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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-02『新たなる神姫、深紅の力は無窮の愛が為に』
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第二章:大切なヒトたちの笑顔の為に/05

 コツン、コツンと静かな足音を立てながら、長身の神姫がゆっくりと遥の方に歩いてきている。

 赤と黒のツートンカラーが目立つその神姫は、遥よりもずっと鋭角的なシルエットの神姫装甲を身に纏っていて。左手には巨大なコンバット・ナイフのような武器を、右手には……古いウィンチェスター銃のような、それこそ『ターミネーター2』で見たような、銃身が短く銃床のない大きなレヴァー・アクション式のショットガンを携えていた。

 右手にはショットガン、左手にはナイフ。

 そんな物騒極まりない出で立ちで、その赤と黒の神姫は……真っ赤なツーサイドアップの髪を揺らしながら、その長い脚で一歩ずつ踏み締めるように、ゆっくりと遥の元へと歩み寄ってくる。

「貴女は……!?」

 それは、遥にとっては――――少なくとも記憶を失ってからは初めて目にする、自分以外の神姫だ。

 だからこそ、遥は困惑の視線をコバルトブルーの双眸で目の前の紅蓮の神姫へと向ける。

 …………コツン、と小さな足音を立て、遂に赤と黒の神姫が遥のすぐ目の前に立ち止まる。呆然と立ち尽くす、間宮遥の目の前に。

「アタシ? アタシは……そうね、今は同類同士だもの。ガーネット・フェニックスとでも名乗っておいた方が、お互いに都合がいいんじゃないかしら」

 するとその神姫は、金色の瞳で遥を射貫きながら……自身のことをそう名乗ってみせた。

 ――――神姫ガーネット・フェニックス。

 確かに彼女は、自身のことを遥と同類だと言った。その言葉が確かなら……やはり彼女は、遥と同じ神姫ということになる。

「同類?」

 だが、違うという可能性も否定しきれない。

 そんな思いもあり、遥は戸惑い気味に訊き返していたのだが――――目の前の彼女、ガーネット・フェニックスは余裕の表情で「そう」と頷き肯定し。続けてこんな言葉を目の前の遥へと、神姫ウィスタリア・セイレーンへと投げ掛けてきた。

「私も貴女と同じ、神姫なのよ」

「…………貴女も、神姫」

 ――――これで、ハッキリした。

 目の前に立つ、この真っ赤なツーサイドアップを揺らす長身の乙女。赤と黒の神姫装甲を身に着けた彼女は、やはり遥と同じ神姫なのだ。

「……ウィスタリア・セイレーン」

 そう思えばこそ、遥は半ば無意識の内に名乗り返していた。

 ひょっとしたら、彼女は自分の味方なのかも知れないと。そんな思いがあったからこそ、遥はひとまず目の前の神姫に対しそう名乗り返していたのだ。

「ウィスタリア・セイレーン……良い名前ね」

 名乗り返された彼女、ガーネット・フェニックスはフッと小さく笑むと、そう言って遥の神姫としての名を褒め。その後でこうも続けた。

「じゃあセイレーン、早速アタシと一緒に来て貰うわよ。そして答えてもらう。アンタが何者で、どうして神姫の力を手に入れたのかを」

 ――――それは、出来ない。

 だって、自分が神姫であることは誰にも知られたくないから。戒斗やアンジェが相手ならまだしも……何処の馬の骨とも分からぬ相手に、おいそれと自分の正体を知られたくはないと遥は思った。例え相手が、自分と同じ神姫だとしても。例え相手が……恐らくは同じ使命を背負っているであろう、バンディットを討ち滅ぼす者であるとしても。

「…………お引き取り願うことは、出来なさそうですね」

 故に、遥は鋭い視線を目の前のガーネット・フェニックスに向け返しながら、冷えた声音でそう呟いていた。

「アタシはアンタのような存在を認めない。……けれど、戦いたくないのもまた事実なのよ」

 するとガーネット・フェニックスはそう言って、

「でも――――アンタが拒むっていうのなら、実力行使に出るしかないわね」

 続けてそんなことも呟くと――――右手で銃把を握り締めていたレヴァー・アクション式ショットガンの銃口を、ガシャリと目の前の遥に突き付けていた。

「…………仕方ない、ですね」

 そうして銃口を向けられると、遥は諦めたような独り言とともに小さく肩を落として。そうして変身を解除する――――かと思いきや。

「でしたら、私も実力行使を」

 遥はそう言って――――右手に握り締めた自分の聖銃ライトニング・マグナムを、目の前の赤と黒の神姫に対して突き付ける。

 睨み合う銃口と銃口、敵意の籠もった鋭い視線を交わし合うコバルトブルーと金色の瞳。ウィスタリア・セイレーンとガーネット・フェニックス、二人の神姫が張り詰めた緊張感の中、至近距離で静かに睨み合っていた。

「そう来たわね、やっぱり」

「貴女には悪いですが、得体の知れない方に付いていくワケにはいきませんので」

「でしょうね――――!!」

 冷静そのものな冷えた表情のまま、淡々とした口調で呟く遥に対し。相対した神姫ガーネット・フェニックスは――――セラフィナ・マックスウェルは獰猛な笑みとともに吠えると、右手で構えたショットガンの引鉄に人差し指を触れさせる。

 …………神姫と神姫、ウィスタリア・セイレーンとガーネット・フェニックス。間宮遥とセラフィナ・マックスウェルが、今まさにその刃を交わし合おうとしていた。

 神姫が備えた認識阻害の能力が故に、遥もセラも互いが互いであることを、顔見知りの間柄であることを知らぬまま。ただ今はセイレーンとして、そしてフェニックスとして。強烈すぎるぐらいに強烈な緊張感が場を支配する中、互いに神姫としてただ、静寂の中でじっと睨み合っていた――――。





(第二章『大切なヒトたちの笑顔の為に』了)

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