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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-03『BLACK EXECUTER』
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第一章:戸惑い、揺れ動く紅蓮の乙女/02

 ――――ある平日の、何でもない夕刻頃。

 茜色に染まる夕焼け空を店の窓越しに眺めながら、戒斗とアンジェ、そして居候の間宮(まみや)(はるか)の三人は、例によって戒斗の実家である純喫茶『ノワール・エンフォーサー』を手伝っていた。

 今日も今日とて店は結構な賑わいを見せている。さっきまで店には大勢で押し掛けて来て、戒斗が居る時だけ提供される裏メニュー、焼きそばドカ盛りスタミナメニューな『戒斗スペシャル』を美味そうに食べていた近所の学生連中が居たのだが。しかし今はもう退店していて、店の中は少しばかりの落ち着きを取り戻しているような……今は、そんな状況だった。

「あの()は……」

 そうして戒斗が店を手伝っている傍ら、ふとした折に店の外にある駐車場を見てみると。するとそこに一台のドデカいクルーザー・バイク、真っ赤な二〇一五年式のホンダ・ゴールドウィングF6Cが停まるのが見えた。

 見慣れないバイクだな、と何気なく駐車場の方を眺める戒斗が思っていれば、バイクを跨がっていた長身の乙女が、被っていた赤いジェット型のヘルメットを外す。

 ……すると、その下から現れたのは戒斗も見知ったセラの顔だったのだ。

 だから、戒斗は驚いていた。まさかセラがあんなゴツいバイクで、しかも一人で店に現れるなんて予想すらしていなかったことだ。

 前に何度かアンジェに連れられて店に来たことはあったが……しかし、独りでフラッとやって来るなんてことは、戒斗の記憶にある限りだと今日が初めてのはず。

 故に戒斗はポカンと間抜けに口を開けて、突然のセラの登場に唖然としていたのだった。

「あっ、セラ! 来てくれたんだー!!」

「……アンジェ」

 そんな風に戒斗が驚いていると、バイクを降りたセラはいつしか店の戸を潜っていて。カランコロンと来客を告げるベルを鳴らしながら彼女が現れると、するとセラの顔を見たアンジェが嬉しそうな顔で彼女を出迎える。

 出迎えられたセラは何故か、少し憂鬱そうな顔でアンジェを見る。

 だが、アンジェは僅かに憂鬱そうな彼女の面持ちに気付かぬまま。アンジェはセラをカウンター席に通すと手早く注文を取り、その後で少しだけセラと談笑をして……そうしてから、店の奥に引っ込んでいく。

 そんな風にアンジェが奥に引っ込んでいくのと入れ違いで、戒斗は彼女の対面に立ち。そうすれば、カウンター越しにセラと言葉を交わし始めた。

「よう」

「あら……戒斗、アンタも居たのね」

「まあな。遥も居るが、呼ぶか?」

「いいわよ、そこまでしなくても」

「それにしても、驚いたよ。まさか君がバイクに乗るなんてな。しかもあんなにゴツい奴に」

「意外だった?」

「かなり、な。趣味なのか?」

「そんなようなものね。趣味と実益を兼ねた……ってトコかしら?」

「生憎と俺はバイクの免許は持ってなくてな。だからそこまで造詣(ぞうけい)は深くないんだが……中々に良い趣味してるじゃないか、セラ」

「ふふっ、それはどうも」

 そんな風に戒斗がセラと二人で話していれば、接客を終えてカウンターの方に戻ってきた遥も「セラさん、いらっしゃいませ。お二人とも楽しそうに何の話をしていらっしゃるんですか?」と言って二人の話に混ざってきた。

「ああ、セラがバイクでウチに来たからさ」

「そうですか! それで……ええと、どれですか?」

「アレよアレ、そこに置いてある赤のF6C」

「……セラさんらしいって感じがしますね。ええ、私も良いと思います」

「遥のは店の表に置いてあるカワサキでしょう? アンタもアンタで結構な趣味してんじゃないの」

「ふふっ、ありがとうございます。今度、機会があれば私とツーリングに行きませんか?」

「へえ? 良いじゃない、乗ったわ」

 とまあこんな具合に戒斗とセラ、そして混ざってきた遥も一緒になって話していれば。すると今度はアンジェが……セラが注文した珈琲とサンドイッチを彼女の前に出しつつ、「三人で何話してるのー?」と首を突っ込んでくるではないか。

「まあ、ちょっとね。……っていうかアンジェ、それに戒斗と遥も。アタシにばっか構ってて良いの? まだ仕事あるんでしょうに」

「あはは、まあ今はお店も結構暇だからねー。これぐらいの余裕はあると思うよ?」

「……まあ、アンタらがそれで良いのなら、別に良いんだけれど」

 そんな風にアンジェも混ざり、結果的にセラを囲む形で四人は他愛のない話に華を咲かせ始める。

「…………」

(セラさん……どうかされたのでしょうか)

(この間からセラ、たまに辛そうな顔するけど……やっぱり何かあったのかな)

 遥もアンジェも、時折セラが見せる憂鬱そうな色に気付きつつも……しかし楽しく言葉を交わしている中、敢えてそこに踏み込むことはしないまま。今はただ、四人で他愛のない話に花を咲かせていた。

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