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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-02『新たなる神姫、深紅の力は無窮の愛が為に』
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第五章:どうか、この日々がずっと続きますように/10

 そうして二人で服飾店を巡り、二人でお互いを着せ替え人形にし合った後。戒斗とアンジェはまた何気なしにショッピングモールの中をアテもなく歩いていたのだが……ふとした折にアンジェは何かを見つけ、立ち止まっていた。

「ちょっと、寄っても良いかな?」

 そこはモールの中にある、おもちゃ売り場だった。

 いつもより数段輝いた目の色をしながらアンジェに言われ、彼女の意図を何となく察した戒斗は「勿論」と頷き返す。

 すると、アンジェはとてとてと少し早足気味に歩き出し、そのおもちゃ売り場に立ち寄っていった。

「あるかな……もうそろそろ発売日のはずなんだけれど」

 迷うことなく真っ直ぐに彼女が向かった先は……やはりというべきか、特撮玩具の売り場だ。

 さっき映画で観た作品、その最新作が並んでいる一角。丁度出掛ける前、朝起きてすぐ戒斗がアンジェと一緒に眺めていた最新作の変身アイテムが並んでいるコーナーだ。

 アンジェはそんな一角に足を踏み入れると、様々な品々が並んでいる棚を覗き込みながら……何かを探しているようだった。

 そんな彼女の横顔は、まるで子供のようで。ワクワクした顔の彼女を横から眺めていると……なんだか、こっちまで表情が綻んできてしまう。

 とはいえ、戒斗も彼女ほどではないがファンの一人だ。であるが故に、そんな風な彼女の横に並んだ戒斗は、やはり同じように子供みたいな顔で棚を覗き込んでいた。

「まだ一週間ぐらい先だろ? 流石に並んでないって」

「そっか、そうだよね。残念だな……って、んん!?」

 そんな風に二人で話しながら棚を覗き込んでいれば、するとアンジェは隅の方に何かを見つけ。ぎょっと驚き眼を見開いた彼女は途端に血相を変え、見つけたそれに飛びついていく。

「ねえカイト、これ! カイトこれっ!!」

「……マジかよ、まだ在庫あったのか」

 興奮気味のアンジェが手に取って見せてくるのは、言ってしまえば売れ残りの品だった。

 確か……今から五年ほど前の作品、主人公じゃない二人目のヒーロー、いわゆる二号が使っていた変身ツールだ。

 バイクをモチーフとしたそれは、主人公の物より圧倒的に高クオリティで。その玩具としての凄まじい出来の良さから放送当時より大人気で品薄状態、放送終了に伴って生産が終了した今ではもうプレミア価格で取引されている、そんな物をアンジェは興奮気味に戒斗に見せてきていた。

 どうやら売れ残りらしいそれは、プレミア価格どころか……五年前の放送当時そのままの定価だ。

 新品未開封なら当然プレミア価格、開封済みの中古でも状態次第ではそこそこの値段で取引されているコイツの新品が……まさか定価で売られているとは。この機会を逃せば、二度と巡り逢えないぐらいの掘り出し物だ。アンジェがらしく(・・・)ないほどに興奮しているのも、さもありなんという奴だった。

「か、買ってくる……!」

 とすれば、鼻息を荒くしたアンジェはそう言うと、早足でさっさとレジに駆け込んで行ってしまう。

 そういえば……前からアンジェもアレを欲しがっていたっけ。

「やれやれだ……」

 早足でレジに向かうアンジェの背中を見送りつつ、戒斗は小さく肩を揺らし。そうするとまた、傍にある棚に視線を戻した。

「折角だし、俺も何か買ってくか……」

 アンジェが連れて来てくれなければ、何だかんだとこういう場所に赴く機会も少ない。折角なら何か買って帰るべきか。

 そう思い、戒斗は独りで改めて棚を物色し……ふと目に付いた物を手に取った。

「あったあった、前から気にはなってたんだよな……」

 それはアンジェがレジに持っていった物とは違い、現在放送中の……つまり今朝観た現行番組の変身アイテムだった。

 こちらも二号ヒーローの代物。青いハンドガン型のイカしたソイツのパッケージを手に取ると、戒斗はそれを片手にアンジェの後を追い、一緒にレジの待機列に並んだ。

「えへへ……嬉しいな、まさかこんなところで掘り出し物に出逢えるなんて」

 そうして、二人でそれぞれ会計を済ませ。おもちゃ売り場を出て二人で歩く中、アンジェは今まさに買ったばかりの物が入ったレジ袋を大事そうに抱えながら……至極嬉しそうな顔で微笑んでいた。

「良かったじゃないか」

 戒斗も戒斗で、服の入った紙袋と一緒に今おもちゃ売り場で手に入れたレジ袋を抱えつつ、隣を歩くアンジェに言う。

「運が良かったねー」

 すると、アンジェも彼の顔を小さく見上げながら微笑む。

「この後はどうする?」

 そんな彼女の微笑みを見ながら、戒斗は何気ない調子で問うてみた。流石にアテもなくモールをぶらぶらするのも限界だ。ここいらで別の目的地というか、何か行き先が欲しいところ。

 すると、アンジェはうーんと思い悩むように唸った後。チラリと横目で戒斗の方を見上げながら、こんな提案を彼に投げ掛けていた。

「――――だったら、少しお散歩しない?」





(第五章『どうか、この日々がずっと続きますように』了)

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