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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-02『新たなる神姫、深紅の力は無窮の愛が為に』
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第五章:どうか、この日々がずっと続きますように/04

 しとしとと小雨の降りしきる中、戒斗とアンジェが向かった先は家から少し離れた場所にある、大きなショッピングモールだった。

 時間にして、車で二十分弱といったところか。道が混んでいれば三十分ぐらい掛かる程度の、それぐらいの距離だ。出来てから日が浅い、真新しいショッピングモール……それが本日の二人の目的地だった。

 今日のお目当ては、そのモールの中に入っている映画館。アンジェのリクエストで、今日の目的はその映画館で映画を観ることだった。

「っと……この辺でいいか」

「あはは……カイト、相変わらず遠くに停めるのが好きだね」

「その方が気兼ねなく停められるからな」

 そして、ショッピングモールの立体駐車場。此処では半ば戒斗の指定席みたいになっている地下一階フロア……他車が二、三台程度しか見受けられない、そんなガラガラの場所に戒斗はZを停めていた。

 この地下一階フロア、厳密に言えば半地下どころか、殆ど一階と言っても差し支えないぐらいには地上に露出している場所だ。名前の上では一応地下一階になっているが……感覚的には殆ど一階と変わらない。

 で、だ。この地下一階、ガラガラなのには相応の理由がある。

 何せこのショッピングモールの立体駐車場、導線の作りがイマイチな関係上、地下一階に入る道順がちょっとどころか、かなりややこしい。その為なのか、どれだけ店が混んでいようと、この地下一階だけはいつだって空いているのだ。戒斗がこの場所を好むのは、その辺りの理由があってのことだった。

「……あれ、どっちだったっけか」

「違うよカイト、映画館はそっちじゃなくてこっちだよ?」

「そうだっけか?」

「そうだよ……ほら、あっちに見えるでしょ?」

「あー……ホントだ」

「もうっ、カイトってばおっちょこちょいだけじゃなくて、方向音痴さんになっちゃったのかな?」

「流石にそれは勘弁してくれ……」

「ふふっ、冗談だよ冗談。ほらカイト、行こっ? 早くしないと映画、始まっちゃうからさっ」

「分かった分かった、分かったって。そう焦らんでもまだまだ時間はあるから」

 四階建てのショッピングモール、その最上階たる四階の……少し奥まった場所に目的の映画館はあった。

 最近の映画館だけあって、此処は設備の整っている現代的な……シネマ・コンプレックス、いわゆるシネコンという奴だ。まあ今時シネコンじゃない映画館を探す方が難しいが……とにかく、戒斗がアンジェに手を引かれながらやって来たのは、そんな綺麗な映画館だった。

「えっと……これで良いのかな。席はどの辺にしようか?」

「っつっても、客が殆ど居ねえな……まあ時期が時期だし当然か」

「まあねー。それでカイト、何処がいい?」

「何処でも……と言いたいところだが、三番スクリーンだろ? 此処はスクリーンの位置が普通よりチョイと高めでな、定番のド真ん中よりも……寧ろ後ろの方が快適に観られるんだ。だからまあ、この辺とかどうだ?」

「あはは……流石にカイト、詳しいね……」

「伊達に通い詰めちゃいないさ」

「じゃあ、この辺にしとく? 後ろから二番目の通路側と、その隣で」

「そうだな、その辺がベストだ」

「大人二人……っと。ええと、お金お金」

 そうして二人で券売機の前に立ち、タッチパネルを指で叩いて映画と時間帯を選び、席の場所も指定し終え。そうしてアンジェがハンドバッグの中から財布を取り出そうとした矢先……。

「いいや、それには及ばない」

 戒斗はそう言うとジーンズの右ポケットに手を突っ込み、そこへ雑に放り込んであった紙幣を何枚か掴み取ると……アンジェが財布を出すより早く、それを券売機に吸い込ませてしまった。

「あっ……そんな、悪いよカイト」

「いつも世話になってるからな、これぐらいはさせてくれよ」

「もう……でも、ありがと」

 それを見て申し訳なさそうな顔をするアンジェだったが、しかしそう言う戒斗に押し切られてしまい。アンジェはやはり申し訳なさそうにしつつも……でも、ちょっぴりだけ嬉しそうでもあった。

 …………その後、無事に券売機でチケットを購入し。後は定番のポップコーンと飲み物を傍の売店で買って、照れくさそうな顔をするアンジェとともに戒斗は劇場の中へと入っていく。

 通されたのは三番スクリーン、指定した席位置は後ろから二番目。確かに戒斗の言う通り、スクリーンの位置が普通より少し高く……階段のような形になっている客席の位置関係から考えると、確かに真ん中だと少し首が痛くなりそうだ。

 実際、座ってみると確かに最後尾近くの方がゆったりと観られる位置のようだった。流石に映画慣れしているというか、何というか……。戒斗の的確すぎる判断に、アンジェは内心驚いていたり。

 ちなみに席の位置関係としては、戒斗が通路側で、その左隣にアンジェが座るといった感じだ。

 公開終了間近の作品だからか、客の数はかなりまばらだ。戒斗たちを含めても……劇場内に見受けられるのは二、三組といった程度。それも全てが最前列付近に集中しているから、戒斗たちの周りには比喩抜きで誰一人として居ない状況だ。

 ――――つまり、暗い劇場の中で彼と二人っきりだということ。

(なんか、まるで二人っきりみたいだな……)

 席に着いたアンジェはそんなことを思い、独りちょっとだけ顔を赤くしていたが。隣で小さく伸びをする戒斗は、やはりそれに気が付いていなかった。

「にしても、アンジェがまだ観てなかったってのは驚きだな」

「あははー、最初は公開初日に観ようかなって思ってたんだけれどね。でも混むかなーと思って、時期ズラしてたんだ。それにカイトと一緒に観たいなとも思ってたし」

「なるほどな」

「そう言うカイトこそ、まだ観てなかったんだっけ? 意外だな、カイトならとっくに観てると思ってたのに」

「俺もアンジェと似たような感じさ。何より混むのは嫌だからな……」

「あはは、確かにね。これぐらい空いてた方が色んな意味で落ち着くよね」

「周りに誰も居ない方が、気楽でいい……」

「隣に僕が居ても?」

「アンジェは別。君は寧ろ居てくれた方が落ち着く」

「……そっか。カイトは僕が傍に居た方が落ち着くのか…………」

「……? 何を今更」

「えへへ……何でもないよ、カイトっ」

 とまあ、そんな風に二人で他愛のない言葉を交わし合っていると。やがて十分か十五分少々の、新作映画の予告編が流れ始め。その後で盗撮禁止だとかどうのこうのだとか、見飽きたにも程がある諸々の注意事項が流れると……やっとこさ、劇場の照明が落とされる。

 スクリーンが落ち、映写機に火が入り。さてさてお待ちかね、ここからが本編の始まりだ。

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