っていると、一旦グラスホッパーから大きく距離を取り、彼女のすぐ傍まで飛び退いてきた遥が小さくアンジェに耳打ちをする。

「ガーネット・フェニックス……? 確か、僕とカイトが襲われた時にも……」

「ええ、あの場にも現れました」

 遥は傍らで戸惑うアンジェに頷きつつ、片手間にフォームチェンジ。左腕を紫色の神姫装甲に、左眼も紫色に変色させ……更に左前髪にも同色のメッシュが入った姿、ブレイズフォームへと姿を変える。

「ですが……以前、私は彼女に襲われています」

 そうしながら、遥は更にアンジェへとそう囁いた。

「襲われた、って……!?」

「ええ。……理由は分かりません。ですが、あの方が私を快く思っていないことは事実。そして、きっと……アンジェさんのことも」

「僕の、ことも……?」

 というか、そうであるとしか思えない。

 でなければ、アンジェが確実にトータスを仕留められたあのタイミングで乱入する意味が分からない。きっと何か深い事情があるのだろうが……理由が何にしても、彼女がアンジェを妨害したことは事実だ。

 そして、以前に遥が襲われたこともまた事実。

 だからこそ、遥はセラに対して……相手がセラであることを知らぬまま、警戒心を抱いていたのだ。

 勿論、完全な悪人だとは思っていない。寧ろ凄まじい事情を抱えて戦っているが故に、自分たちにああした態度を取るのだということも……理由は知らないにしろ、ある程度は察して理解しているつもりだ。

 が、それとこれとは話が別。向こうがこっちに敵意を向け、そして襲ってくるのであるというのなら……アンジェにまで手を出そうというのなら、流石に遥も黙って見過ごすワケにはいかない。

 だからこその警戒心、だからこそのフォームチェンジ。そして……だからこそ、遥はグラスホッパーとの戦闘を中断し、アンジェの傍まで飛び退いて彼女と合流したのだ。イザとなった時は、自分がアンジェを守らねばと思って。

(アンジェさんにもしものことがあったら……それこそ、戒斗さんに顔向けできませんから)

「……相変わらず、貴女は穏やかじゃありませんね」

 内心でそう思いつつ、遥は虚空から召喚した聖槍ブレイズ・ランスを左手に握り締め、その切っ先をセラの方に向けながら……彼女にしては強めの語気で言う。

 すると、彼女は――――基本形態のガーネットフォームで現れた彼女は、右手に携えていたレヴァー・アクション式のショットガンをクルクルと回しつつ。自分をジッと睨み付ける二体のバンディットと、そして遥とを交互に見つつ……どこか苛立ったような口調でこう言った。

「セイレーン、アンタを今すぐに張り倒して洗いざらい吐かせたい気持ちはあるわ。でも……今はバンディットの撃滅が最優先。この二匹をアタシが平らげた後で、じっくり話を聞かせて貰うわ」

「……協力して戦う、ということは望めませんか」

「ハッ! 何寝言言ってんのよ。アタシとアンタが協力? 冗談キツいわ。アンタはそこで見てればいいの。そこの……ミラージュと一緒にね」

 …………ミラージュ。

 そう呟いた時のセラは、チラリとアンジェを一瞬だけ横目に見ながら呟いた時の彼女は、その一瞬だけ何故か哀しそうな顔をしていて。そんなセラの様子を遥は見逃さなかったが……しかし互いに正体を知らぬが故、セラが複雑な思いをアンジェに対して抱いている理由も分からず。どういうことかと疑問に思いながらも、敢えて気にしないでいた。

「ね、ねえ……ガーネット・フェニックスだっけ? 僕たちと協力しようよ……! 神姫同士がいがみ合う意味なんて、何処にも……!!」

 遥がそう思う傍ら、アンジェが戸惑いながらもセラに呼び掛ける。

 すると、セラは「……そうね、確かに神姫同士がいがみ合う理由なんて、何処にも無いわ」と小さく呟き。それにアンジェが「なら……!」と反応を示すと、

「…………でも、それとこれとは話が別よ。全てのバンディットはアタシが倒す。これは……アタシが決めたこと。もうこれ以上、誰にも悲しみを背負わせたくない。だから、アタシは…………!!」

 俯きながらセラは言って、キッと目付きを鋭くし。そうすれば――――。

「手出し無用! アタシが全部倒してやる!」

 今が好機と飛びかかってきた、グラスホッパーの飛び蹴りを大きく横っ飛びすることで回避しつつ。セラは二人に向かって叫びながら……くるりと空中で身体を捻って一回転。棒立ちしていたトータスの真後ろにストンと着地すると、その背中目掛けて右手のショットガンを突き付ける。

 ――――銃口に、迸る稲妻を纏わせて。

「まず、これで一匹よ」

 銃口が睨み付けるのは、先程アンジェがスカーレット・フィストで穿った甲羅の風穴。周りに亀裂の走るそこへ銃口を突き付け……セラは冷え切った瞳でトータスの背中を見つめながら、右の人差し指で静かにショットガンの引鉄を引き絞った。

 瞬間――――散弾の撃発音とともに、銃口から迸った稲妻の雷鳴が唸り、強烈な稲光が瞬く。

 …………雷撃を纏わせた散弾での、零距離からの一撃。

 こんなものを、砕けた甲羅の奥……即ち脆い部分に喰らってしまったのだ。直撃を受けたトータスはセラの散弾で体組織をぐちゃぐちゃに引き裂かれ、致命傷を負い。絶命の唸り声を上げる暇もなく……深紅の焔に包まれて。一瞬の内に燃え尽きたトータスの大柄な図体は、そのまま灰となって風の中に吹き消えていく。

 ――――『ノゥ・マーシィ』。

 神姫ガーネット・フェニックス、ガーネットフォームの必殺技のひとつだ。

 零距離で突き付けたショットガンから、雷撃を纏わせた散弾を放ち標的を一撃の内に葬り去る。まさに今見た通りだ。最早処刑と呼ぶべきその一撃には……文字通り、慈悲はない(ノゥ・マーシィ)

「……さて、次にいきましょうか」

 バンディットを一体仕留めた後でも、セラは冷えた表情を崩すことなく。金色の双眸から注ぐ氷の視線でもう一体のバンディット、グラスホッパーを射貫きつつ……右手のショットガンを、再装填のためにくるりと大きく一回転させてみせた。

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