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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-02『新たなる神姫、深紅の力は無窮の愛が為に』
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第五章:どうか、この日々がずっと続きますように/07

 そうして昼食を摂った後、二人はまた何処へ行くでもなくショッピングモールの中をぶらぶらと歩き回っていた。

 まず向かった先は、フードコートから割と近くの……同じ三階フロアにあったモール内のゲームセンター。このテの場所は往々にしてオマケ程度なしょぼいゲームセンターなのが常だが、このモールのは意外と良い筐体を取り揃えている。

「とっ……取れねえ……!!」

「あはは、カイトってほんとにUFOキャッチャー下手だよね」

「俺は! 苦手なんだ! こういうのが!!」

「仕方ないな……ちょっと貸して、僕が取ってあげるから」

「お、おう……」

「このパターンはね、これをこうして引っ掛けて……はい、取れた!」

「すげえ、一発かよ……」

「もっと褒めてくれても良いんだよ? ……っと、じゃあカイト、これあげるね?」

「悪いな……っていうかこれ普通、立場逆だろ?」

「今更じゃない?」

「……今更だな」

 そんなゲームセンターに入った二人、まずは定番も定番のUFOキャッチャーに興じた。

 ……まあ、戒斗がイルカのぬいぐるみを取れなくて四苦八苦しているところを、アンジェがたったワンコインで見事に取ってみせたのだが。戒斗の言う通り、このテの展開だと普通立場が男女逆な気もするのだが。まあ……この方がこの二人らしいか。

「アンジェ、次アレやろうぜ」

「ん? ……あー、カイトが毎回僕にボロ負けする奴」

「仮にも免許持ちの俺が通算十五連敗ってのは納得いかねえからな……」

「正確には十七連敗だよ?」

「細かいコトは気にするな! ……さあて、今日こそ俺が勝つぞ」

「ふふっ、お手柔らかにね?」

 そうしてUFOキャッチャーで遊んだ後、次に二人が目を付けたのはレースゲームの筐体だ。

 ――――『レーシングギア4』。

 最早シミュレータレベルの物理演算と機能がウリの、頭のおかしいアーケードゲームとしてその筋じゃあ有名なレースゲーム筐体だ。

 どの辺が頭のおかしいかっていうと……その異様なまでのリアルさと凝りっぷりだろうか。

 まずロールケージ風のバーで囲まれた筐体の中には、レカロ製かブリッド製かって感じのしっかりしたフルバケットシートが鎮座している。流石にアーケード用だけあって腰が痛くなりそうなプラスチック製の物だが、形そのものは割にしっかりしているのだ。

 …………まあ、バケットシートだけなら他のレースゲーム筐体でも見かける。『レーシングギア4』の頭のおかしさはこれからが本番だ。

 何せこの筐体、クラッチペダルが付いている。

 ……そう、クラッチペダルだ。アクセルとブレーキの横、一番左側に三本目のペダルが生えている。

 しかもシフトノブの方はHパターン、即ち普通のマニュアル・ギアボックス車にありがちなシフトパターンを完全再現だ。ご丁寧にサイドブレーキ用のレヴァーまで生えているし、ここまで実車に即した装備のアーケード筐体は……なくはないが、しかしこれだけ普及した筐体では他に類を見ない豪華装備だ。

 そんな本気装備に伴う中身のリアルさは、まさに実車の挙動そのまま。完全に素人お断りの玄人仕様は、しかし他に類を見ない意味不明な拘りっぷりが故にディープなファンの心を惹き付けて止まない……『レーシングギア4』とはそういう、本気で頭のおかしいレースゲームの筐体だった。

 そして――――実を言うと戒斗、このゲームでアンジェに現在十七連敗中だ。

 彼が納得いかないのも無理ない話。なにせアンジェは無免許の少女だ。そろそろ運転免許を取得出来る歳ではあるが……まだ持っていない。

 そんな彼女に免許持ち、しかも普段から怪物級の強烈なチューンドカーを乗り回している戒斗が十七連敗だ。チューンドカー乗りの意地に賭けて、この辺りで勝っておきたいところ。

