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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-02『新たなる神姫、深紅の力は無窮の愛が為に』
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第三章:神姫二人、激突する刃と刃/03

「ッ……!!」

 迫り来る二本の火線、限界まで加速された重粒子のビーム。

 それに対し、遥はイチかバチかの賭けに出た。

 セラが重粒子加速砲を放った瞬間、彼女もまた聖銃ライトニング・マグナムを構え、再び必殺技『ライトニング・バスター』を……今度もまた拘束の初撃をスッ飛ばしてエネルギーチャージをし、いきなり最大火力の魔弾をブッ放したのだ。

 ――――或いは、相殺し合うかも知れない。

 イチかバチかの賭けではあるが、勝算は決して低くない。だからこそ遥は自身の必殺技『ライトニング・バスター』を放ち、マグナムから撃ち放った魔弾であの重粒子ビームに対抗しようとしたのだ。

 ――――激突。

 加速された重粒子の塊と、未知のエネルギーで構成された魔弾とが真正面からぶつかり合う。

 とすれば……やがて行き場のなくなったエネルギーは暴発し。重粒子ビームと魔弾、双方が打ち消し合うように派手に吹き飛んでしまう。

「くっ……!」

「打ち消すなんて、なんて奴なの……!?」

 結果的に、遥の目論見通りに『ライトニング・バスター』はセラの重粒子ビームを真正面から弾き飛ばしてくれた。

 だが、セラと遥の一撃が互いにぶつかり合った結果……爆発のように激しい余波が巻き起こり。その衝撃をモロに喰らった遥は後ろ向きに吹っ飛んで転倒してしまい、セラの方も……彼女の場合は重装備故に重量があったからなのか、河川敷の地面を抉るようにジリジリと引きずられたみたく後ろに流されていた。

(どうにか隙を作らないと、逃げるに逃げられませんね……)

 吹っ飛び、仰向けに倒れて。高架の底面を仰ぎ見つつ、遥は寝転がった格好のまま内心で冷静に分析する。

 その時間は僅か一秒にも満たない。遥は吹っ飛んでから殆ど即座にといったぐらいの素早さで起き上がると、遠くで仁王立ちをして睨み付けてくるセラに再び鋭い視線を向け直した。

 ――――どうにかして、隙を作らねば。

 この時点でもう、遥はセラを倒す気を失っていた。同じ神姫同士が争い合い、そして互いに滅ぼし合うなんて……究極的に無意味な行為だ。

 だが、それでも降りかかる火の粉は払わねばならない。

 そう思い、遥は今までセラと真正面から戦ってきたのだが……正直言って、彼女の戦闘力の高さは予想外だった。

 最初は、適当にあしらった後で姿を消せばいいと思っていた。

 しかし……どうやら、セラはそうさせてくれるほど甘い相手ではないらしい。

 こうして戦う中で、遥はセラフィナ・マックスウェルの……神姫ガーネット・フェニックスの強さを実感していた。豊富な経験と確かな戦闘センスに裏付けされた彼女の戦い方は、一見すると激情的で豪快過ぎるようにも見えるかも知れないが……しかし、実は理性的で堅実な戦い方なのだ。

 今まで互角に戦い、凌いでこられたのは……ひとえに間宮遥だったからだ。

 記憶を失った今では過去に何があったのかは分からないが、しかし戦闘経験が豊富だったことは何となく遥も分かっている。記憶こそ失っていれど、しかし身体に蓄積された経験は決して消えない。

 そんな豊富な戦闘経験を有した彼女だからこそ、今までセラと互角に渡り合えてこられたのだ。もしこれが他の神姫……居るのかどうかも定かじゃないが、自分以外だったとしたら。間違いなく、既に勝敗は決していたことだろう。神姫ガーネット・フェニックスの圧勝という形で、この勝負は幕を下ろしていたはずだ。

 それほどまでに、セラは優秀な神姫だった。

 実際――――遥がどうにかして逃げるチャンスを掴まねばならないと考え始めるほど、彼女は強かったのだ。精神的に不安定なきらい(・・・)こそ窺えるものの……それでも、強い神姫であることに変わりはない。

 ――――だからこそ。

 だからこそ、遥は本気で勝ちを掴みに行こうと思った。今までは極力傷付けないようにと思っていたのだが……逃げ出す絶好の機会をセラに作らせる為には、もうそんな悠長なことを考えてはいられない。多少の痛い目には遭ってもらう必要がありそうだ…………!!

