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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-02『新たなる神姫、深紅の力は無窮の愛が為に』
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第八章:愛しき日々の終わりは突然に/02

 ウィスタリア・エッジ片手に飛びかかっていった遥だったが、しかし状況は三対一。幾ら彼女が優れた神姫であるとしても、この状況は些か不利が過ぎるというもので。マンティスの鎌とビートルの空中攻撃、そしてグラスホッパーがそのしなやかな脚から繰り出す強烈な蹴り技に翻弄され、遥は苦戦を強いられていた。

「くっ……!!」

 マンティスの鎌から繰り出される斬撃をウィスタリア・エッジでいなしつつ、同時に背後から飛びかかってきたビートルの攻撃を飛び退くことで避け。更にグラスホッパーが助走を付けて繰り出してくる、強烈な飛び蹴りを受け流しつつ……隙を見て斬撃を叩き込み、反撃。

 そうした繰り返しで、マンティスやビートルに対しては小さなダメージを蓄積させつつも。やはり遥の劣勢感は否めなかった。

(あの二体への対処は分かっているから、大丈夫としても……問題は、この新しい一体ですね)

 遥が内心で冷静に考える通り、この場で最大の問題はグラスホッパーの存在だ。

 一度取り逃がしてしまったといえ、河川敷での交戦で既に遥はマンティス、ビートルの二体の戦い方の癖や、それに対する効果的な対処法を見出している。数で攻められようとも、この二体に対してはもう何も問題無いのだ。

 だが……問題はグラスホッパーだ。

 奴に関しては今回が初めての交戦であることもあり、どう対処したものか未だに遥は見出せないでいる。

 それでも、生半可なバンディットであれば、遥は例え初見の相手だろうと五分と掛からず斬り伏せてしまえるのだが……しかし、このグラスホッパーの強さは別格だった。

 戦い方自体は、蹴り技を主体としたシンプルな徒手空拳だ。マンティスのように鎌もなければ、ビートルのように空を飛んだりもしない、言ってしまえばシンプルな相手。

 だが、それ故に対処が難しい。加えてグラスホッパーの動きが、それこそ達人の武道家のように洗練されているものだから……一撃一撃が鋭く、そして重い。

 故に遥はここまで苦戦を強いられていたのだ。グラスホッパーの存在がなければ、マンティスとビートルはとうの昔に倒せてしまっている相手だというのに。グラスホッパーという強敵の存在が、遥をジリジリと追い詰めていた。

「私は……負けられない!!」

 マンティスの鎌を受け止めた遥が押し返し、そのままウィスタリア・エッジでの斬撃を三閃連続して叩き込んでいた頃。そんな彼女の方に駆けてくる、一台の大きなクルーザーバイクの姿があった。

「三体ですって……!? それにセイレーン、アイツまで……!!」

 そのクルーザーバイク、真っ赤なゴールドウィングF6Cに跨がっていたセラは三体のバンディットと、そして彼らと交戦する遥……ウィスタリア・セイレーンの姿を見つけるなり、ヘルメットの下で苦い顔を浮かべる。

 ――――本音を言えば、セイレーンにあの時のリベンジマッチを挑みたい。

 だが、今はバンディットを倒すことが最優先だ。見ると、戒斗とアンジェの姿もある。不運なことに、また巻き込まれてしまったのか。何にしても、彼らもバンディットの魔の手から守らねばならない。

 そう思うと、セラは敢えて今は心を殺して割り切って。ゴールドウィングを走らせながら、被るヘルメットの下で静かに表情を変えていた。今までの苦い顔から、神姫としてのシリアスな表情へと。

「四の五の言っていられる状況でもない、か……! 仕方ない!!」

 そうしてセラはバイクに乗ったまま、バイクを走らせたまま……ハンドルを握ったままで、両手の甲に彼女が神姫たる証、赤と黒の『フェニックス・ガントレット』を出現させる。

「重装転身!」

 両手の甲にガントレットが出現すると、セラは一旦ハンドルから離した両手を腰の位置に引き、そして眼前にクロスさせた形で突き出し。クルリと手の甲を見せつけるように手首を回すと……叫びながら、また握り拳を作りながら両手を腰まで引く。

 そうすれば、彼女の身体は閃光に包まれ。一瞬後にはもう、セラフィナ・マックスウェルは赤と黒の神姫、ガーネット・フェニックスの姿へと変わっていた。

「だりゃぁっ!!」

 右手はバイクのハンドルに戻し、左手は虚空からレヴァー・アクション式のショットガンを出現させ。そのショットガンを構えながらセラはバイクを横滑りさせると、今まさに遥に飛びかかろうとしていたビートルの背中をショットガンで撃ち抜く。

 ギャァァッと派手に横滑りしてバイクが停まる中、セラは左手のショットガンをクルリと大きく回して次弾装填。着弾した背中の装甲から火花を散らし、よろめいたビートル目掛けて二発、三発と続けてショットガンの散弾を叩き込んでいく。

「貴女は……!?」

 そうしてショットガンを撃ちまくりながら、バイクから降りたセラ――――神姫ガーネット・フェニックス。一度は刃を交えた彼女の出現に、振り返った遥は眼を見開いて驚いていた。

 すると、セラは左手のショットガンを投げ捨て……今度は右手にショットガン、左手にコンバット・ナイフを虚空から呼び出すと、それを構えながら遥の傍に近寄り。彼女と背中合わせの格好になりながら、驚く遥に向かってこんなことを叫んでいた。

「勘違いしないで! アタシの目的はバンディットを倒すことだけ!! ウィスタリア・セイレーン、アンタと馴れ合うつもりは毛頭ない!!」

「……だとしても、構いません。貴女のご助力、痛み入ります」

「これが終わったら、今度こそアンタと決着を付けてやる。……でも、今は!!」

 今はまだ、勝負はお預け。そこに倒すべき異形が、二人に共通する敵が目の前に居るのだから。

 すぐ傍には戒斗とアンジェ、そして逃げ遅れた人々が居る。神姫として、彼らを守らなければならない。互いのいがみ合いは……二の次だ。

「やるわよ、セイレーン! アタシの脚を引っ張るんじゃないわよ!!」

「貴女こそ!!」

 背中合わせに頷き合い、遥は長槍を振るうブレイズフォームに。そしてセラは重砲撃形態のストライクフォームへとそれぞれフォームチェンジする。

 左腕を紫色の鋭い神姫装甲に包み、そして左眼も紫色に変色させた遥が、虚空より召喚した聖槍ブレイズ・ランスを構え。そして肩に重粒子加速砲、腰に榴弾砲、太腿にミサイルポッド、腕の甲にマシンキャノン、そして両手に大型ガトリング機関砲……全て一対の重火器を携えたセラがどっしりと構える。

 そんな背中合わせの二人と睨み合う、三体のバンディット。

 そして人間武器庫に変わり果てたセラと、長い槍を構えた遥。

 両者は少しの間、じっと睨み合い……そしてセラがガトリング機関砲の掃射を始めたのを切っ掛けに、遥がブレイズ・ランス片手に飛びかかっていくと。二人と三体、神姫と異形。その戦いの火蓋が今一度、切って落とされたのだった。





(第八章『愛しき日々の終わりは突然に』了)

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