 であるが故に、戒斗は敢えてアンジェに勝負を吹っ掛けていたのだ。

「キー、持ってるよな?」

「多分こうなるかもって予感はしてたからね」

「んじゃあマシーンの方は問題無し……ステージは?」

「いつも通り筑波でいいよ。君が一番得意だもんねー?」

「……負けても知らねえからな?」

「負けないよ、今日で僕の十八連勝さ」

 二人で隣同士の筐体に座り、不敵に笑むアンジェに小さく肩を揺らしつつ。戒斗は彼女と一緒に筐体へ百円硬貨を突っ込むと、その後で車のキーのような物を筐体に差し込んだ。

 プレイデータを保存しておける、要はメモリーカードのようなものだ。このキーの中に戒斗とアンジェ、それぞれが乗り慣れたマシーンのデータが入っている。

「今日こそは……!」

 戒斗の方は……まあ案の定というか、Z33型の日産・フェアレディZだ。外見も中身の仕様も全く同じで、普段乗っている実車と違う点といえば、オートマチックではなく六速マニュアル仕様という点。戒斗はマニュアル車があまり好きではないというだけで、一応ちゃんと乗れるのだ。免許の方もちゃんと後から限定解除してある。

「今日も僕の勝ち、そうだよね?」

 で、かくいうアンジェの方はというと――――ある意味で意外、そしてある意味で彼女らしいチョイスだった。

 …………一九七一年式、プリマス・GTX。

 漆黒のボディに、フロントフェンダーからボンネットを横切る形でグレーのストライプが二本入った……つまりはゴリゴリのアメ車だ。

 本人曰く格好良いからというだけで選んだらしいが、にしたってセンスが渋すぎるにも程がある。普段から有紀のC3コルベットを見せられているから、自然とアメ車が刷り込まれたのか……。

 中身はクライスラー製の排気量四二六キュービックインチ(七リッター)のV8HEMI(ヘミ)エンジン……あのダッジ・チャージャーと同じ、アメリカンの極みなゴリゴリマッチョのエンジンを積んだモデルをベースに、更にスーパーチャージャー搭載などのチューニングを重ね……極めつけがNOs、ナイトラス・オキサイド・システムの搭載だ。

 これは外部タンクという形で搭載した亜酸化窒素、いわゆる笑気ガスをエンジン内に噴射し……一時的な出力上昇を図る、言ってしまえば外部ソース式のパワーアップだ。お手軽なパワーアップだけに海外ではポピュラーなカスタムだが、日本ではイマイチ流行らない奴。それをアンジェのGTXは搭載していた。

 言ってしまえば、ただのボディビルダーが無敵のアーノルド・シュワルツェネッガーに進化したようなものだ。そういった方面に疎いアンジェを助ける気持ちで、あれこれとカスタム内容のアドバイスをしてきたのを……今になって戒斗が激しく後悔しているぐらいに、アンジェのそれは凄まじい筋肉質なモンスター・マシーンに変わり果てていた。

 ――――閑話休題。

 そんな凄まじいマシーンを駆るアンジェに十七連敗の雪辱を果たすべく、戒斗が選んだステージは筑波サーキット……茨城県に実在するサーキットだ。多少狭いサーキットではあるが、戒斗が最も得意とするステージ。そこで彼女に勝負を挑もうというワケだ。

 アンジェのGTXは確かに化け物にも程があるが、しかしこちらのZ33だって負けてはいない。何せこっちはリアルで熟成を重ねに重ねてきた珠玉のスーパー・マシーンだ。例え相手がシュワルツェネッガーみたいなゴリゴリマッチョの化け物じみたマッスルカーだとしても、ある程度の勝ち目はある……!

「さあ、掛かっておいでよカイト」

「言われなくても、だ……!」

 やがて仮想空間上にZ33とプリマス・GTX、二台のモンスター・マシーンが現れ。赤色でカウントダウンが刻むシグナルが青になった瞬間……双方とも、手加減抜きのフルスロットルで駆け出していく。

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