表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-02『新たなる神姫、深紅の力は無窮の愛が為に』
63/374

第五章:どうか、この日々がずっと続きますように/05

『お前たちの歴史って、醜くないか?』

『俺たちが歴史を一から舗装し直す』

『未来を……取り戻す!!』

『――――祝福せよ! まさに再誕の(とき)である!!』

『さあて! お楽しみは……これからだ!!』

 そうして始まった映画はといえば……案の定というか、つい数時間前に観ていた特撮ヒーロー番組の劇場版作品だった。

 今更言うまでも無いだろうが、これをチョイスしたのはアンジェのリクエストだ。彼女がまだ観ていなかったということで、今日は公開終了間近のこれを観に来たのだった。戒斗も戒斗で最近は忙しく、何だかんだと観られていなかったから丁度いい。

 内容の方は、何十周年だかのアニバーサリー作品の最終章みたいな感じだ。これまでの総決算ではないが、過去作の主人公たちも続々出てきて……何というか、大真面目にどう表現して良いか分からなくなるような、そんな作品だ。

 一応は子供向けの特撮番組だから、ギリギリその(てい)は装っているが。しかし……予告の時点から大体察してはいたが、完全に長くシリーズを追っているディープなファン向けの作風だ。濃いファンほどイチイチ刺さるというか、かなりヤバい作品であることは間違いない。

 まあ幸いにして、戒斗もアンジェもその濃いファンの一人だ。二人とも最初からリアルタイムでテレビ本放送を観ていた世代だが……アンジェに至っては全シリーズ全て履修済みという濃さ。だからなのか、作品の刺さり具合は戒斗よりも彼女の方がかなり深いようだった。

「わあ……!!」

 …………とまあ、隣でアンジェはこんな具合に目をきらきらさせながらスクリーンに釘付けになっている。

 というか、所々涙ぐんですらいた。

 まあその辺は戒斗も分かるというか……人のことを言えないというか。お互い長くシリーズを追い掛けて来ただけあって、その積み重ねがあるからどうしてもグッとくるところは多い。シリーズの総決算、締め括りとして……これ以上なくベストな作品だろう。

「……ん」

 そうして二人で映画に夢中になっていると、戒斗の左腕とアンジェの右腕、座席の肘掛けに乗せていた二人の腕同士が不意に触れ合う。

 戒斗は気が付いたが、しかし映画に釘付けなアンジェの方は大して気にしておらず。すると彼女はそのまま……傍にあった戒斗の左手を何気なく握り締めてきた。

「……っ!?」

 長く華奢な真っ白い指が絡みつき、彼女のひんやりとした……自分より低い体温が手のひらと、そして絡む指先から伝わってくる。

 アンジェからしてみれば、きっと何気ない行動だったのだろう。映画への興奮のあまり、半ば無意識に手を握ってしまったとか、そんな感じの。

 とはいえ……勢いの暴力のような映画を前にして、まだ理性を保っている戒斗は彼女の手が絡まってきた瞬間、思わずドキリとしてしまい。知らず知らずの内にチラリとアンジェの方に横目の視線をやるぐらいには意識してしまっていた。

「わあ……っ!!」

 が、当のアンジェの方はスクリーンから一切目を離していなくて。その横顔は子供のように目をきらきらと輝かせていて……今なんか展開が展開だけに、軽く涙ぐんでいるぐらいだ。

 気持ちは分かる、気持ちは痛いほどに分かるが……戒斗の側からしてみれば、それどころではない。

 ――――戦部戒斗は彼女に、アンジェリーヌ・リュミエールに想いを寄せている。

 まあ、敢えて言うまでもなく分かりきっていることではあるが。そうであるからこそ、戒斗はこうも過剰な反応を示していたのだ。表面上こそ……一切意味が無くても鉄壁のポーカー・フェイスを装えていること自体、半ば奇跡に等しい。

(……まあ、いいか)

 そんな風に戒斗が一人でドギマギしている中、手を握ってきた張本人のアンジェは映画に釘付けで。途中で何度も何度も涙ぐんだりなんかしつつ……映画が終わるまでずっと、彼女は無意識に戒斗と手を繋いだままだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