「ハァァッ……」

 遥は深く呼吸し、自身の内側で強く気を練り始め。右手のセイレーン・ブレス、その下部にあるエレメント・クリスタルを再び光らせつつ……自身の足元、河川敷の地面を右手のライトニング・マグナムで唐突に撃ち抜いた。

「何をっ!?」

 遥が突然取った奇行にセラが驚く中、遥は足元に向かってマグナムを何度も連射し。そうすれば激しい土煙が巻き上がり……一瞬だけだが、茶色の煙幕が彼女の身体を覆い隠した。

 だが、それは一瞬だ。逃げるにはあまりに少なすぎる、一瞬の目眩まし。

 しかし――――今は、これで十分だった。

「……なんてこと」

 驚き、絶句するセラの視界の中。晴れた土煙の中から現れた間宮遥は――――今までのものとは異なる、新たな姿へと変貌を遂げていた。

「…………」

 右腕こそ先程と異なり通常形態、聖剣ウィスタリア・エッジを使っていたセイレーンフォームの時と同じに戻っていて、そして黄色に変色していた右の瞳も元通りのコバルトブルーに戻っていたが。しかし……今度はさっきと逆に、身体の左側が姿を変えていた。

 ――――左腕が、鋭角な神姫装甲に包まれている。

 シルエットこそさっきまでの右腕と、ライトニングフォームの時の右腕と変わらないが。しかしこちらは……全体が紫色を基調とした色合いに変わっている。

 そして、彼女の左眼も同様だ。さっきまで右眼が金色に変わっていたのと同じように……今度は彼女の左眼が、やはり腕の装甲と同じく紫色に変わり果てていた。

 勿論、前髪のメッシュも同様だ。さっき右側に金のメッシュが入っていたように、今は左側に紫のメッシュが入っている。

「手加減は、不要のようですね」

 そんな姿に変わり果てた遥は、バッと左腕を掲げ。そうすれば虚空から……聖剣ウィスタリア・エッジでも聖銃ライトニング・マグナムでもない、第三の武器を召喚した。

 …………槍。

 細長い棒状のそれは、明らかに槍に分類される武器だった。

 ――――聖槍ブレイズ・ランス。

 それが、彼女の左腕が虚空より召喚し掴み取った、第三の武器の名だった。剣でも銃でもない、第三の姿となった神姫ウィスタリア・セイレーンが振るう聖なる槍。それこそが、彼女が握り締めた聖槍ブレイズ・ランスだった。

「ガーネット・フェニックス、確かに貴女は強い。だからこそ……私はその礼に応じます」

 左手で強く握り締めたそれを、両手でクルクルと何度も回転させ。そしてブレイズ・ランスを左脇に抱え、間合いを計るように右手を前に突き出した構えを取りながら……遥は静かな声音で、静かな闘気を秘めた声でセラに、神姫ガーネット・フェニックスに告げる。

 ――――ブレイズフォーム。

 それこそが、遥が変身した第三の姿の名だった。槍を振るい戦場を駆ける、近距離戦特化の第三の形態。それこそが遥がフォームチェンジした今の姿、ブレイズフォームだった。

「くっ……!!」

「さあ――――参りましょう」

 新たな姿にフォームチェンジした遥を前にたじろぐセラに、遥は透き通る声でそう告げて。コバルトブルーの右眼と紫色の左眼で重装備の彼女を鋭く射貫きながら――――深く息をつき、両足で大地を強く踏み締めていた。

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